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第12幕
(京太郎が廊下を進んでいく。)
練「ちょっと待てよ!どこに行くんだ?」
(京太郎振り返る。)
京「三組さ。それしかないだろ。」
侑「三組は鍵が掛かってるんじゃないの?また蹴破るって言うの?」
京「いやそれがね、多分三組には鍵が掛かっていないんだよ。」
侑「掛かってるって言ったのは京太郎じゃない!」
京「まあ、そうなんだけどね。取り敢えず行けば分かるよ。」
(京太郎速足で進む。二人は追いかける。
(三人はドアの前へ。)
京「じゃあ開けるよ。」
(京太郎が勢いよくドアを開ける。)
侑「あ!開いた!」
練「お、おい。どうして全員がいて、倒れてるんだよ。」
(二人が呆然としている中、京太郎は倒れた三人のもとへ進む。)
京「なあ、起きてるんだろ。涼。答え合わせといこうじゃないか。」
侑「え、何言って・・・」
涼「そっか。ばれてたのか。」
(涼、立ち上がる。)
侑「どうして!涼君があんなこと出来るはずがないじゃない!」
京「いや、涼以外には出来なかったんだ。」
練「でも、部屋から突然消えたりするなんてありえないじゃないか・・・」
京「うん、そうだね。でも、不可解に見える謎には必ずトリックがあるのさ。それじゃあ、答え合わせといこうか。」
第13幕
(京太郎、静かに部屋の周りをまわる。)
京「まず、僕らを悩ませた大きな謎は三つ。まず練が誰かを見て、その服が教室に残されていたこと。次に、二組にいたはずの涼介がいなくなってしまったこと。最後に朱梨がいなくなったこと。まあ最後のは、謎というほどでもないけどね。」
侑「練がいなくなったのだって・・・」
京「それは涼がやったことじゃないよ。まあ順を追って話すから。んーと、まず、初めの事件について僕らが発見した事実を挙げていこうか。侑希挙げてみてくれる?」
侑「ええと、練がトイレを出た後、変な音を聞いて、それで見に行ったら・・・」
京「違う違う。僕が聞いたのは、後から入ってきた僕らが発見できたことだ。僕らが事実と確認できたことは?」
侑「それだって、何も変わらないじゃない!」
京「それが僕らの悪い癖だよ。あたかも自分の体験のように語るのはよさないと。じゃあ、僕が代わりに言ってしまうよ?取り敢えず、あの時分かったのは、五組の床に赤い液体がついていて、制服が落ちていた。それだけだよ。」
侑「そうね、そうだったわ。」
涼「それで?」
京「あの時、他のみんなは一緒にいた。涼が鍵を開けてから外部の人は入って来てないし、もしその前からいたとしても隠れる場所が無かった。一組を調べてもらったのはそのためだよ。因みにぬかるんだ地面に足跡が無かったから、誰も出て行っていないことも分かる。」
練「あぁ・・・」
侑「だから?」
京「だから、練は誰も見ていなかったんだよ。」
侑「そんな!その可能性は否定したんじゃなかったの?」
京「いや、否定したのは、練が自分で血のりと服を持って行って自作自演をした可能性だよ。確かにこれは無い。でも、確かに三階にそれらがあるのを僕らも見た。だからあり得るのは、初めからそれらが三階にあったということだけだよ。」
侑「そんな・・・!」
京「すると、何かしらの意思を持ってこれができたのが三人。僕らより前に来ていた、涼と朱梨と涼介、の誰かが犯人ってことになる。」
侑「待って待って!練はどうしてそんな嘘をついたの?」
(練は俯いている。)
京「取り敢えず、理由は後回しにしよう。事件解決が先だよ。」
京「誰がやったかはこの時点では絞り込めない。するとそこで次の事件が起きる。侑希、次の事件で侑希が確認できたのはどんなこと?」
(侑希、腕を組んで考える。)
侑「涼介が部屋から消えた・・・じゃなくて。京太郎が、二組で涼介が倒れているっていうから来てみたら、赤い液体が床についていた。」
京「そうだ。上出来だよ。でも今度は、僕がこの目で確実に涼介が倒れているのを見た。命を懸けてもいい。」
(練、顔を少し上げる。)
練「それなら、誰かが涼介を運んだか、涼介が自分で動いた?」
京「あの短時間では運べないね。涼介が自分で動いたってのもあり得ない。」
練「それはどうして?」
侑「京太郎がドアに髪を挟んでおいたのよ。それが挟まれたままだった。うつ伏せで倒れていた涼介には、そんな仕掛けがあるとは分からなかったはず。もし自分で出たなら髪がなくなっているはず。こういうこと?」
京「完璧だ!その通りだよ。涼介は倒れた場所から出て行ってないし、誰かが運んだこともない。でも確かに、二組にはいなかった。」
練「それじゃあ、やっぱり・・・」
(練後ずさり。)
京「まだ幽霊が見えてるのかい?ここから分かるのは、涼介が倒れていたのは二組じゃないってことだ。」
侑「そんなっ!」
京「僕らが駆け付けたのは確かに二組だった。一組の隣にあったからね。これはみんなが確認してるから確かだろう。」
(侑希、頷く。)
京「するとやはり、涼介が倒れていたのは二組じゃ無かった、これ以外にはあり得ないね。確かに、僕が、涼介が倒れているのを確認した後、見たドアのプレートには二組と書いてあった。二組だと思わされていたんだ。」
練「誰かがプレートを入れ替えていた?」
京「そうだ。三組のドアに二組のプレートを入れておいたんだろうね。三組は鍵が掛かっていると思ってたから、疑うこともなかった。」
侑「三組に鍵はかかっていなかった?」
京「そうだ。取り敢えず犯人の行動を振り返ってみようか。三階を探索した際、何らかのトリックで三組が鍵のかかった部屋に見せた。この時点では犯人は涼と涼介の二人のどちらか。その後、僕に涼介が二組で倒れていると見せかけた。僕がみんなを呼びに行った段階で、プレートを元に戻して、僕の髪の毛を二組のドアに挟んだ。僕の咄嗟の行動のおかげで犯人が絞れたわけさ。僕の行動を監視できたのは涼しかいなかったんだよ。」
(しばらくの沈黙。)
侑「それじゃあ、練と朱梨が消えたのは?」
京「練はずっと侑希と朱梨のそばにいたし、涼も三組の中にいた。それでも練が消えたのなら、それは練が自分の意志で消えたとしか考えられない。違うか?」
(練、頷く。)
京「理由は後だ。朱梨のはもっと簡単だよ。三階にいたのは涼と朱梨だけだったし、突然飛び出して、薬で眠らせたりするだけで充分さ。座敷わらしが頭になかったなら、誰でもこの時点で気づいただろうね。中々気づけなかったのは、やっぱり、この雰囲気に呑まれてしまったからだろうね。」
侑「そんな・・・」
京「これで合ってるかな?」
(京太郎、涼と向き合う。涼は目を逸らしながらも頷く。)
涼「うん、さすがだよ京太郎は。思ったより早かったから時間が足りなかった。」
(そういって窓に駆け寄り、身を乗り出すが、京太郎が慌てて止める。)
京「死ぬなよ。お前には説明する義務がある。動機の詮索なんてしたくはないが、何か伝えたいことがあったんだろ?後、練もだ。練の行動で僕らも随分と攪乱させられたんだ。」
(涼、練、項垂れる。)
涼「じゃあ、僕から・・・」
第14幕
涼「みんなに復讐しようと思ったんだ。母さんを苦しめたもので。」
京「それは・・・」
涼「思い込みだ、推測だ、レッテルだ、人間の弱さだ!母さんは自殺したんじゃない、殺されたんだ!」
(沈黙。)
涼「一年前、父さんが捕まったのは覚えてるよね?捕まるのは当然だったし、何でそんなことしたかなんてどうでもよかった。ただ、母さんとの生活を守っていくのに必死だった。でも、みんなは違った。怪奇的な犯罪には、大それた動機や、背景事情があるとばかりに、僕らの詮索ばかりした。でも、そんなの分かるはずがないんだ。父さんは家で多くを語らなかったし、僕たちも知らなかった。でも、それで良かったんだ。父さんとの楽しい思い出は嘘じゃ無かったし、父さんは自分の罪と向き合って、僕らはそういう現実の中で生きていく、それで充分だった。」
京「それでも周りは・・・」
涼「納得しなかった。記事になるようなスクープが無い、理由が無いなんておかしい。そう言って、あることないこと噂するようになった。家庭状況が複雑だったから、悩みを打ち解けられる場所が無かったから、とかね。犯罪者の家族、それならまだ受け入れられたんだ。でもいつの間にか僕らは犯罪者同然だと言われるようになった。」
侑「そんな・・・涼のお母さんは・・・」
涼「好奇心なんてもんじゃない、弱さだ。分からないままが嫌だから、なんだか怖いから、都合の良いように解釈する。そこに現実なんてない、僕らのことなんて頭にない。何だかそれは、とても虚しかった。怒りもあったけど、当事者になるまでそんなことをしてきた自分がいて、すごく情けなかった。それでも、僕らは生きようとした。ああ、実際は僕だけだったみたいだけど。」
(涼、寂しそうに笑う。周りはその様子をじっと見ている。)
練「涼のお母さんは俺らのせいで・・・」
涼「僕が生活するのに困らないような分のお金を残して自殺した。辛かったし、僕も死んでしまいたかったけど、みんなが死なせてくれなかったね。罪を母さんに押し付けて、分かったふりをして、僕を慰めた。みんなは良かれと思ってしたんだろうけど、母さんの苦労や辛さは誰にも伝わらずに、犯罪者のレッテルを貼られたまま死んでしまったんだ。それが悔しかった。何とかして伝えてやりたいと思った。」
京「それで今回・・・?」
涼「うん。練が幽霊が出るって話を持ってきたから、ここしかないと思った。トリックは大体京太郎が言ったとおりだよ。」
京「どうして殺さなかったんだ?僕が言うのもなんだけど、殺してもおかしくなかったんじゃないか?」
涼「一度は考えたんだけど、それは無いなと思った。それじゃあ、母さんは喜ばないし、それに僕が勝手に思い込んだまま殺したりしたもんなら、報われないでしょ。それにみんなは優しいって分かってたから。壁の落書きを消してくれてるのだって分かってたし。まあ、だからこそ、みんなにあんなこと言われた母さんは悲しかったんだと思う。」
練「どうして、どうして言ってくれなかったんだよ!言ってくれてたら、涼の母さんのことだって・・・!」
(練座り込み、顔を伏せる。)
京「よせよ。そんなこと気安く言えるもんじゃない。それに言いにくい環境を作った僕らのせいだ。本当に悪かった。こんなので許されるとは思わないけど、本当にごめん。」
(京太郎、頭を下げる。)
侑「ごめんなさい。ごめんなさいっ!」
(侑希、頭を下げる。)
涼「いや、僕も悪かったんだ。練の言う通り、説明すれば良かった。説明しないで分かってもらえるなんて傲慢だね。今までごめん。でもみんなに伝えられて良かった。」
(練が顔を上げる。)
練「これで終わりみたいに言うなよ。これからじゃないか。涼の母さんをこれ以上悲しませちゃいけない。」
(涼、少し笑顔になる。)
涼「そうだね。」
侑「でも、私たちに何ができるのかしら?」
京「一つ一つやってくしかないさ。現実を見つめて、安易に簡単な、時には魅力的な解答に逃げて、考えることをやめてはいけない。そうだろ?」
涼「そうだね。座敷わらしなんていないんだよ。きっと。」
練「取り敢えず、二人を起こさないと。」
(練が二人に駆け寄る。その行く手を侑希が遮る。)
侑「ちょっと待ちなさいよ!まだ、あんたの動機を聞いてないわ!」
(練、動揺する。)
練「えっと、それは・・・」
京「それは僕も気になるな。」
(京太郎は笑っている。)
練「京太郎は、どうせ分かってるんだろう?」
(京太郎は練近づき、練の耳元で囁く。)
京「侑希に構って欲しかっただけ・・・?」
練「うわぁぁ!それ以上言わないでくれ。こんな雰囲気で言えるはずないの、分かってるだろ。」
京「でも、自分の思いは伝えないと駄目じゃないか。今の話、聞いてなかったのか?」
(侑希が、二人に近づいてくる。)
練「それは分かってるけど・・・明日!明日必ず告白するからっ!」
(涼と侑希は怪訝そうにする。京太郎は笑っている。)
侑「告白?告白って何よ。今じゃダメなの?」
練「今!?今は勘弁してくれ。まだ心の準備が・・」
京「まあ、明日には話してくれるんだから、明日まで待とうよ。取り敢えずはそう、幽霊のせいってことで・・・」
了
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