第二話 慣れと孤児
この能力が使えるようになってから数日。能力の感想を一言で言えばチート。マジでなんでもできる。毒物も、命じるだけで効かなくなるし、自然現象もある程度起こせる。野菜も、土を生み出してその土に命じるだけでできる。味も、舌に命令すれば完璧だ。俺は自分では作れない物を調達した。スマホなどの機械類だ。俺の発想力ではどう命令すればできるのか、思いつかなかったからだ。金は出した金属を加工すれば一発だったし、戸籍は体をいじって適当に作った。次に衣服。これもよくわからん。変なものを作るくらいだったら買おうと思い、テキトーに買った。家は簡単だ。有り余る金で広大な土地を買い、土を出す能力によるレンガで大体はできる。植物を操る能力で木も最高級なものを作れるし、万々歳だ。家具も、高級なものを金の限り買い、ちょっとした豪邸のようになった。
*
ある程度生活を楽しんでいると、あることに気づいた。暇だ、暇。何か日々刺激をくれるものが欲しい。ペットはめんどくさいし、ある程度成長した子供が欲しいな。捨てようと思ったら捨てられる程度の。矛盾するようでなんだが、小さい子は結構好きだ。単純に癒される。結婚はできなかったが、2人きりで暮らすのも悪くないと思う。そこで、孤児をもらった。向こうでも手を焼いていた子だそうだ。可愛いが、過去に酷い虐待を受けていたらしく、普段全く言葉を発さない。また、基本的に表情がなく、いつも漫然としているそうだ。他にも子供はいたが、まぁうるさい。静かな方が好きだからな、俺は。自分の環境に妥協はしないのだ。
さて、例の子を家に迎える日がきた。その前に名前をつける必要があるらしく、名前をつけて初めて、公式に引き取ったことになるらしい。よくわからん。書類で一発だろ。所詮は無能か。
家に来られるとなんかめんどくさい気がしたので、孤児院へ向かう。車の免許を取る時間などなかったので、歩きだ。かなりの距離があるが、例の子は歩けるだろうか?普段は部屋にずっといるようで、体の状態としては健康だが、動きたがらないのだという。体力が心配だ。まぁ、これからあの家に住んで、例のごとく貴族のように暮らすのだから、問題はないか。名前はどうしよう。俺は物に名前をつけたことなどない。正直すごく悩む。テキトーでも大丈夫かな。まぁ、つけられなかったらつけられなかったで、強引に連れ去るか。
「こんにちは。迎えにきました〇〇です。」
「あら、ようこそいらっしゃいました。こちらへどうぞ。」
あの事件から、成人した人間と話しているとイライラするようになった。何故かはわからないが、癪に触る。
「この子です。」
うん。写真で見た通り可愛い。連れてこられる時も無抵抗で、確かに漫然としている。
「名前はどうしますか?」
ほんとにムカつくなこいつ。ちょっと黙ってくんないかな。でも名前どうしよう。この子の特徴は…静か、女の子、位しか思い浮かばない。活発的じゃないとのことなので、おしとやかで可愛らしい名前にしよう。
「静那(しずな)で。」
「わかりました。では、こちらの紙にサインを。」
あるんじゃねぇか。はじめからそれ出せ。
*
さて。無事引き取れたわけだが、さっきからすごくビクついている。まぁ、理由はさっきの職員に話されたわけだが。この子改め静那は以前別の人間に引き取られたが、数日で戻って来たそうだ。理由はこれまた虐待。静那に問題があったのか引き取り先の頭がおかしいのかは知らないが、さすがの俺も引く。将来が分かりきっているような可哀想な子にそこまでするか?いくらなんでも残虐すぎる。
しかしあれだな。なるべく足跡がつかないようにと、いなくなっても子供らにわからなそうな静那を選んだのだが、失敗だったか?静那は風呂に入っていた形跡などなく、髪もボサボサである。そもそも学校にも行かせてないと見える。この様子だと、手を焼いたというのは言い訳か?顔立ちは整っているのだが、これでは台無しだ。帰ったらまず、風呂に入れるとしよう。
*
絶対風呂入れてないな。あそこの職員。まぁ建物に入った時点で変な匂いがしていたし、予想はできたがな。脱衣所で服を脱がせると、所々痣が目立つ。全く言葉を発さないのは向こうでも虐待を受けていて、人間不信になっているからじゃないのか?何をされても痛いから何もしない。一番賢い選択だ。服を脱がせても反応なし。静那は嫌がる素振りも見せない。しかし1人で入浴できるのか?俺は試しに、静那をシャワーの前へ連れてった。ほんのわずかだが、表情がこちらへ問いかけるようなものへと変化した。ダメか。仕方なく俺も中に入り、静那にシャワーを浴びせた。一瞬、びっくりしたようでビクッと体を硬らせたがすぐに元の雰囲気に戻った。完璧に感情を押し殺しているわけではなさそうなのでよかった。まずは頭を洗おうと、シャンプーを手につけ、髪に近づけようとした時、不意に手に鋭い痛みが走る。すると静那が、獣のような形相でこちらを睨み、爪の伸びた手で威嚇するように立っていた。おそらく、頭に関する酷い虐待を過去に受け、トラウマとなり、パニックになってしまっているのだろう。俺が何もせずに静那をただただ見つめていると、静那が急に叫び出した。
「ヤァァァアアア!!」
どうしたものかと一瞬焦った俺だが、手の傷を例の能力で即座に直し、叫び続ける静那を抱きしめた。不安にはこれが一番だと、なんかの本で読んだ気がする。
「ヤァァァ!!ャァァァァ!!」
恐らく不意に襲ってきた謎の感覚が怖いが、それを他人に知らせる術がないため、どうしようもなくなってただただ襲いかかる恐怖に叫ぶことで抵抗しているのだろう。俺は抱きしめたまま、背中をそっと撫で始めた。
「???」
また体を硬らせるが、声がやんだ。しかし、また何かに怯えるように体を痙攣させ、叫び始める。俺はより強く、だが優しく抱擁をする。また泣き止む。この状態で耐久すすること数十分。泣いていたのか時折動いていた体が止まった。何事かと顔をみると、不安と安心の入り混じった顔で寝ていた。叫び疲れたのか?まぁなんにせよ、予想外の出来事だった。
俺は静那をそっと持ち上げ、体を拭き、無駄に数ある部屋の一室に寝かせた。ふと窓をみると、外は真っ暗になっていた。時が経つのは案外早いな。なんにせよ、長く、想定外のことの多い1日だった。
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