第10話 手料理を通して紡ぐ3人の女の子の友情物語
きざーみしょうがに ごましおふって
にんじんさん さくらんぼさん
しいたけさん だいだいさん??
――深田池マリサへの英語の担当教授からのお仕置き、とある作家に書籍見本と膨大な資料を手渡してくるように……、宅急便の代金をケチることが教授の真意なのか否か?
でも、このミッションを終えなければ、赤点をとってしまった彼女に進級という未来は残されていなかった。
ほんと、いつも成績不振な深田池マリサ。
彼女もそのことはしっかりと反省して、日々勉学に励んでいるんですけれどね。おあいにく、それでも武藏谷文芸大学の学業にはなんとか追いつけているレベルだ。
ついでにと書いたら変だけれど、深田池マリサの幼馴染の杉原ムツキも赤点ギリギリで、同行させられるハメに。彼からすれば不本意なのだろう。
どうして、俺は赤点じゃないのに……こんな遠くまでお使いに来なきゃいけないのかと。
言っとくけれど、それはね、君が英語の担当教授からいい様に思われていないからだと思う。
うれしいかな、今回の旅には天才肌の数学者、佐倉川カナンが来てくれた。
それに、なぜかすんなりと受け入れられた幽霊のナザリベス。
――友達がいるって、幸せだね。作者はそう思うぞ!!
「とうちゃーく!!」
両手をグーにして腰に当てて、ナザリベスが叫んだ。
あたりを見上げる、見渡すナザリベス。
「ほんとうに、山奥だね」
――そう。ここは飛騨高山のJR高山駅から宮川沿いに行った、かなり奥深い場所だ。でも、白川郷よりはちょっと手前ではあるけれど。
ドスンッ!
これは、深田池マリサが地面に重いリュックを下した時の効果音。
「うう~。やっと到着した」
彼女は肩をポンポンとたたきながら、呼吸を整える。
「よかった。ほんとーによかった。今回は道を間違えなくて……よかった」
なんだか念仏か呪文のように、深田池マリサが言っている。
それを聞いて、
「あったり前だろ。教授曰く、宮川沿いに進んでいけば、必ず、目的地の作家の自宅にたどり着けるって……」
よっこいせとタクシーから下車しながら、杉原ムツキがぼやいた。
続いて、
「チウネルさん。高山の駅前からタクシーに乗って目的地をドライバーに言ったんだから、無事に到着するのは当たり前です」
佐倉川カナンが下車。
「そ、そう……だよね。あはは」
深田池マリサが、もしかしたら私って取り越し苦労じゃん? と、まあそうなんだけれどね。
ピンポーン
深田池マリサが代表してインターフォンを押した。
「すごいね」
押しながら、彼女が思わずつぶやく。
「ねえ、トケルン。瑞槍邸とどっちがおっきいかな?」
彼の服の裾をクイクイと引っ張りながら聞く。
「同じくらいじゃねーか?」
杉原ムツキ、あっけらかんに見積もって言った。
「こんな山奥でこの大きい御殿じゃ、大雪が降ったら、さぞ、雪かきが大変でしょうね」
佐倉川カナンが現実的に理数的に見積もる。
「もう! カナッチ夢を壊さないでよ」
口をへの字にして、深田池マリサが佐倉川カナンにツッコんだ。
「あたしの住んでいたお屋敷みたーい」
ナザリベス。
「おいおい、今は住んでいないのか?」
すかさず杉原ムツキがツッコんだ。
「ううん。すんでるよ。お父さんと一緒に……。
じゃじゃーん!! あたしはウソしかつかなーい!!」
ナザリベスのお約束がでましたところで――
ピンポーン
「やっぱ、おっきいから聞こえないのかな?」
もう一回、深田池マリサがインターフォンを押してみた。
「……はい。天野です」
!!
声の主は女性だった。名前は天野という。
「あ、天野さんです……ね。は、はじめまして」
「おい、そんなに緊張する場面か……」
インターフォン越しに緊張して、まるで上司に小言を言われて、受話器越しにペコペコと頭を下げているかの如く。
「だ、だまっててトケルン」
邪険にしっしっ……と右手を追っ払うコバエのように、彼を遠のけようと、
「はい。天野です……ああ、大学の教授からメールがきていました。そうか、書籍見本と資料を持ってくる若者達がいるっていってたけれど、ああ、そうか。ちょ、ちょっと待ってください!!」
ガチャ…… インターフォンが切れた。
しばらくして――
ガチャ! 今度は玄関の扉の鍵が開く音である。
「はははっ」
見えたのは女性だった。年齢はうんじゅっさいくらい――担当教授と同じくらいに見えた。
髪の毛は明るい栗色、それがオカッパよりも短めくらいのショートヘアーで、でも、女性らしい髪の長さというか、そんな感じは保った感じだ。
「はははっ。まさか本当に生徒をこんな田舎によこしてくるなんて……。あの人も意地が悪い……ね」
すたすたとこちらへ歩きながら彼女はそう言って、
「はじめまして! 天野です」
と、言うと天野さんはサッと左手を差し出して、深田池マリサと握手をした。
「……は、はじめまして。あ、あの? それは……」
深田池マリサもそれに応える。同時にちょっと気になることを聞いた。
「ああ、これ? 大根です」
天野さん。右手になぜか大根を持っていた?
「ま、まあ気にしないでください」
いやいや、気になります。
けれど――
「遠路はるばる東京から来たんだろ、長旅だったね。君たち、さあ、まずは上がってちょーだいな」
天野さん。ササっと深田池マリサ一行を歓迎モードで向かい入れてくれた。
「ああ、君が深田池さんだね。そして、隣の君は杉原君。うん。教授から聞いた通りのイメージだ」
「そうですか?」
なんか、たじたじな深田池マリサ。
「そうだよ! 教授からはメールでよーく聞かされているからね。君たちのおっちょこちょいな顛末をさ」
ふふっと笑いながら天野さんは玄関で、スリッパをそろえる。
「て、顛末ですか?」
「しってるよ~。ゴーレムのすっちゃかな話も教授から――」
あんにゃろ! 教授め!! 余計なことを言いふらしやがって……
と、内心恥ずかしさの裏返しで怒り心頭な気分になった深田池マリサ。すかさず斜め後ろにいる
(トケル~ン)
こと杉原ムツキに眼を飛ばした。
「あははっ」
なぜか笑いが絶えない、天野さん。
「僕は、以前はね。東京の調布、京王線の仙川駅前に住んでいたんだよ。知ってるかな」
長いながい廊下をすたすたと先導して歩いている天野さん。歩きながら教授との思い出話が始まった。
「はい。存じております。私、今調布のつつじが丘の学生寮に住んでいます。そこから小平の大学に通っていますから」
「へえ~、つつじが丘。いいね」
天野さんがくくくっとほほ笑んで、なんだか笑いをこらえきれないみたいだ。
「……??」
深田池マリサは、きょとんと……。
「ごめんごめん」
てってれって~、どこでも〇〇 は出ませんから。
「僕は教授とはね、武藏谷文芸大学の同級生だったんだよ」
「えっ! 教授って本校の……」
深田池マリサが驚いて。
「ああ……、そう! 卒業生だ。僕と彼とは。君達と同じ文理学部だった。なつかしいね~。ふふふ」
天野さんは思い出し笑いだろう? クスクスと肩をゆすって笑いをこらえている。
「僕がいいねって言った理由は、つつじが丘には急行が止まっていいねっていう意味だよ」
「急行?」
「だって、仙川って地味じゃん。なんか駅も穴倉を掘ったような水路の下にある感じの駅で陰気臭いし(今現在の仙川駅は作者は見ていません)よく仙川駅前のゲーセンで[ダライアスツイン]を遊んでたっけ? 仕事そっちのけでさ。あははは」
また笑った。
「仙川駅前のゲームセンターですか? あの2階建ての……」
どうやら、深田池マリサも知っているようだ。
「そうそう! あの駅前のゲーセンでね。学校をサボって、よく遊んでいたんだ」
天野は振り向きながら、斜め後ろを付いてきている深田池マリサに、笑顔で言う。
通されたのはリビングだった。
きれいなリビング、日当たり良好だ!!
「まあ、すわってみんな」
お言葉に甘えて、リビングの日当たり良好な窓際にあるダイニングテーブルに、天野さんからせかされて、自分たちは座った。
「ところで……」
天野さんが、
「その幼い女の子は?」
見つめる先は、勿論、ナザリベスである。
「こ、この女の子は……」
幽霊ですなんていったらゲームオーバー。
「この子は、私の深田池マリサの末の妹です……」
「妹さん?」
「ええ……」
額に変な汗がじんわりと。
「今回、どうしても高山の観光がしたいと聞かなくて」
「あたしはお姉ちゃんの妹だよ。あたしはウソしかつかなーい!! だから、さるぼぼ!!」
ナザリベスが唐突に言った。
「さるぼぼか! よくしってるねお嬢ちゃん。うんうん。さるぼぼは良い魔除けだ。お嬢ちゃんをきっと守ってくれる魔除けだね」
天野さんはナザリベスに近寄り、頭をなでなでした。
「君達の教授は、僕のことを心配していたのかな……」
キッチンでティーカップに紅茶を注ぎながら、天野さんが聞いてきた。
「心配ですか……はて」
と佐倉川カナンが言う。
「ところで、どーして、こんな山奥で作家してるの? おばさー××」
ゴツン。
「こら、ナザリベス! そんなことを聞くんじゃないの」
佐倉川カナンが、ナザリベスの頭を小突いて言った。
「えーなんで?」
両手で頭を抱えながら、ちょっと痛そう(でも幽霊だよね)質問する。
「なんでも」
「なんでもーじゃ、あたしわかんなーい」
「あんたは、分かんなくていい!」
キッとナザリベスを睨む。
「あははは。元気闊達なお嬢ちゃんだことだ。うんうん」
注いでいたティーの手が、刹那止まったけれど、
「君達は知らなくていいかもね……。でも、言おうかな」
その手が、動き出して。
「僕はね、ずっと前に琺文社という有名出版社に、お世話になっていたことがあったんだ。……まあ、いろいろあってね」
と天野というと、彼女は壁の額を見つめた。
リビングにの奥にはノートパソコンのもう一回りくらい大きめの額が飾ってあった。
見るとそれは、絵――イラストのような、そういうオブジェだ。
「……恥ずかしながら、僕の唯一のベストセラーが『代々木の杜のレシピ』なんだ」
「そ、それ、私知っています!!」
深田池マリサが知っていますと、ものすごいハイテンション! で椅子から立ち上がって。
「それ、手料理を通して紡ぐ3人の女の子の友情物語ですよね。私、その小説大ファンになっちゃって、今でも愛読して……え?」
「ありがとう。まだ読んでくれている読者がいることに感謝だな。僕は……」
「え? ええー」
「お前、人ん家にお呼ばれして、もう少しテンション下げろよ。失礼だろ」
まるでムンクの叫びのようなハイテンションになっている深田池マリサを、シラーと冷めた視線で見つめている杉原ムツキが言った。
「実は、あれ僕が書いたんだよ……。ペンネームは違うけどね。あはははっ」
続く
この物語は、フィクションです。また、[ ]の内容は引用です。
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