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読み終わって顔を上げると、彼は目を覚ましていて、私をじっと見つめていた。黙って待っていてくれたのか。
「勝手に解決編読んじゃったんですか・・・叔父さんの推理聞きたかったなぁ。」
「寝てたから起こすの悪いと思って。というのは建前でね、正直犯人が分からなかったから、ってのが本音だよ。一応推理作家なのに、恥ずかしいよな。」
彼の前だとどうも調子が狂ってしまう。
「全然恥ずかしくなんてないですよぅ。比べると悪いですけど、僕だって一度も犯人当てれたことなんてないですから。でも、叔父さんの悩む顔は見てみたかったなぁ。」
ロッキングチェアを揺すって本当に悔しそうに呟く。
ああ、私もこんなふうに他人をあっと言わせたくて書いていたんだなぁと、今になって思った。
「でも、本当に上手く書けてると思うよ。脚本らしくスピード感があるし、最後まで誰が犯人か想像つかないし。もしかして座敷わらしがいるんじゃないかとすら思わせる辺りやるなぁ、と思ったよ。」
「本当にいるなんて思ってない癖に、叔父さんも褒めるのが上手だなぁ。」
そう言いながらも満更では無さそうだ。
「涼と涼介のところの叙述トリックなんて、中々ミステリ通だなぁと思ったよ。最初の注意書きが伏線だったとはね。」
彼はニヤリ、と笑った。
「やっぱり叔父さんなら分かってくれると思ったよ。やっぱりこうして分かってくれる人がいるってのは良いね。」
そうか。分かってくれる人がいることがこんなに幸せなことだったのだ。自分で伝えたいこと書いて、それだけが全てじゃないんだ。読者がいて、その人たちを巻き込んで、一つの立派な作品になっていくんだろう、と今更ながらに思った。
「そうだ、今書きかけの小説があるんだけど、ちょっと見てみないか。」
「え!良いの?」
これが私なりの感謝の表明であると、伝わっていれば嬉しい。
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