8

 読み終わって顔を上げると、彼は目を覚ましていて、私をじっと見つめていた。黙って待っていてくれたのか。

「勝手に解決編読んじゃったんですか・・・叔父さんの推理聞きたかったなぁ。」

「寝てたから起こすの悪いと思って。というのは建前でね、正直犯人が分からなかったから、ってのが本音だよ。一応推理作家なのに、恥ずかしいよな。」

彼の前だとどうも調子が狂ってしまう。

「全然恥ずかしくなんてないですよぅ。比べると悪いですけど、僕だって一度も犯人当てれたことなんてないですから。でも、叔父さんの悩む顔は見てみたかったなぁ。」

ロッキングチェアを揺すって本当に悔しそうに呟く。

 ああ、私もこんなふうに他人をあっと言わせたくて書いていたんだなぁと、今になって思った。

「でも、本当に上手く書けてると思うよ。脚本らしくスピード感があるし、最後まで誰が犯人か想像つかないし。もしかして座敷わらしがいるんじゃないかとすら思わせる辺りやるなぁ、と思ったよ。」

「本当にいるなんて思ってない癖に、叔父さんも褒めるのが上手だなぁ。」

 そう言いながらも満更では無さそうだ。

「涼と涼介のところの叙述トリックなんて、中々ミステリ通だなぁと思ったよ。最初の注意書きが伏線だったとはね。」

彼はニヤリ、と笑った。

「やっぱり叔父さんなら分かってくれると思ったよ。やっぱりこうして分かってくれる人がいるってのは良いね。」

そうか。分かってくれる人がいることがこんなに幸せなことだったのだ。自分で伝えたいこと書いて、それだけが全てじゃないんだ。読者がいて、その人たちを巻き込んで、一つの立派な作品になっていくんだろう、と今更ながらに思った。

「そうだ、今書きかけの小説があるんだけど、ちょっと見てみないか。」

「え!良いの?」

これが私なりの感謝の表明であると、伝わっていれば嬉しい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る