第6話 絶対に、君のせいじゃないから…… 優しいね。お兄ちゃんって……
「深田池さん? どしたの? ねえっ?」
トケルン、珍しくチウネルの……
(深田池は、チウネルの苗字です……)
――この時、チウネルは何かが崩れるような気がしました。
何が崩れるのかといえば、たぶん母性愛のようなものなのでしょう?
僭越ながら私はナザリベスに対して、なにかしらの女性の私から出てくる生理的な情動を、私はナザリベスに対して思っていて、それがなんか失ってしまうような……。
ナザリベスは幽霊なのだから……と言われたらそうなのですけれど。
……でも、何かを失いたくなかったんです。
「……お姉ちゃんに、謎々~。とっても簡単な謎々だよ~!」
天神様の社の前から、すっと私の前へと飛んできて――私の目の前でナザリベスは言いました。
「あたしはずっと、こんなに~喋ってるけどさ~」
「黙り込んで世界を面白くしているのは、だ~れだ?」
「……なに?」
不意打ちを食らったような、このキョトンとした気持ち……。
「……答えはね、聖書に出てくると~ても偉い人!」
と言って、とびっきりの笑顔になるナザリベス。そして、
「……ありがとう」
……ナザリベスは謎々で、私を落ち着かせようとしてくれた。
「人生だ」
「トケルン? え?」
私やっぱり意味不明、で彼の方を向いて、
「……言っとくけど、行きはよいよい、帰りは怖い~の、謎々の答えだからな!」
トケルンが珍しく……弁解してる。
「人生ってのは行きはよいよい……つまり、これから未来はどうなるのか分かんないからよいよい。でも帰りは……つまり死へと近付いて行けば行く程、死ぬのが怖い……。つまり人生そのものが、答えだ!!」
トケルン解答を言い終わるや、腕を組んでエッヘンとしたり顔を私達に見せました。
「どうだ? 正解か?」
トケルンのその言葉に……でも、
「…………」
ナザリベスは、ずっと無言なのです。
「どうなの……かな?」
「……………」
それでも、ナザリベスは無言でした。
「……はっ!」
チウネル、気が付きました!!
何故、ナザリベスが何も言わず無言なのか? その理由をです。
「トケルン! あの子に人生なんて言っちゃダメだって!!!」
――そうだと思うんです。
7歳で亡くなっていったナザリベスに人生と言うことは、人間としての喜怒哀楽も、何もかもを知ることなく、得ることもできなかった女の子。
その女の子に『人生』という言葉は――例えば、私達が宇宙に憧れるような想像の世界。
つまり、ナザリベスにとって人生は、憧れそのものだったのです。
7歳の幽霊の女の子ナザリベスは、人生に憧れていたのです。
「でもね! 君の人生は君だけの人生なんだからね。だから誰とも比べちゃダメだよ! 分かった?」
――あれ? 何、この展開?
トケルンが変なことを言ったから、それを私がなんとかしようって……そう思って。
うわ~って思って……だから、誕生日、誕生日って、最初の方の謎々に戻そうって……。
なんとか、なんとかして……空気を変えようと試みたんだけれど。
もしかして?
私の戦略って不発だったんですか?
「あの子に人生と言って、何がダメなんだ? だってさ、あの女の子の人生は――今も続いているんだから!」
トケルンのこの言葉。彼が言った難解な言葉を、私は……この時は意味が分かりませんでした。
「うん!!」
ナザリベスは、勢い良く返事をしました。
「君は、誰かを嫌いになったことがある?」
って、今度はトケルンが私に問い掛けます。
なんで?
もう……今日のお昼過ぎからの出来事は、意味不明の連続です。
「……そ、そりゃ私だって人間なんだからさ、誰かを嫌いになることくらいあるわよ」
「その君が嫌いな人ってのはさ、君のパパ? それともママ?」
「え? そんなこと……」
トケルンは私に少し微笑んでから、そして、ナザリベスへ近寄って行って……。
「絶対に、君のせいじゃないから……」
「優しいね。お兄ちゃんって……」
(……あ~そういうことなのね、トケルン)
――そういうこととは、
ナザリベスという7歳の女の子は、自分が生まれてきたことが両親の離婚の原因なのかなと……。
……それから、しばらくして両親が離婚して、その離婚の原因である自分自身も7歳でこの世を去ってしまった。
だから、そういう無常への、なんていうか『生まれてきたことへの罪悪感』のような気持ちを、ナザリベスはずっと一人で黙って、ずっと持ち続けていたんだと思うのです。
…………ナザリベス泣いています。
幽霊が泣いている……。
幽霊とか……幽霊でないとか……、そんなことではなくて。
ナザリベスが、時より笑顔を必死で作ろうとしながらも――7歳の女の子は泣き続けています。
あたしはウソしかつかない……
――ナザリベスの、何度も何度も私達に言ってきた『あたしはウソしかつかない』を、私は思い出していました。
チウネルは自分の無知というか無力さというか、自分自身の弱さ、傍観者故の無明の無理解を、この時に痛感しました。
私って……ずっと分かってあげられなかったんです。
あまりにも多くに情報が私の頭の中に入ってきて、私の頭はとろけてしまって……。私はしばらくの間、天神様の境内でぼ~っとしていました……。
「おいっ、おいってお前! 幽体離脱してる場合じゃないって! 行くぞ!」
「……行くってどこ? っていうかお前っていい加減にさ!」
それからすぐ我に返って気が付くと、トケルンが私の肩を摩って心配してくれていていました。
ナザリベスは、消えてしまっていました……
「ありがとうね…… お兄ちゃん!! お姉ちゃん!!」
「トケルン……行くって?」
私が彼に聞くと、
「あの女性の後を追うんだ! いいから追うんだぞ! ……行っとくけど、変な意味じゃないからな! 女の子の謎々の答えを得るためにだからな!」
「……ああ。ああ! トケルンって。もしかして、ヒントがPっていうやつよね!」
「そうだ! でもな! 言っとくぞ! 謎々の答えよりもな、もっとさ……」
「もっと何よ?」
「……要するにな、あの子が出題した謎々よりも、もっと重要なことが、これから起こるんだから! しっかりしろよ!」
トケルン、私の肩をずっと摩ってくれています。
大分、目が覚めてきた私です……。
「わ、私は大丈夫だけど……。一体何が?」
トケルンへの返事も、大方軽快にできるようになって、自分で自分の具合を客観視して考えて、これは大丈夫だって思って……そう彼に言おうとしたらですよ。
「んぅ……。もうってば! トケルンってば!!」
彼、またまた私の腕をつかんで天神様の神社の境内を抜けて、その裏へズンズンッと走って行くのでした。
私も腕をつかまれているのだから、勢いで付いて行くしかありません……。
「ところでさ? 君は、女の子がなんで、あれを歌ったと思う?」
「……わ、だからさ! 分かるわけないってば!」
この森林の草っぱらを駆け続けて、草を掃うのに精一杯なこの時に……。
「……んもう! じゃ、なんで? トケルン?」
でも、私も答えを知りたかったんで、意識は草を払う手にあったけど……聞きました。
「君はさ! あの、わらべ歌の一番重要なところを知ってるか?」
草っぱらを走りながら、トケルンが私に振り向いて言いました。
「分かるわけないでしょが! もうさ!この草……なんとかならな…………」
この子の七つのお祝いに
「はあ? その童歌が答えなんすか?」
「ああ! 勿論!!」
――相変わらず、ず~っとず~っと草っぱらを掃いながら抜けていました。
「ち、ちょっとさ! トケルンって! 私、もう走れないってば!!」
私もうダメって、地べたに下手れると……、
「ああ! ここでいいぞ!」
神社の境内から、ずっと奥へ進んで、裏へとず~と行って……。
そこにあったのは……私もびっくりです!
なんと、お墓場なのでした。
「何これ? お墓だよね?? もう、私達の旅ってなんなのよ~?」
思わず叫んでしまった、私――チウネル。
でも、それをすかさず
「いいから、落ち着けってさ!」
トケルンから励まし? の言葉を頂戴しました。
「ところでお前、俺のこと嫌いだろ?」
トケルン、こいつはいきなり何言い出すのかと思ったら、
「別に……」
「……そもそもさ、好きとか嫌いとかさ、どういう基準なんだろうな? お前は……、勿論分からないよな」
私、少し眉をひそめて……。
「つまりな? 好きってのは嫌いを嫌いでなくなったって割り切ること。嫌いってのは好きを好きではないって隠すことだろ」
なんだか、難解な話を始めたな……って。
まだ、服のあちこちに葉っぱがくっ付いてるってのに……。
「……トケルンさ?? それって相手のことが好きってのは……実は嫌いで。相手のことが嫌いってのは……実は好きなんですって言ってるのと、同じなんじゃ? それって変でしょ?」
私は瞬間、脳内をフル回転させてトケルンからの問題に解答しました。
「お前はさ、俺のことを好き?」
……こいつ、バカか?
「あんたは、またもさ……いきなり何言い出すの? それにさ、何度も言ってるけど、私のことをお前って言わないでよね!」
やっぱり、もっとドツイタロカしとけばよかったのかな……?
「俺はさ……。お前のことが……」
「も~! それ以上は言わないでよ~!」
ドンッ!!
私、もう一度決心して、彼を思いっきり“ドツイタロカ”で、跳ね除けちゃいました。
「……あのさ、好きだよ…………」
「……あ、ありがとう。で、でもね? 今はダメ、ダメだからね……」
「何が?」
地面に思いっきり倒れこんでいるトケルン……雑草がクッションになってくれたから重症には至らず。
「だってさ……私達の旅、夕方には電車も来るからさ! 今はさ、トケルンにさ、そういうことをさ言われても……私さ困るのよ」
「まだ分かってないのか? さっきからの話」
「はなし……?」
あっ、これってチウネルの早とちり、勘違いってやつ?
「好きは嫌いで、嫌いは好きで……。結婚して永遠の誓いを立てても、離婚する男女だっていることだしな」
「それって、あの子の両親の話?」
「ははは、やっぱりこの話分かってないな! でも、もうすぐわかるって!」
「…………」
しばらくシンキングしても……う~ん分からん。
「って! お前? もしかして俺がお前に告白したとか思って……」
ドンッ!!
条件反射だ……。倒れているトケルンのお腹に、チウネルの足蹴り一発。
♪~♬ ♫♩~ ♫♬ ♫♩~ ♪~♬ ♫♩~ ♫♬ ♫♩~
「あ! 教授からだ」
私のスマホに教授から電話が掛かってきました。
文明って凄いですね。その人専用の着信音が選択できるんですから。
「……そのメロディーて、う~さぎうさぎ~?」
「うん!」
「だからあの時の謎々で、月見団子って即答したのか、でも間違ってたけど……」
無視しよ……。
「もしも~し!」
「それは亀さんだけど」
「ちょっと、うるさいってば!!」
トケルンにシッシッって……あっちへ行っといてというメッセージを見せつけて、私は電話に集中しました。
「……はい! ええ、ちゃんと届けましたよ! ……、え? ………………え……はあ? ……あっ! そ……それは全部さ、トケルンが、なんですよ」
スマホを持つ手とは違う手で、思いっきり指をさしながら――
「そ、そうなんですよ~教授。私はさ! 女の子と楽しく遊んでいたら、彼がその子の足を踏んずけて、それで泣きじゃくって部屋中をですね~。そりゃ~もう、大変たいへんでしてね!!」
こいつ、こいつ……何度も彼を指さしながら――
次の瞬間、
「おいこら!」
トケルンが私の人差し指をギュッと握って。
「なに自分は、とってもいい子なんですよ~アピールしてる? この大ウソつきが!!」
チッ!
気付かれたかって……
その電話の内容――お昼前くらいに教授の方へ、私達がお使いに行った先方から電話があったみたいで。
つまり、リビングを無茶苦茶に散らかした私達への苦情の電話でした。
そして、その苦情を教授が平謝りして、今度は、私のスマホにどういうことなのか説明しなさい……という説教電話です。
「……はあ、…………は? …………ええっ~!! ちちょ! ……そ……そんなぁ~…………」
ガチャン! ツー ツー ツー ツー
教授から一方的に電話を切られちゃった……。
私、しばらくぼ~ぜんとして「どしたの?」トケルンが近寄って来て。
キッ!
って、トケルンを睨み付けてやった!!
「……??」
トケルン……きょとーんです。
こいつだけは……こいつだけは疫病神! も~!! だからこいつと一緒に行動したくなかったんですよ!
「……罰として、……補習授業を追加するから覚悟しておくようにってさ……」
小声のチウネル――この時の喪失感ときたら。
私のお使いって、一体、何のために頑張ってきた? たった1泊2日の旅ですよ。本来だったら日帰りですよ。
「へぇ~、でもこの際さ! あの科目の単位捨てたら? 必須科目じゃないんだしね。ね! ね! ねぇ~?」
やぶ蚊の如く、喪失している私の周りをウロチョロと……。
「おい! トケルン?? おどれは……ぢごくに~落ちやがれや! この疫病神が~! とりゃりゃりゃ~!!!!」
チウネルのドツキマワシは極限を超えました。
※これを、ここで伝えるのは……あまりにも残酷で(ライトノベルらしからぬ表現になってしまうので……)トケルンが完全に叩きのめされて、倒れました……。とだけ表現しておくことにします。
しかもお墓場で………
お墓場、そう思い出しました!
私達、なんでここに来たんだろうって?
「おい!トケルン。起きろ! 起きろって!」
気を失って倒れている彼を、私は右足でお腹の辺りを突き、
「お墓場についたんだから、ねぇ? ここに何があるの?」
起こそうと……。
「…………」
「……トケルン?」
「…………………………」
「……トケルン?? ……トケルンって?」
彼が返事をしてくれません。もしかして命が……(ないない!!)
「ちょっとさ! トケルン! トケルン! トケルン! とける~ん!」
「…………俺、トケルンは今日死にました……」
「……は?」
「……でも、君が謝るというのであれば、俺は蘇生されます」
「…………んで?」
「……蘇生されるんですけど?」
その瞬間を私は見逃さなかった!
彼左目を少しチラッと開けて、私を見たんです。
チッ!
ですから、
「……別にいいって。いいよ。死んでてさ」
「……君はさ、なんで、そんなにも冷たいのかな?」
こういうのって狸寝入りじゃなくって、狸死にとでも言うのですか?
彼ずっと倒れていて、というよりも寝てて。
「な~んで、死んだやつが喋っているのかな~? ああ~、そうか! そうだったね! トケルンさん。あの子も幽霊になってから、ずっと喋って謎々出していたんだからね~」
「……………」
トケルンは狸死にのまま、ピクリともしなくなっちゃった。
「トケルンが死んで幽霊になっても、そりゃよく喋るわよね~。でも、そろそろ蘇生しないと、私本気であんたを喋れなくさ~……してや……」
「……それは、どーかご勘弁を!」
ムクッと起き上がるや、両手を合掌――
ど~やら、チウネルの復活の呪文の効き目は効果バツグンですね!!
てれれれ~て~れ~れ~!! なんと、トケルンが生き返った!!
「もっと頭を下げろってば」
「だって見えないじゃない?」
「見えるだろうが、その草の隙間からさ!」
「だから、この草に顔につけると肌が切れるんだから、危ないんだからさ!」
「もう、うるさいってば、バレるだろが!!」
「……もうそんなこと言っても、トケルンだって静かにしないと」
――トケルンとチウネル。
私達が電車を乗り逃して、呆然としていた無人駅。
そこでトケルンが見つけた大人の女性、「君に答えを教えてやる! ついて来い!」ってトケルンに言われて。
ついて行って……その女性は天神様の石段を上がって、私達も上がって行って。
――その途中でナザリベスと出逢って。謎々対決をして……。
そして今私達は、この天神様の社の裏にあるお墓場にいて……。その脇の草むらから、その女性を見ているのでした。
「あのお墓だ! よく見ろ」
ほんと、かなり怪しい行為ってことは分かっています。けれど……、ここまで来たら……ねぇ。
東京から遠路遥々――山口県ですよ。新幹線で5時間30分ですよ。
ここまで来たんだから、見るもの……べきものをしっかり見て帰りましょう。
――その女性、お墓の前に立って、仏花をそなえて墓石に水を掛けて、お菓子を供えて、そして線香に火を点けて……ゆっくりと手を合わせていました。
「トケルン? あの……? もしかしてさ……あの人」
草むらの中で私達は顔を合わせ。
「あの女の子のお墓だよ。そして、あの人は……お母さんだ!」
「……つまり、ナザリベスちゃんのお母さんってこと??」
「ご名答!!」
「……俺、君にさ、答えを教えてやるって言ったよな?」
「うん」
「あの女の子の誕生日、ヒントはPだったよな?」
「そうだけど、Pって何よ?」
「瑞槍邸の玄関の前で、君が拾った紙の数字を覚えているか?」
「紙の数字……?」
2 - 5 - 193
「思い出した! ……って、私まだポッケに紙持ってるよ」
私は瑞槍邸の玄関の前でひろった紙を、ポケットから取り出しました。
「それが答えだ! あの子の誕生日だよ!」
「……2月5日?」
「違うって! それじゃぜんぜん謎々にならないでしょうが!」
トケルンのチョップが私の頭を叩きました(……たぶん、私がドツキ回したことへの仕返しみたいなものだったのかな?)。
「じゃあ? じゃあさ? 1月93日? それとも19月3日?」
「君は何時から宇宙暦を使うようになったんだ? だからヒントはPだって! ……て言っても分からないか。Pってのはなあ“素数”のことだ!」
「……だから! 2も5も193もぜんぶ素数じゃない?」
「君は193が素数ってのを即答できるんですねぇ……。それはそれでいいとして。その素数Pにはさ! 全部番号が付いてあるんだ。で、193は何番目の素数かっていう話!」
「それが答えなの? トケルン」
「勿論! ……人生ってなんなのだろうな? そう思えるよな??」
――ナザリベスのお墓へと、一人、大人の男性が歩いて行きます。
……エルサスさんでした。
ということはナザリベスちゃんのパパとママが、お墓の前でツーショットになるっていうことなんです。
でも、一体どういうことなんでしょうか?
離婚しているナザリベスのパパとママが、ナザリベスのお墓の前に来るという状況は……。
だって、離婚してお墓参りに来るくらいなら、はじめから結婚しなければいいのに! と、そうは思いませんか? そう思うのは、私チウネルの未熟さなのでしょうか??
ねえ? どう思いますか?
「……あら? あなたも来たの……」
「ん……、ああ……」
「…………この子が生きていたら、もう14歳になっていたのにね」
「ああ……、そうだな…………」
「あなたは……、ふふっ……相変わらず……」
「?? …………」
ナザリベスちゃんの墓前で、パパとママの他愛のない会話が続いていて――
時折、二人が談笑になって……なんだかチウネルにとっては違和感のある光景でした。
「おい! そろそろ電車が来るぞ! これ逃したら、また1泊だぞ!」
「……ううん! ……はっ!! そだね! そだね! 早く戻ろうね!」
私達はエルサスさん達にバレないように、ゆっくりと後退りして、それから天神様の境内まで忍び足でそろ~り。
その後は階段を駆け足で猛ダッシュ――目指すは無人駅!
(神様! 今度こそ電車に乗れますように……乗れますように……チウネルだけでも)
ナザリベスちゃんのお墓と、墓前に立つパパとママを脳裏に記憶し――
『ありがとうね…… お兄ちゃん!! お姉ちゃん!!』
――チウネルは一人公園で、「193は何番目の素数かっていう話!」「それが答えなの? トケルン」を思い出していました。
私はスマホでネット検索して、トケルンが言った何番目かっていうのを調べました。
「……あ、トケルンそういうことなのね」
私は、すぐに彼の言いたかったことが理解できました。もう、それでこの話はいいんです……。
ナザリベスちゃんは、どうして自分の誕生日を謎々にしたのでしょうか?
そして、どうしてナザリベスちゃんのパパとママは、誕生日にお墓参りをしたのでしょう?
私は7歳の女の子に対して『生まれてきたことへの罪悪感』という気持ちを持ってしまい、でも間違いでした!
私達がこの世に生まれてくることに、原罪なんてありませんから!!
ねえ? 幼くして亡くなっていくことの自己肯定なんていらないんですよ!
幼くして亡くなること年老いて亡くなること、そのどちらが正しいか否かとか、そういう次元の問題じゃあないんですからね。
そもそも、生まれてくるとはなんなのかって?
それこそ実在とはなんなのかっていう、あの究極の謎々になります。
その謎々をさ考え続けていくと……、そしたら生きるも死ぬも同じに思えてくるのです。
だって、幽霊とこんなにも遊んだのだから!!
最終的に論理崩壊してしまって、生も死も同一になってしまいます――
私達は死から生まれて死へと帰って行くのか、生を授かって死へと死んで行くのか?
私達の生と死というものには、始まりとか終わりがあるのか無いのか?
ごめんなさいね……。
7歳の女の子に、あなたに人生と言ってしまった私達は、私は、本当にダメな大人です。
2016年4月4日の物語、桜が満開だった時に私が出逢った物語でした―――
続く
この物語はフィクションです。
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