第三話 静那

 あれから夕食をとり、風呂に入ったが静那が目覚める様子はない。だが、なんとなく1人にするのは気が引けたため、静那が寝ている部屋に俺のベットを移動させ、そこで寝ていると


「ううっ、いやぁ、あああああぁ!!」


突然唸り声が聞こえてきた。俺は跳ね起き、辺りを見回す。すると、隣の静那がうなされていた。


「またこれか…」


これは当分、静那のトラウマと共に過ごすことになりそうだ。


ーーーーーーー


「こっちみんなよクソガキが!アンタ見てるとイライラすんのよ!」


容赦なく顔面に放たれる平手打ち、蹴りに彼女はひたすら耐えていた。初めの方は痛かったし、大声で泣き叫んだりもしたが、いつしか彼女は理解した。そんなことをしても何も解決しないと。何にもならないなら、無駄なことはやめて、石のようにただそこに入ればいい。そう思うようになった。


「は?何よその目。誰がアンタみたいなクソガキを育ててやってんだよ!」


一際強い蹴りが放たれ、彼女は床に転がる。しかし、何もしない。流れに身を任せていれば、早く終わることを知っているからだ。いつもなら、母親はそのまま酒を飲んで寝るのだが、その日は違った。


「そこまでです、〇〇さん。その子は我々児相が預かります。」


いきなり知らない人が入ってきて、彼女の腕を掴み、何処かへ連れて行こうとした。恐怖を感じた彼女は、散々なことをされてきて尚、母親に助けを求めたが、その母親は見向きもせず、必死に言い訳をしている。しまいには、「アンタなんか生まれなきゃよかったのよ!」とヒステリックに叫び、警察に連れて行かれた。


児相に保護されてからも、やることは変わらなかった。どうせまた痛いことをされるのだから、何もしない。まだ小さな彼女が受けた虐待による一番大きな爪痕は、他人を信用できなくなることであった。何を言っているのかわからないし、何をすればいいのかもわからない。ずーっと何もない空間を見つめていた。最寄りの児童養護施設でも、どうすることもできず、結局、辺境の孤児院に連れて行かれたのであった。こういうことはよくあることで、回復の見込めない子供たちの存在を、小さな孤児院などを用いて隠蔽をする。そういう『処理』をされる子供は大抵何かしらの大きな障害があるか、人とのコミニュケーションが極端に取れなかったりする。彼女の場合、コミュニケーションに難があった。めんどくさい子供に使う時間があるなら、宣伝用の子供を保護した方が遥かに効率的だ。結局、めんどくさいことに巻き込まれたくないのは、どこも同じである。


 孤児院での生活も、今までとなんら変わらなかった。ただ、暴行を加える大人が増えただけである。少しでも職員の気に食わないことがあると、子供たちは暴力を振るわれる。それでも気丈に振る舞い、人生を無意識下で楽しもうとする子供が大半だが、一部の心の折れた子達は違い、感情を押し殺し、自己防衛に努めた。無論、攻撃をされれば最低限の威嚇はするが、そもそも気に触るようなことをしなければいいのだから問題ない。静那はこのような子供の1人で、生き抜くのが上手い子供の1人であった。


ーーーーーーー


 結局早朝まで抱いて寝ることになった。まあ、苦ではなかった。この短時間であるが、俺はこの少女に同情してしまったらしい。

安心して眠る様を見る自分も、安心していた。


〜〜〜〜


文中、批判的な描写が入りましたが、あくまで物語を進めるための都合であり、作者自身、某組織を批判している訳ではありません。誤解のないようお願いします。

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