第五話 心情

 静那のトラウマに悩まされることもあったが、特に事故もないまま、今日も一日が終わった。今晩も一晩抱いて寝なければならないのだろうか?まぁ、苦ではないので問題はないがな。


 ーーーーーーー


 あの場所を離れて、この人の元にきたのがちょっと前。私は怖かった。前の場所にいれば、どんな時に何をすれば痛いことをされないか、どうすれば平和に暮らせるか、わかっていたがここでは違う。この不思議な雰囲気を持つ人はよくわからない。今のところは何もされてないけど、いつ本性を表すかわからない。どうせ、この人もあいつらと変わらない。だったらやることは一緒。ひたすら静かに、目立たず、この人の真似だけしてれば、無駄に騒がしい奴らのようなことにはならない。


 終わりのないこの生き方、いつ終わりが来るんだろう?楽しくない…でも、無駄に騒がしいあの子達はどこか楽しそうだった気がする。あんな風に生きれば私も?でも、もっと痛いことをされるだけだ。痛いことをされるのって本当は楽しいことなのかな?私は辛いだけだから嫌なんだけどな…


 蹴られたり叩かれたりする時、その人の顔を見ればわかる。自分のことを道具としか見てないって。同じ人間として見てくれてないって。だから尚更辛い。この人の中に、私は見えてないんだなって思うと、涙が出そうになる。けど、泣くともっと酷くなるから泣けない。体の真ん中が痛い。なんていうか、ぶたれるのとは違う痛み。キュッとなって、すごく泣きたくなる。泣いていた頃はあんまり痛くなかった。泣けばちょっとは楽になった。涙と一緒に痛みが流れていった。それに気づいたのは泣かなくなってからだけど…


 言われてることも段々とわかるようになった。でも、あくまで酷いことをされる原因やなんで怒ってる原因に関係する言葉だけで、初めてすることや初めて聞く言葉は全くわかんない。例えば今朝の頭をジャージャーするやつ。洗うって言葉はわかるけど、頭を洗うってのがよくわからなかった。頭を雑巾で拭くのかな?わかんなかったけど、絵を使ってくれた。きっと昨日引っ掻いちゃったのを気にしてるんだろうな。私は頭だけは触られたくない。なんだかよくわかんないけど、頭を触られると悲しいのと寂しいのがいっぺんにきて、頭が真っ白になっちゃう。そうするともう自分を守ることしか考えられなくなって、何をしたのかさえもわからなくなる。何をしちゃうかわかんないから、触られないように頑張るけど、それでぶたれることの方が多い。頑張って抗うけど……


 同じようになるのが夢の中。眠ると必ず黒いなにかに髪の毛を引っ張られて壁に投げられる。夢中で叫ぶ。体をあちこちぶつけて痛い。そのなにかの顔をみるとやっぱり、無表情。棒を振り回すのと同じように思ってるみたい。やっぱり悲しい、寂しい。

 でも、昨日は違った。いつものように黒いのは出てきたけど、それから守るように、私のことを守ってくれるものがあった。それはとてもあったかくて、ずっとそこに居たくなるような不思議な雰囲気だった。あれの中なら、私は笑ってられる。そんな感じだった。


 今日も、守ってくれるかな……怖いのは嫌、痛いのはもっと嫌。

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