第十二話 悲劇
まなかの寝室は男と静那とは別の場所にある。と言っても壁一つ挟むだけなわけだが。
ある夜。いつものように静那を抱えて寝ていると、まなかが部屋に入ってきた。
まなかは申し訳なさそうにしながらも、寝ている男を揺すり起こす。
「パパ、怖くて寝れないのです。」
まなかは恐る恐る話しかける。
「ん?まなかか?怖い?どうした急に」
まなかは半分寝ぼけているのか、その場でぐずり出した。
「一緒に寝てよぉ…静那ちゃんばっかりずるい……」
彼女が何を思ってこのような発言をしたのかは定かではないが、心底寂しそうにしている彼女の言葉に、男は焦る。
「わ、わかったからおいで」
静那の抱擁によって防がれていない方、左側に誘う。
まなかは泣く泣く布団へ入ると、男の左腕に抱きつきすぐさま寝息をたて始めた。
二つの寝息が響く中、一人静かに感情を昂らせている人間が居た。
ーーーーーーー
昨日の夜、何があったのだろうか。俺の左半身はびっしょり濡れている。というのも例によって俺の前で、全裸で謝る少女のせいである。
大方の察しは付くと思うが、おねしょだ。昨日まなかはトイレに起き、そこから先の記憶がないのだという。なんでも暖かいものに包まれて寝ていた記憶はあるのだが、よくわからないそうだ。
まあ無言で掃除をする。悪意がないのだから仕方ない。
しかし、問題はそこじゃない。問題は、まなかの首筋についた痣だ。当然俺はそんなことをしない。すると可能性は二つ。不審者が入り込んだか、静那がやったかだ。
静那はそんなことするだろうか?そもそもまなかに攻撃する理由がない。静那は自分が危害を加えられなかったら基本何もしない。そんな彼女が首を絞めるという明確な殺意のこもったことをするだろうか。
首の痣のことはまなかには伝えていない。言ったらパニックになると思われるからだ。
ちなみに不審者の可能性だが、こちらは低いだろう。何せ俺が作った家だ。2度と窃盗などされてたまるか。
俺は静那に聞いてみることにした。
「静那、まなかに何かされたか?」
まずは障りのないところから聞いていく。ここ最近で、静那はだいぶ自分の思いを伝えられるようになった。
「何も……しぁれてない……。」
だとするとなんなんだ?静那は優しい子だと思っているが、自分からまなかを殺そうとしたということだろうか。静那は自己防衛でやりすぎることはあっても、自分から人に危害を加えることはない。
しかし、これは確実なことなのだろうか?
俺は施設での静那の性格を知らない。倫理観は?基本的な道徳心は?欠如している可能性もある。
俺は偶然攻撃の対象にならなかっただけで、静那は基本攻撃的なのかもしれない。欲望に忠実というべきなのか。だ
が、その考え方でいくと、まなかが静那の邪魔者ってことになる。処理をしようとしているわけだからな。
まなかは静那の何を取ったのだろうか?下着で怒るような性格じゃあるまいし。
しばらくは様子見だろうか。
ーーーーーーー
どうしてだろう。何をされたわけでもないのに、あいつに痛いことをしたい。ひどいことをしたい。めちゃめちゃにして、なかったことにしたい。
なんでここに来たんだろう。あいつさえ来なければ、あの人は私だけを見てくれていた。
昨日だってそうだ。あいつは私とあの人がせっかくいい気分で寝てたのに、割り込んできた。その時私はすごく怖いことを考えた。
昔、鳥をころしたことがある。自分はひどい目にあってるのに、なんでこいつらは好き勝手飛んでるんだろう。そう思うと無性に腹が立った。
私はその鳥を捕まえて、頭を取った。面白いことに、その鳥はもう動かなくなった。生き物は動かなくなる、永遠に。そのことに気づいた時は怖かった。同時に、興奮した。
嫌だったら、私の手で終わらせられるんだ。あれもこれもそれも、殺しちゃえばいいんだ。
だけど、簡単にはいかなかった。私は鳥を殺したから怒られた。首を絞められて、お腹を蹴られた。苦しかった。鳥も、こんなに苦しかったのかな。
でも、あいつは違う。あいつは私の大事なあの人を取ろうとしてる。あの人のためなら、私は怒られてもいい。
私はハサミを手に持つと、あいつの背中に突き刺した。赤い何かが飛んできた。なんだろう、これ。
ーーーーーーー
静那との会話が終わり、洗濯機を回そうとしたところで、まなかの悲鳴が聞こえてきた。
「どうしたんだ!」
まなかのいた寝室に飛んでいくと、そこには悪魔のような形相そ浮かべた静那が、笑いながらまなかにハサミを突き刺していた。
〜〜〜
結局やることにしました。
ダークまっしぐらです。
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