都合無双

Chiroro1023

第一話 覚醒

ん?あの扉開いてるの、うちじゃないか?鍵はきちんとかけてるはずなのに…空き巣か?家にあるアレが盗まれたらマズイ。


……嘘、だろ。金目のものはもちろん、金庫の中身まで綺麗さっぱり消えてやがる…。唯一趣味と言える、宝石集め。安価なものから高価なものまで様々あり、中には50万を超えるものもあった。綺麗なものがとにかく好きなのだ。それがすっぽり消えている…。一緒に入れておいた通帳もだ…。




ははっ、もうどうでもいいわ。何をするまでもなくコツコツと働いてたのにこの仕打ち。神がいるとしたら俺に僅かな娯楽さえも許してくれないのか。


俺は、どこへいくでもなく、路上をフラフラと歩いていた。都会の夜は騒がしい。でも、誰もが楽しそうだ。皆、どうやってこの時間を作っているのだろう。


「でさー、めっちゃおもしろかったよねー」


うるさい。


「マ?それはやりすぎっしょ」


うるさい。


「今度映画行かない?」


こいつ煽ってんのか?


バチンっと皮膚と皮膚がぶつかる嫌な音がする。気がつくと俺は、目の前にいる人に平手打ちを容赦なく放っていた。


「え?こいつマジか?」


パシャ、パシャとものめずらしそうに写真をとる人々。


「うっせぇなお前ら。見せもんじゃねぇぞ?俺は。」


いうが否や、目に入る人という人を殴り飛ばした。


「こっちです!」


やばそうな声が聞こえる。


「やめないか!」


その声を聞くと同時に俺は後ろから羽交い締めにされ、地面に叩きつけられた。手に触れる冷たい物。それが罪人にかけられる物だと認識するのに、そう時間は掛からなかった。


「やめろ!俺は何もしていない!俺の邪魔をするやつらを始末していただけだ!」


「こいつは頭にきてそうですね。どうしますか?警部。」


「とりあえず拘束だ。足を掴め。」


「了解」


俺は足を掴まれ、車に突っ込まれた。




……何故だ?何故俺がこんな仕打ちを受ける?小学生の頃から必死に勉強して、中学、高校と名のあるところに入り、それでも必死にトップを取り続け、いい大学、いい会社と親が望んだ通りの人生を送った。親が死んでも、出世し、今では部下にも慕われている。頑張ってきたのに…娯楽時間を極限まで減らし、挙句石っころの鑑賞だけにし、そこまで会社のために努めた。誰よりもいい人生を送ろうと必死になってきたはずだ。なのに何故、俺は幸せではない?周りにいる、ガヤガヤうるさい人生の負け犬共はあんなにも幸せなのに、どうせろくな人生じゃないに決まってる。そんな奴らを殴って何が悪い?俺が社会から消えれば会社に大ダメージだ。使えない部下、ろくに仕事もできない上司。そのカバーを全て行ってきた。その俺がいなくなるんだ。会社も終わりだな。ハハッ、そう思ったら途端に嬉しくなってきた。ザマァねぇなクソ社長。どいつもこいつもろくなやつじゃねぇ。でも、どいつもこいつもどこか幸せそうだった。あーあ、クソみてぇな人生だった。こんなところで終わりたくねぇ…。


どうなってんだ?ついに幻覚でも見るようになったのか?心なしか手が光っている。と思ったら手そのものが消えた。どこに行ったんだ?今度は背中から生えてきた。ご丁寧に手錠付きで。


ん?つまり…俺は手に、太くなれと命じた。手がどんどん膨らむ。手錠が手に食い込んで痛いが、どうせ詰んでる人生だ。気にならない。


……ついに手錠を引きちぎった。警官の驚く顔が見える。あー、こいつの顔が爆ぜればなぁ。ムカつく面しやがって。爆ぜろと口に出す。警官がキチガイを見るような目でみてくる。当たり前だ。こんな仕打ちされて、気が狂わない奴がいるのか?突然、鳩尾の辺りからオレンジ色の光が光った。顔に液体がかかる。ん?これよくみたら血じゃん。前を見ると、首から上がなくなっている警官の姿があった。これは…俺は試しに、車のタイヤがパンクするように願った…が、何も起きない。見当違いだったか?それとも強さが足りない?願望ではなくなんだ?どうとでもなれ。太くなれ、爆ぜろ。いずれも命令形?パンクしろと命じてみる。パトカーが大きくスリップした。電柱にぶつかり、先ほどからどうした?しか言わない使えない人間の代表格みたいな人間の頭が潰れていた。いい気味だ。さて。手錠を引きちぎったとこが痛い。治れと命ずるとすぐ治った。いいな、この力。非現実的だし、明らかに都合が良すぎるがなんでもいい。俺は手を元の位置に戻すと、新たな人生への一歩を踏んだ。

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