第十三話 転移

こうなったのは俺の失念が原因だ。静那の重大な欠損に気づいてやれなかった。


静那は俺が入ってきた瞬間ハサミから手を離し、俺に抱きついてきた。


「だぁいしゅき♪」


今は静那の辿々しいサ行の発音さえ恐ろしい。まさか静那が人を簡単に殺そうとするとは……


なんて言ってる場合じゃない。静那を退かせてまなかの治療をしたいが、ここで静那を拒否するのはまずい。


俺は静那をいつものように抱き上げ、まなかのもとへ向かう。


「ぱ……ぱ?背中…が、背中が熱いの……れす…」


目を涙でぐちゃぐちゃに濡らしたまなかがそこにいた。同時に、静那の俺のことを掴む手の力が強くなったのを感じる。


「ゆるしぁない。わたしの…わたしのことを、はじめておもってくれたこのしとをとろうだなんて……」


ちょ、脇腹痛いって


「ぜったいゆるしぁないんだから!!」


そういった静那は俺の胸から飛び降り、まなかの顔面を引っ掻こうとした。


寸前で腕を掴むことに成功する。


「静那、ダメだ。どんな理由が合っても、静那は人を傷つけちゃだめだ。」


どの口が人を傷つけるななんていうんだろう。


「お前が俺のことを大事に思ってくれてることはわかった。ありがとう。でもな、まなかも別に、俺とお前の絆を引き裂こうとしたってわけじゃない。静那だって、多分俺がいなくなったら寂しいと思うんだけど、どうだ?」


自意識過剰が過ぎただろうか。俺も図に乗っていたのかもしれない。静那の心を溶かしたのは俺だと、俺が静那のことを誰よりもわかっているのだと。


「私も、しぁびしい。」


よかった。俺の自意識過剰じゃなかったみたいだ。


「そうか。静那、まなかも寂しいと思わないか?静那だって、痛いのは嫌だろ?頼むからまなかの傷を治させてくれ。」


これで通じなかったら次はどうしようか。まなかの傷は幸いそこまで深くない。何せ静那はガリガリでそこまで力もないし。


「や。こいつはとるもん。わたしは、なんだってする。」


拒否!?マジか。自分に重ねることはできても、同情をしていないということだ。


静那は思ったより重症かもしれない。


「俺は、人の痛みがわからない人間は嫌いなんだがな。静那はどうしてもまなかを苦しめて、俺に嫌われたいみたいだな?」


少し強めに行く。少しこの子の感情を利用した形になってしまったが、仕方ない。子育て経験ゼロの俺に何を求めてんだっての。


「それはやぁ!!どうしてしょぉういういじわる言うの?」


「静那がまなかに意地悪したからだ。世の中な、自分のやったことは返ってくる。それも、悪いことだけな。いいことはそんなに返ってこないが、悪いことは返ってくる。この世で俺たちができることは、自分ができるだけ不幸にならないように暮らすことだけだ。」


これで伝わらなかったら流石にお手上げだ。


「返ってくるの?わたしはいたいのはや。いまからでも、おしぉくないかなぁ?」


でもやっぱりこの子は良くも悪くも純粋だ。そこだけは間違ってなかったらしい。


「まなかにちゃんと謝って、まなかが許してくれたら、痛いことはないと思うぞ。俺も静那を嫌いにならずに済む。」


「じゃあ、なおしてあげて!!」


正直本質的なことを伝えられてない気がするが、それはおいおいでいいだろう。当然、静那の言動には注意を払わねばならないが。


俺は慎重にまなかの傷を塞いだ。まなかは、いつの間にか気絶していた。苦痛に歪んだその表情は、まるでこの場の重苦しい空気を体現しているようで、少々気分が悪くなった。


突如、視界が暗転する。


「何があった!?静那!まなか!いるか!?!?」


二人の安否を確認するべく叫ぶが、返事はない。


「ここには誰もいませんよ。」


何者かが話しかけてくる。男とも、女とも取れそうな薄気味悪い声。最近こんな事ばっかだな。


「誰もいないとはどういうことだ。なぜこの場はこんなにも暗い。貴様は誰だ?」


まずはその3つだろう。


「私はこの世界を統べる神。エーシェスと言うもの。この場は私が唯一あなた方下界人とコンタクトを取れる場。あなたの目では、この神々しい世界を認識できなくて当然です。なぜなら神の創造せし空間ですからね。」


にわかには信じがたい発言だが、こんなことをしでかしてまで俺にドッキリを仕掛けそうな人間も見当たらない。ここは話に乗っておくべきか。


「それで、なんで下界人の俺がこんなところに?」


心を読まないだけマシな神なのだろうか。最近読んだラノベに出てくる神は読んでいた気がするのだが。


「もちろん読んでますよ心くらい。人間の考察というのは実に浅はかで的外れなものばかり。ですが、今回ばかりはこちらの不手際です。どうかお許しください。」


不手際ってなんのことだ?


「はい。あなたが身に宿しているその力。それは、この世界の理から外れたものです。しかし、なんらかの理由であなたはそれを手にしてしまった。一度世に具現化した物を消去するのは難しいので、それを消去するため、あなたは別次元の世界へと転移させられることになりました。」


そんな勝手なことがあるか?


「wait. もちろん要求はわかります。あの女子二人を共に向かわせましょう。それと、慰謝料代わりにアビリティ<カリスマ>を差し上げます。存分にお楽しみください、では。」


初めのスカした英語が気になったが、直後またもや視界が暗転し、俺は意識を失った。


〜〜〜

ようやくタグ回収です!!

これでリアリティのない話も書けるぅぅぅ〜〜

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