第六話 変化
あれから何日も経った。静那は時が経つにつれて、俺に心を開いてくれたのか最近はあまり抵抗しなくなった。しかし、生まれてからのトラウマがこの程度で解消できるとは思えない。まだまだ警戒は必要だ。
そんなことを思いながら過ごしていた、ある日のこと。朝起き、いつものように隣の静那を起こした。
「おはよう静那、朝だぞ。」
いつものように検証がてら声をかけてみる。いつもはここで怯えた表情に変わり、言うことは聞いてくれるが基本的には消極的で自分からは動こうとしない。しかし、この日は違った。
「ぉはぁ、ようぅ」
必死に絞り出したのか、その声は部屋に響くことなく消えてしまったが、俺には聞こえた。「おはよう」と言ったのだ。あの静那が。暗い目をして、怯えてばかりだった静那が。俺は舞い上がった。柄にもなく。それほど嬉しかったのだ。静那が俺の発言に反応してくれたことが。恐怖心と戦いながらも、必死に応えようと声を絞り出してくれたことが。
見た目的には小学校3、4年生くらいといっても差し支えない。そんな子があいさつができたからなんだと言うのだ。と言う人間もいるかもしれないが、そんなことが言える人間はこの感覚を味わったことがないのであろう。自分自身の努力が実ったと言うよりかは、他人の頑張りを実感する瞬間というべきか。俺は生まれてこのかた、他人に何かを頼んで成功した試しがない。
静那は成功させて見せたのだ。自分は怯えるだけの人形ではないと俺に知らしめた。
歓喜極まった俺は、静那を抱き上げ、強く抱擁した。警戒したように身をこわばらせた静那だったが、その後、俺の首に手を回してきた。俺の肩に頭を乗せると、向こうからしがみついてきた。
これが、人から必要にされているということなのか?俺は今、確かに静那に甘えられている。これは何故か?俺は静那を保護者として愛せていたのだろうか?実験まがいのことをしてトライアンドエラーなどと言い、静那で様々なことを試していた俺が?そんな資格はあるのだろうか。人間としての心など捨ててしまった俺が。人間として生きることを諦めた人間が、一丁前に人間面して子育てなどしていいのだろうか?元々静那も暇潰しという名目でもらってきた。
そう考えると、この現状を嬉しく思っていいのかすらわからなくなってきた。
結局、俺はこう結論づけた。無責任に静那を愛し、愛されてしまったのだから最後まで愛し尽くさねばならない、と。
静那は信頼してくれているだけで、別に愛してくれているわけではないかもしれない。だが、静那は根本的には言い子だ。なんせ、自分の手で傷つけてしまっていることでさらなるパニックを起こすような子だ。痛い目にあっているぶん、他人には優しくできるのかもしれん。もっとも、虐待をするような親からこのような天使が生まれた理由はわからんが……。
とにかく、静那は家族として俺のことを愛してくれると思う。この子の面倒を最後まで見きろう。そう改めて決心した瞬間だった。
〜〜〜〜
主人公は色々とくだらないことで永遠と悩みます。私にそっくりですね。
静那の発語が思ったより早かった……
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