第六章 不思議のホントのナザリベス

第22話 「ゴーレム物語2の始まりはじまり……だな」

 お爺さんは上の畑に草むしりに行って、お婆さんは近所の竹藪のほとりで、ヨモギを採っていました。


「じゃじゃーん!!」


「ここで、読者へもんだーいだよ!! いい、よく聞いてね」

 このシリーズのヒロイン(深田池マリサじゃないんだ……)、ナザリベス!、いきなりな登場である。

 でも、どうして?

「坂道の真ん中でお爺さんは言いました。お婆さんはどこだ? お婆さんはお宮の階段で言いました。お爺さんはどこにいるのかな?」

 相変わらずというか……、とうとう、作者からの質問も聞かなくなってしまった。

「さて、もんだーいです。あたしは、今どこにいるでしょう?」



喜鏡荘ききょうそうだ……」



 トケルン――当シリーズの主人公、そして、なんでも知っていて何でも解ける、できる男の杉原ムツキが、あっさりと答えてしまったのでした……。


「……んもー! お兄ちゃん!!  ネタバレしちゃーいけないじゃん」

 プンプンと、ナザリベス――7歳の幽霊の女の子、本名は田中トモミ、少々怒り顏で杉原ムツキに向かって、両手をグーにして腰に当てながら、そう言うと。

「ちょっと! トケルンってば!! あんた空気読みなよ。それ、これから三流作家の作者が書くこの物語の舞台なんだからね……」

 ……と、チウネルこと、杉原ムツキの幼馴染の深田池マリサが言いました。


(まあ、三流は正解だけれど……)


「ねえ? トケルン。ところで、……どうして、いきなり謎々から始まるの?」

「それはな……へへっ、チウネルさん。このナザリベスシリーズ最大? の謎を解いていないからだ。へへっ!」

 杉原ムツキは、したり顔を彼女に向けてそう言ったのでした。

 うわー俺ってスゲー! だって、誰にも見抜けなかったシリーズ最大の謎を、俺は見つけたんだから、知っていたんだからさ!

 彼の表情……、あからさまに優越感が見え見えである。


「最大? 謎?? そんなの残っていたんだ……」

 けれど、深田池マリサはそれをスルーする。

 この2人、キャラ設定では幼馴染だけれど、本当のところ、それほど仲良くはないのかな?

「お兄ちゃん!! 喜鏡荘の入口で見上げたらね、屋根の上に小鳥さんが二羽停まっていたんだ。さて、どんな鳥かな?」

 これは、ナザリベスお得いの『さらに謎々は続くよ~ 線路は続くよ~』である。


「え? この謎々には、まだ続きがあるの?」

 深田池マリサのお約束のセリフが出ました!!


「トケルン……分かる?」

 深田池マリサが何だか涙目――じゃないけれど。

 大学の成績は並の下という深田池マリサが、ナザリベスの難解な謎々を、勿論、解けるわけもなくて。

「そうだな……ナザリベス。もう一度言おう! 解けていない謎があったっけ? 俺達の物語に――」

 いやいや、あんたそれさっき言ったセリフだ。

「まあ聞け、作者よ。俺が2回同じことを言ったのには訳がある。これから読んでいけば、なんとなく分かるだろうけれど、ヒントは――」

 あんた、誰に対して話し掛けているんだ?


「トケルンさん、何なのそれ?」

 ――と言ったのは、カナッチ。佐倉川カナン――数学の天才少女が彼の話を聞いて、っと、その前に……」

「それにしてもさ、……あんた達って傍から見ていて仲が良すぎじゃない??」

 う~ん、佐倉川カナンは2人の仲をそう解釈するのか……。

 とまあ、杉原ムツキと深田池マリサの顔を交互に見つめた後、佐倉川カナンは少し嫌味ったらしい視線を2人に見せてそう言った。

「ああ! そうだ。解けていないんだ」

 杉原ムツキ。これをガン無視したぞ――



「ナザリベスの寝室の天井に飾られていた、左右対称の天体の本当の意味がな!!」



 深田池マリサは、しばらく天を見上げて思い出してから――

「……トケルン? それって、あのナザリベスちゃんのお部屋の上に飾られていた、左右対称の天体のことだよね?」

 ハッと気が付き、両手をパチンと鳴らして言う。

「チウネルさん、それ、どういうこと?」

 佐倉川カナンが、深田池マリサに質問しました。

「……カナッチ。まあ聞いて」

 パチンの両手は、くっついたままで。

「うん。うん。聞くよ」

 佐倉川カナンが深田池マリサに興味深げにズズ……っと頷き近寄りながら、そう言った。

「私達が、教授のお使いで訪れた山口県の山奥の、瑞槍邸みずやりていの2階のナザリベスちゃんの、お部屋にね、天井に天体がいっぱい飾られていたの」

「うん。……確かそれって、チウネルさんの赤点のお仕置きの話しだよね?」

 どうやら佐倉川カナンは瑞槍邸の説話を知っている。

 まあ、2人は友達だから普段からお互いの近況とかを、SNSでやり取りしているから、佐倉川カナンは思い出したのだろう。

「うん……」

 一方の深田池マリサにとっては、あまり(はっきり言って)もう! 思い出したくもない過去の悪夢である。

「それが? どうしたの」


 気を取り直して――深田池マリサ。

「でもね。よく考えたら、変な飾られ方をしていて……」

「していて……どんな風に?」

「例えばね、太陽の隣には月があって、さそり座の隣には射手座。地球の隣に火星。……っていう具合にさ、地球の隣に月じゃなくて火星。これって、おかしいでしょ?」


「…………確かに」

 佐倉川カナンが言う。言って、しばらくシンキングタイム――

 目を閉じて……、

「自発的対称性の破れを、表現しているわけでもないしねえ……」


「自発的?」 ← チウネル


 深田池マリサは、勿論わかりませんね。成績は並の下――確か、吉牛よしぎゅうの新メニューにあったかな?

(作者……ウザい表現書かないでちょうだい)

「そうだ……どう考えても、あの天体の配置はおかしいと、俺は今でも思う」

 杉原ムツキが話に入ってきた。

「……で、でもあれって、確か父親のエルサスさんが、7歳で亡くなったナザリベスちゃんのために飾った、ナザリベスちゃんのための……えっと確か??」

 ここんところは、初回のナザリベスシリーズを読んでください。詳しく書いています。


「ねえ、お兄ちゃん? おかしいから、だから、答えは何かな?」

 ナザリベスも話に入って、いやいや、この子から始まった謎々だよね。

「ねえ? お兄ちゃん……だから」

 なんだかワクワク……ワクワク……ワクチン? のナザリベス。君はペンギン村のメガネっ子か?


「えー。まだ、このなぞなぞに続きがあるの?」

 深田池マリサここでもお約束のセリフである。


「うん!!」

 ナザリベスは嬉しそうだ。

「――答えは、正規分布できるの?」


「せいきぶんぷ?」 ← ナザリベス


 ナザリベスが首を傾けた。

「カナッチお姉ちゃん。何それ?」

「ん? 正規分布ってのは――」

「も、も、もう!! カナッチ。7歳の幽霊にそんなの分かるわけがないでしょう」

 わわわっ……な感じで、両手をバタバタさせながら、深田池マリサが佐倉川カナンの話に割り込んだ。

「正規分布ってのはね、左右対称だから……」

 佐倉川カナンは話を聞いていない。この物語の登場人物は、みんな話を聞かないクセがあるような?

「――素数だと、オイラーの関数を使ってできる円の対称性かな? Πの二乗を割る公式のやつ」


「そすう? そじゃないよ。今回は!」 ← これもナザリベス


「ちょ、ちょ、ちょっとカナッチ!!!」

 再び、わわわっ……の深田池マリサ。

「カナッチって、もう!」


「私? 何か変なこと言おうとしたの? チウネルさん」


「…………い、いえ。そうじゃないんだけど」

 深田池マリサは内心、少し呆れて……まあ、彼女は天才数学少女と謳われているから、しょうがないといえば、しょうがないかな…………と深田池マリサは思った(思おうとした)。



「んもう!! お兄ちゃん、お姉ちゃん達、話が長〜い。じゃじゃーん!! さーて答えは? 何かな、何かな?」

 ナザリベスは気を取り直して、自分の得意分野なぞなぞを押しで行く!


「チックタック チックタック……」


 口で時計の秒針を表現しながら、肩を上下に揺らしてシンキングタイムを表現するナザリベス。

 やっぱし、なぞなぞになるとワクワク感いっぱいで無邪気だよね。

「……トケル~ン。私、分かんなーい」

 深田池マリサは降参だ。しょげちゃった……。


 だがだが、しかーし!!

 当物語の主人公、トケルンこと杉原ムツキは違う。


「その小鳥は鳩だ!!」


 なんでも解けるからトケルン、そうでなくっちゃ杉原ムツキって男は!

「なんでー?? お兄ちゃん」

 ナザリベスが、そのココロを聞いてくる。当然だ。読者も、またかくのごとく。


「“はとこ”。これが答えだろ! ナザリベス!!」

 杉原ムツキが、堂々とそう答えると、

「せいかーい!! さっすがー。お兄ちゃんだね」

 と、ナザリベス。

 それを聞いた杉原ムツキは、


「ゴーレム物語2の始まりはじまり……だな」


 ゴーレムというのは、ユダヤ教の神話に出てくるお化けみたいなモンスターです。

 名作RPGの城塞都市[メルキド]の門番でもあります。

 ちなみに、ナザリベスシリーズでゴーレムの話は、これも初回を読んでください。


「んもー!! トケルンってば、それを言わないでくれる? 私、思い出したくないんだからね」

 深田池マリサが猛烈に怒った。どうして?

「しょーがないだろ。ゴーレム2の話なんだからな、今回は――」

 杉原ムツキ、深田池マリサの悲痛な心情なんてまったく気にしていない。

 でも、彼は知っている。チウネル――深田池マリサがゴーレム恐怖症だということを。いじわるだね。

「だっ……だからってさ」

 深田池マリサ、申し訳ないけれど今回の話はゴーレムがいなくては、ハッピーエンドにならないのだ。すまん。


「そうよ。トケルンさん? あんたネタバレしすぎなんだから」

 そこに、佐倉川カナンが友情のフォローを展開。けれども、

「……俺は、ナザリベスの謎々に答えただけだ」

 杉原ムツキは居直った。正論? をつっぱねて。


「そうだよねー! お兄ちゃん……まあ、まあまあ」

 ヒートアップしてきた当物語の登場人物達を、ナザリベスが諫めようとしている。

 7歳の幽霊だよ――この子。

「……み、みんな。まあ、まあまあ、ミカンでも食べてさ、ちょっと落ち着こうよ」


 その時――



「だから! 私を食うな――!!!!!」

 どこからともなく、強烈なツッコミが聞こえてきた。


(あんたは[パルプンテ]かい!!!)



「あんた誰?」 ← トケルン チウネル ナザリベス カナッチ


「…………私は本栖湖ミカンです」




「……だから、どちら様ですか?」 ← トケルン チウネル ナザリベス カナッチ


 みんなで、一斉に、声を揃えてツッコミましたとさ。





 続く


 この物語はフィクションです。

 また、[ ]の内容は引用です。

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