第20話
「絶対に許さない……」
マリエッタはギリギリと歯ぎしりする。何故自分が罪人として処罰されなければならないのか。何もかもあの不出来な妹のせいだと恨みを募らせる。
マリエッタは貴族だ。それも高位の。そのおかげで、貴人用の牢に入れられ、罪人としては破格の扱いを受けていたにもかかわらず、そんな事実はまるで目に入らない。二年もの間投獄され、ようやく家に戻れたと思えば、父親の冷遇が待っていた。
――お前はもうリンデル家の名を名乗ることは許さん。
事実上の除籍だった。
嫁に出すのも恥ずかしいと、今は家の使用人として働かされている。
リンデル家の使用人達は、主人の価値観によく似た者達ばかりで、彼女に対する扱いも辛辣だ。リンデル公爵と同じ恥さらしという言葉を好んで使い、マリエッタを嘲った。
お嬢様、お嬢様といってへりくだっていた者達が、今では手のひらを返したような扱いをする。これ以上ないほどの屈辱だ。魔術で仕返ししようにも、父親に魔術そのものを封じられていてどうにもならない。
リンデル家の血の束縛は強固だ。血族結婚を繰り返したがゆえの特徴で、主人となった者が一番強く、逆らえばこうして力を封じることも出来る。
マリエッタにとっては、貴人用の檻よりも、住み慣れた実家の方がよほど強固な檻であったろう、父親の価値観が、血族の価値観が、マリエッタを一生涯ここに縛り付けるからだ。一族の名誉を汚した恥さらしのうつけ者として。
「絶対に許さない……」
床を磨く手を休めることなく、マリエッタはそう呟く。
少しでも手を抜けば、折檻が待っていることを彼女は既に学んでいたから、どうしようもない。憤怒の形相で床を睨み付ける。ベアトリスは幼少のころからこれに耐え続けていたという事実も、それでもなお家族を恨む気持ちを持たなかったという事実も、彼女の脳裏にはまったくといっていいほど思い浮かばなかった。
ただただ、自分の境遇を哀れみ、他を罵り、その憎しみを自分より劣っていると信じてやまない妹にぶつけることで、ようやっと自分を保っていた。
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