第九話 まなか

「うぅ…お兄さんごめんなさい。汚いですよね……」


俺は今9歳の女の子に泣かれながら、失禁の掃除をしている。どうしてこうなった。あの野郎、この子に着替えも持たせず置いていきやがった。案外、俺にコンタクトを取ってきたこと自体が、この子を俺に押し付けるためだったのかもしれん。なんにせよ、保護者がいなくなってしまった今、この子は俺が育てる他あるまい。


「大丈夫だ。このくらい。そんなことはどうでもいい、そこに用意した服を着て、ソファーにでも座ってろ。」


現在その子は全裸で謝ってきている。一応静那の下着、私服を用意し渡しているが、着る気配がない。家の中で着衣をしないなどの謎の性癖でもあるのかと疑ったが、別にそういうわけでもなさそうだ。そわそわしていて落ち着かないし、周りをキョロキョロと見回し、視線も忙しない。


「で、でも悪いですよぉ〜。このお洋服、私のじゃないですし、それに、お漏らししちゃった子はパンツなんて履けないって前のお兄ちゃんが言ってました!」


あいつはロリコンだったのか。(確信)


「失敗は誰にでもあるし、それはあいつのルールだ。それと、今家にある女の子用の下着は静那のものしかないんだ。悪いけど、履いてくれないか?目のやり場に困る。」


まあこんな幼い子の裸を見て興奮するほど落ちぶれちゃいない。

まあ確かに、こんな歳にもなって、緊張で失禁してしまうのはどうかと思うが、そこは何かしらの事情があるのだろう。大方アイツ(弟)のせいな気がしなくもないが。


「で、でも……」


「もしかして、自分で履けないのか?」


そういえば、服を脱がすときもあまり自分から脱ごうとはしなかった気がする。見知らぬ人の前で失禁してしまったショックからなのかと思っていたが、1人では何もできないのか?これもあの弟の教育なのだろうか。だとすると俺に押し付けた意図が読めん。


「え…その…は、はい。私、お着替えが苦手で…お兄ちゃんに着させてもらってました。自分でもできるんですけど、よくわからなくなっちゃって……」


なんで俺のところにくる女の子は問題ばっか抱えているんだ?まぁ1人は俺が意図的に引き取ったんだが。


「わかったから、こっちこい。これから慣れていけばいいからな。そんなに泣くなって。」


一応言っておくが、いくら俺とはいえ、子供にそっけない態度は取らない。コミュニケーションは得意な方である。なんせ、営業メインだったしな。本来はしなくていいことまでしていたおかげで、表面を取り繕うのは得意だ。


「うぅ…ぐすっ、ごめんなさいお兄さん……。」


「あーそれと、なんだ。これから一緒に暮らすんだ。敬語は使わなくていいぞ?お前はまだ子供だ。大人に養われて当たり前。遠慮するな。」


堅苦しいのは嫌いだからな。俺は。


「けいご?って、なんですか?」


意図せずにやってたのかこの子。それとも言葉が難しかったか?


「ですます調って言えばわかるか?俺もお前の兄弟なんだからさ、もっと軽く行こう。な?」


よく分からなそうな顔をしている。まあいいや。


っと、背中に何かが抱きついてきた。って、1人しかいないんだけどな。

後ろを向くと、案の定、心なしか不機嫌そうな静那が抱きついてきていた。実は静那、ここ数日で結構懐いてくれている。毎晩抱きながら寝ているせいなのか、本来は甘えん坊なのかよくわからないが、不快ではないので、そのままにしている。

俺は無言で頭を撫でた。


「お兄さん、その子は?」


「ん?ああ、この子は静那。訳あって、俺が引き取った。事情があって、人が苦手なんだ。配慮して接してあげてな。」


「配慮…ですか?今日からお世話になります。平野・フリア・まなかと申します。よろしくお願いしますね。」


後ろの静那がピクッと反応し、俺の腹に回している手に少し力が入った。やはりまだ人は怖いみたいだ。その表情も、どこか怯えている。


「私、何かしてしまったのでしょうか……あ、この下着、静那さんのものですよね!ごめんなさい。私がおもらしをしてしまったばっかりに……」


まなかが目に見えて落ち込む。どうやら、自分が下着を無断で借りていることで静那が怒っていると勘違いしているっぽい。


「あー、まなか。この子は基本喋らない。喋るのも苦手だ。返事をしないからって、嫌っているわけじゃないぞ。ただ、初対面の人が怖いんだ。まなかも優しく接してあげれば、自然と静那も警戒を解いてくれるはずだ。」


2人は歳も近い。打ちとければお互い、いい友達となるだろう。


警戒といえばまなか、初対面の俺に緊張してたはずなんだけど、今では普通に話せている。警戒心の薄い子なのか、少し喋れば緊張の解ける子なのか。まあなんにせよ、打ち解けてくれるのは嬉しい。半ば不本意だが、まなかとも仲良くやっていくとしよう。


「まなか、いつまでも下着じゃ寒いだろ、服着ろ服。朝食にするぞ。」


〜〜〜

まだまなかちゃんのキャラが定まってないです。どうしてこうなった。

まなかがすぐに打ち解けた理由は、おいおい明かしていきたいと思います。思ったより早く静那が懐いたのと同じような理由かも……

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