第18話 みんなー! ここにいるお兄ちゃんが、あ・た・しを、ゆうかーい!!
――どう □□ 旅は楽しいか? □□ ん? ……ああ2人ここにもいるんだ。 □□ 私はあんたが懐かしいで。 □□ 俺はお前達にとっての理想にはなれなかったな。 □□ 私はあんたでよかったで。 □□ じゃあな。
悔いのないようにな。じゃあな――
『まもなく終点名古屋です……』
車内案内で目が覚めた。窓際の座席を見た。ナザリベスはいなかった。
……しかし、目の前には食べ終わった柿の葉寿司があった。
あ、全部食べてくれたんだ。
せっかくのお弁当、よかった。
「よくないですよ! お客さん!!」
見上げると車掌がいた。なんか怒っている。
「ちょっと、なんで、こんなに散らかすんですか? コーヒーもこんなに座席の下にこぼして、サンドウィッチだってパンくずがこんなにも」
「俺じゃないですって!!」
……あ! ナザリベスだな。
「お客さん困りますって、車内でこんなに汚しちゃ!」
「はあ、どうもすみません…………」
「車内清掃サービスに、ご協力ください……。車内清掃サービスに、ご協力ください……」
ちょうどのタイミングであった。
「あの、これを、すみません……」
チッ (舌打ちばっかりだ!)
「あの、私じゃないんですよ。隣にいた女の子が食べちらかしたんです」
「あー? お客様、いないじゃないですか? なに寝ぼけているのですか。まったく! 自分の娘もまともにめんどう見られないなんて……」
などと言いながら、座席周辺のゴミを集める。
「私の娘じゃないですって」
「ウソおっしゃい!」
「ウソじゃないですって。他人です」
「わが娘を他人と!! ああー」
なんなんだ、この人?
しばらく2人は無言…………。
「あのお客様、苦情はこちらへ」
名刺を渡された。見ると深田池と書かれてあった。
はあ、今回の旅はなんだかな……。
――名古屋駅に着いた。
改札を出て、すぐの階段を上がって自分はしばらく駅中を歩く。
少し開けた空間の場所『桜通口』の時計台の広場まで来た。
「……さてと、いつものように、みどりの窓口で切符を買いますか」
するとである……。
「ねえ! お兄ちゃん!!」
(まただ……)
誰かが――子供だ。
自分の足元にしがみ付いている子供がいることに気が付いた。
でも見たくない。足元を。だから見なかった。
「ねえってば! お兄ちゃん!」
「…………」
無視しよう。
「………………」
「…………」
無視……。
「みんなー! ここにいるお兄ちゃんが、あ・た・しを、ゆうかーい!!」
「……わ、分かったから!!! それ以上言うな! ついでに大声でも言うな!」
「飛騨高山へ行きたいんだけどさ」
「知りません」
「ねえ、ねえ、ねえって? ねえって??」
「知りません……」
「あ・た・し、この、お兄ちゃんにゆうかーい!」
「分かったから、それ以上言うな」
やっぱし見ることにした。
「じゃじゃーん!!」
またお前か。
新幹線で迷子のまいごの女の子、そう田中伴美がいた。
「お兄ちゃんは、これから何処へ行くの?」
「教えない」
「ねえ?」
「教えないって」
「ねえ! みなさーん!! この、お兄ちゃんがさー。あ・た・しをさー!! ゆ・う・かーい!!!!!」
「まいった。だから、もう、二度とそれ以上言うな。分かったから……話すから……」
「じゃじゃーん!! で、どこ行くの?」
……しょうがない。いつものあの場所、小京都でも行ってみようかと。
「高山、飛騨高山だ!!」
「すごーい。あたしといっしょだ!!!!」
「ウソつけ! お前の目的地は名古屋だったろうが!」
「ううん。ちがーう! 名古屋から高山本線に乗り換えだよ」
「お前、ウソをついたのか?」
「じゃじゃーん!! あたしはウソしかつかなーい!!」
「……ところでお前、昨日一泊どこへ泊まったんだ?」
「ん? ここだよ」
駅中のホテルを指さした。
「なんで、女の子1人で泊まれるんだ? なんで……、そんなことできたんだ?」
「それは、お兄ちゃんを保護者にして、お兄ちゃんが私と謎々、で、眠っていた時にリュックの中にあったお兄ちゃんの身分証を……」
「……ああ、もう聞きたくない。お前は知恵が効くな。っていうか身分証を返せ!」
「はいなー! うれしい!!」
「褒めてない!!」
「――ねえ? どうせ同じ特急なんでしょ。しかも自由席に」
「お前とは行かん」
「ええー!」
「行かないって? 同じ方向なのに。同じ特急なのに」
「同じとは限らないだろ!」
「んじゃ! んじゃね!! あたし、みどりの窓口で高山までの、自由席の切符を買いたいんだけど、どうしたらいいの、お兄ちゃん??」
「しらん!!」
ヽ( ≧д≦ )ノ
「……たのむから泣かないでくれ! 今度こそ怪しまれるから!!」
――それから、JR名古屋駅の改札をくぐった……
♪♫♫~ ♪♫♫~
「ねえ? お兄ちゃん特急来てるよ」
自分は慌ててワイドビューひだに乗り込んだ。田中伴美もついてくる。
「あたし5号車がいい!」
「いや1号車」
「なんで?」
「自由席だから」
「やっぱしー」
「俺は特急は自由席しか乗らないから、って、お前も自由席だろ!」
「でもなんで、いつも1号車? 安いから?」
「はい、そうです」
「あたし窓際がいい」
「はいはい」
「お兄ちゃんは通路側に同伴」
「同席でしょが?」
「同棲?」
ワイドショーの見すぎだ。
「同乗?」
「だから同席!!」
(この子は7歳なので同情しないでください)
「同席ですよ」
「随伴?」
「お前はそんなに1号車が嫌なのか?」
「別に」
「鈍行列車も動くなら、ワイドビューひだも列車の内だぞ!」
な、なんてことを言うんだ!? だから、意味は考えないでください(ヒントは空母です)。
するとだ……。
「コーヒーにお茶、サンドウィッチに……」
また聞き覚えがある……。
(高山本線に車内販売はありません)
「お兄ちゃん、あたしは今度はポテチのコンソメね」
「今度はって言うな!」
「お客様早く~、早くしないとこのポットにある、ホットコーヒーが冷めてしまいますので」
「いや、それ冷めないようにしてあるんでしょ?」
「ええまあ……」
チッ
「おい!! お前はなんだ?」
「私ですか? 私は佐倉と申します」
「お前、あの時の!?」
「ああ、あの時の。あーらぐうぜーん。お客様、奇遇ですねー」
「お前のその態度はなんなんだ! って聞いているんだけどさ!!」
「お客様、苦情はどうぞこちらへ……」
名刺を渡された。
「言っときますけど、私を訴えるのであれば、お客様、そのお連れのお嬢ちゃんとお客様の関係を暴露しちゃいますよ。いいですか? お客様、私の見た限りそのお嬢ちゃんは、お客様のお子様ではないですね。え? 何で分かるんだって? それはお客様、伯備線で、そのお嬢ちゃんは隣にいなかったからです」
やっぱし、あの時の人だった……
「お客様、これ以上はお騒ぎにならないほうがいいかと」
「それはどういう?」
「ああ、じゃあお客様に教えましょう。車内販売を続けること十数年(歳がばれないように)、幾人ものお客様のような人を見てきては、通報してきました」
「どういう意味?」
「お客様、お騒ぎにならないほうが身のためです。そう、私がこのまま、お客様とお嬢ちゃんを見て見ぬ振りをすればいいだけなのですから」
じゃあ、さっさと行ってくれ――
「……ねえって! あたし、ポテチの関西だし醤油」
変わっとるがな!!
「お兄ちゃん! 買って買ってー!!」
「ああ、迷子なまいごなお客様、ああ~」
なんなんだ? この車内販売の佐倉さん。
「車内清掃サービスに、ご協力ください……。車内清掃サービスに、ご協力ください……」
……また、誰か来た。
「佐倉さん、どうしたの?」
「深田池さん!! 実はね、カクカクシカジカ」
またまただ……。今度は私鉄かい。
「えー! この迷子なまいごなお客様が、このお嬢ちゃんをゆうか……」
「だから、それ以上言うな! 間違っているから。違うから」
「怖いですね、深田池さん!」
「佐倉さん! これ、あれしかないよね?」
「ええ、あれしかないです」
……なに、あれって?
「車両の緊急停止。そんでもって特殊部隊が車両を包囲。この車両は電源を落とされ、特殊部隊が扉をこじ開けて突入。この車両に特殊部隊から催涙弾を打ち込まれ、混乱するお客様。
で、伏せてください。伏せてください! という叫び。誰もが混乱!! その中で!
うぇーん、うぇーん。と泣き叫ぶ、お嬢ちゃんの声。はっ! ここだという特殊部隊の声!! お客様は……。
ああ、もうだめだ。ここまでか。へへっ! せっかくお嬢ちゃんを独り占めして “ムフフでちょめちょめ” なことを、したかったのに。
了解、本部からの許可が下りたぞ!!! よし行け! 特殊部隊が防弾盾を持って、お客様に迫って来ました!!!
ああ、いけません! お客様!! それはだめですって!!!
へへっ! こーなったら、このプラスチック爆弾で、この列車もろとも……。
お、お兄ちゃん。あたし死にたくない。はあん! お客様の胸がドキュン。
あ、あたし死にたくないよ……。だって、だってさ。
もう言うな、すまない。俺が全部悪いんだ。すまない…………。
ねえ、お兄ちゃん? なんだ?
最後に1つだけ、お願いがあるの……。
ああ聞いてやる。お前にはすまないと思っているからな。
『あたし、ポテチが食べたい』
――というわけで、ポテチの関西だし醤油、うす塩としあわせバターをセットにしていかがですか? 合計401円でございます」
「お前! この仕事に絶対にむいていないぞ!! 努力の方向が間違ってるぞ!!」
「苦情はこの名刺を、私は佐倉と申します。これでも日々お客様達の安全を……」
「ああ、そうですか」
「あと食べ終わった袋はゴミ箱へ!! 車内清掃にご協力くださいね」
深田池さん、お前もか!!
「あたし、ねむーい」
君は寝るんだね……。
「あらためて、お客様? もしかして、この子は??」
「保護者です。私の子供ですって、娘の伴美です。小樽川伴美です。年齢は7歳」
俺はウソしかつかなーい!!
「はあ? 小樽川伴美ちゃん。ですか??」
佐倉さんと深田池さんは、胸の前にあった学生証を2人揃って見つめる。
「あの……お客様。失礼ですが、お嬢ちゃんの学生証には『ナザリベス』と書かれているようですが?」
「へ?」
自分も見た。本当だ。胸の前の学生証の名前は『ナザリベス』だった。
!!
「こ、これ娘のいたずらですよ。そ、そうだ! 私の身分証をどうぞ!!」
慌てて自分の身分証を見せた!
「…………ああ、はい。そのようですね」
チッ ( ← もういいわ!!)
「あの、この子にポテチを」
「まあ! どうも、お買い上げありがとうございます」
「――では、お客様。良い旅を……。コーヒーにお茶、サンドウィッチに吉備団子。もみじ饅頭にカステーラ。……飛騨高山名物の『さるぼぼ』はいかかですか~」
お前はよろず屋か……。って、飛騨高山に着く前に『さるぼぼ』売ってるんだね!?
「ほら、ナザリベス! またポテチを買ったぞ!! 良かった…な……」
「……お兄ちゃんを、あたしは、いつも見守ってる…か……ら……… …… 」
寝言だ。
それにしても、飛騨高山までは3時間あったっけ?
7歳の女の子には疲れちゃうよね……。
ってこいつ!! 寝てるやないか!!!!!
まったく、毎度のまいどのナザリベスである。 (;一_一)
終わり
この物語はフィクションです。また、幼い子供を1人で旅させないでくださいね。
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