第3夜 実習生の体験

皆さんこんばんは。猫之丞です。


毎晩暑いですね。


少しでも涼しくなる様に、こんな話はどうでしょうか?


では……








あれは私がまだ某介護施設に勤めていた時の話です。


私が勤めていた介護施設では、毎年実習生が泊まりがけで実習に来ていました。


ある日実習生の1人が私に話し掛けて来ました。


「Kさん、今大丈夫ですか?」


「ん? 大丈夫だけど、何?」


話し掛けてきた実習生は、某専門学校の1年生の女の子でした。


「あの、もしかして、この施設って何て言うか……その、変な噂ってあったりしますか?」


「ん~? そんな話は聞いた事無いんだけど? 何かあった?」


「はい……実は……」


その女の子の話はこうでした。




女の子が同じ実習生の女の子達と一緒に実習を受けていた時の事。


丁度昼食の時間になり、利用者を食堂に連れて行く事になりました。


ある程度利用者を食堂に誘導した時、ふとある部屋に目が行きました。


その部屋に、車椅子に乗った利用者が1人窓の外を眺めていたそうです。


実習生の女の子は職員に


「まだあそこに利用者さんが居ますので連れて来ますね」


と言うと、職員は不思議そうな顔をして


「え? 利用者さんは全員食堂に移動してるよ?」


「え? でもそこに……」


女の子が部屋に目を向けると、そこには誰も居ませんでした。


確かに車椅子に乗った利用者さんが居た筈なのに……。


気のせいだったのだろうか?


そう思った実習生の女の子はその事を忘れる事にしたそうです。




そして、その夜。


お風呂に行こうと実習生の女の子達は、実習生に宛がわれていた部屋から出て、ふとエレベーターの前の扉に目を向けました。


すると、扉から年配の男性がこちらを覗いているのに気付きました。


扉から垂直に上半身だけが出ていた……


それを見た女の子は急いで部屋に引き返しました。


他の女の子達はびっくりして


「ちょっと、どうしたの!? いきなり部屋に戻ったりして!」


「皆あれ見なかったの!? 男性が覗いていたんだよ!! 扉から垂直に上半身だけが!!」


皆がざわざわしてきました。


「私、そんな人見てないよ……」


「私も……」


「私も……」


「「「「………」」」」


その日は衛生上悪いとは思ったけど、お風呂に行くのは止めて、部屋から一歩も出なかったそうです。 トイレに行く時だけは、二人一組で行ったそうですが。


彼女はなれない実習で疲れて幻覚を見ていただけかもしれませんし、ひょっとしたら確かにそこに『垂直に浮くおじいさん』が居たのかもしれません。真偽のほどは私には分かりません。


ただその話を聞いた私は、『あぁ、今度はそこにいるのだな』と。そう思うことしか出来ませんでした。


怖いとも、不思議とも思わず、今度の夜勤ではその部屋をじっと見ないようにしようと。


嫌なものですね。慣れってやつです。私が知らないだけで、もう生きていらっしゃらない方の手をとっていた日もあったかもしれませんね、なんて


冗談ですよ。きっと



ではまた……。




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