第七話 弟
とんでもない人間に会ってしまった。俺の弟である。といってもよくある歳の近い弟ではなく、15は離れている弟である。
何故弟と会うことが問題なのか。理由は大きく分けて2つある。
一つ目は単純に苦手だからだ。
実の所俺は、両親の葬式に出ていない。母親、父親ともに仲良くポックリ逝っちまったわけだが、そもそも俺は両親に恩はあっても、感謝はしていない。
もちろん、両親が望むなら俺の収入から金も出したし、弟の学費の一部だって払ったことがある。入院費、葬儀にかかる金、その他諸々。育ててもらった恩は返せていると自分でも思っている。
何故葬儀に出なかったのか。それは、どうしても外せない会議があり、葬式など行っている暇はなかったからだ。実の親の葬式に顔を出さないバカがいるかと、当時弟には説教された。15も離れてる弟に説教されるというのもよくわからんが、俺はそれに対して、お前の学費も払わんといけないし、仕方ない。両親だって自分たちが死んだせいでお前の将来に傷がつくのは望んじゃいない。俺はその時本気でそういった。
ところが、これは大きな誤解であった。両親は俺にしたような鬼教育を弟に施すことなく、ただ元気でいてくれればなどと甘っちょろい御託を並べて弟を育てていたらしい。弟のこの発言も、そんな環境から来たものだったらしい。
俺は流石にキレた。
別に俺だって好き好んでこんなところで働いているわけじゃない。小さな頃から聞かされ続けてきた「いいところに入ってたくさん稼ぐ。」この言葉に束縛されてしまっているだけだ。
クズの発言だが、俺がこのように他人を見下すような性格をしているのも、親のせいだと思う。小学生の頃から、周りの人間はお前とは違う人種だ。根本的な価値が違うと思えと言われ続けてきた。おかげで確かに俺は、価値の低いゴミどもには負けるまいと勉強ができたが、決して楽しい子供時代ではなかった。
それなのにコイツはのうのうと生きてきやがったんだ。俺の犠牲を思いもせず、楽しい時間を謳歌してきた。そのことに気付いた俺は黙ってその場から立ち去り、縁を切った。
少し考えればわかったんだ。別にこいつが悪いわけじゃないって。悪いのは格差の酷い教育を施した親だ。
それだとしてもあんまりだ。こいつの周りには、女もいて、友達もいる。俺にあったのは、少し値のはる石ころだけ。惨めにもなってくる。
申し訳ないという思いと、やっぱり鬱陶しいという思いが複雑に絡み合い、いつしか俺の中で弟は苦手な人間になっていた。
2つ目は血
なんでも、こいつが生まれる頃にはもう、父親に生殖機能は備わってなかったそうで、人工授精で作ったのがこいつらしい。両親は、子供に愛される教育をしたいという願いを叶えたかったらしく、叶(かなえ)なんて名前をつける始末。一応言っておくが男だぞ?こいつ。
俺か?俺の名前なんてものはこの際どうでもいい。問題は、こんな下手なネーミングをされているのに、実の息子である俺よりもいい生活をしていたことにある。
高校卒業まで、俺は実家で世話になっていたのでよく知っている。親に笑顔で相手してもらえて。欲しいものも買ってもらえる。俺が三歳だった頃なんて、ひらがなカタカナ、足し算引き算を必死こいて覚えさせられた。少しでも物覚えが悪いとどっから取り寄せてきたのか鞭で殴りやがるし。他の大人も、俺の不自然な痣に気がついていたはずなのに、見て見ぬふりしかしねぇ。この頃からだ。大人なんてもんはろくなモンじゃないと思い始めたのは。
結局は格差による嫉妬じゃねぇかと突っ込まれても仕方ない。だが、俺からしたら血縁というのはすごく大切だ。
そんなこんなで、俺は弟が苦手だ。
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