第5話 うわわわわわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~!!!!!!! 誕生日の謎々~
私達の旅って、こうして相応しい場所で終わったのでしょうか?
2017年3月20日、寒さも一段落な春分の日の夕暮れ、近所の公園から。
「残る桜、散る桜……、ねえ? あなたは今でも生きているんでしょ?」
チウネルはずっと考えていました。
何を考えていたのかといえば、ナザリベスが出してきた最大の謎々です。
その最大の謎々とは、「実在する」「実在しない」という、私があの時の演奏会で一人で考えていたものではなくて、ナザリベスが本当に出してきた最大の謎々です。それは――
「お兄ちゃん! お姉ちゃん! あたしの誕生日って、いつだか分かる~??」
ところで、この謎々はあの時の演奏会が終わって、ナザリベスが乗り移っていた女の子のパパとママが、自宅へ帰ってきて、ピンポ~ンってインターフォンを鳴らした直後の出来事なんです。
「あ~帰ってきた。それじゃ~ あたしは消えるね~。楽しかったよ~お兄ちゃん! お姉ちゃん!」
と言って、女の子の身体からす~っと本物のナザリベスの幽霊が姿を見せて(なんか変な言い方ですよね?)そのナザリベスが、またも空中へと浮いて、ゆっくりと見えなくなって行ったんです。
――その後が大変でした。
だって、リビングはあの人形が飛び回った後だったんですから、もう部屋中が無茶苦茶になっていて、
「あの、この状況はですね……。お二人のお子様と私達が遊びまくった結果なんです……。もう! このお嬢様って、ほんととってもヤンチャで育ち盛りで、もう! かっわいいですよね~!」
「俺、ソファーで座っていただけですから。すべての責任はこいつにありますので……」
「ってトケルン!! もう私達って言ってるんだから、あんたも言い逃れできないんだからね!」
……その後のパパとママの冷たい視線。
女の子も「私、知らない」って、あっさりと言われてしまいました。
ま、それからの話は後でするとして……
こんな謎々、分かるわけないですよね!
ですから、ナザリベス、
「分かるわけないよね~? このままじゃ~?」
て言って、そりゃそうですよね? 分かるわけ……ないですから。
「じゃあ、ヒントを出してあげる~」
と、ナザリベスが喋ろうとした――その瞬間。あの男、トケルンがですね。
「もうヒントは貰ってるぞ! Pだろ?」
「……………」
ですってよ。トケルンさんが――
「うりゃりゃ~!!!」
トケルンのお腹の辺りに、鈍~い音が聞こえたのは私――チウネルです。
「おいこらって! トケルンさん?」
私がトケルンを、睨み付けてこう言っても、
「……お前、ずっと俺を殴ってるけど、なんなの? ストレスか?」
なんか……こう話が噛み合わない野郎なんです。
「おいってさ! トケルン? な~んで私の責任になるのかな?」
「いいじゃない?」
「よくないって! こら~!」
すかさずっ!
「もういっかい、うりゃりゃ~!!!」
教授の母校の恩師への荷物――外国語のよく分からない分厚い本数冊、五線譜ノートも数冊、そして人形。
それらを……まるでお殿様に「はは~」って、畳に両手をついて、頭を下げて献上するかのように荷物を渡して、
「す、すぐ片付けますから」
って。
「ほんと……育ち盛りのお嬢様ったら……」
とかなんとか言いながら、リビングを片付けていた……のは私だけ!
もう一度、私だけ!!
で……、今はその家から無人駅までの帰り道です。
「お前の気持ちはよ~く分かったから、とにかく、今は無人駅に早く行こう」
「だからさ、お前って言うなってば!」
――行きはよいよい、帰りは怖い。
……じゃなくって、行きは重くて、帰りは軽い。
スマホの時計を見たら丁度お昼過ぎ。
私達はこうしてお互いを責め合いながら、元来た山道を下っていました……
「朝にも言ったと思うけど、覚えてるよな? あの無人駅、2時間に1本しか電車が来ないって」
「はい聞きましたって!」
「……怒るなって!」
「怒ってますって!」
ここで普通、怒ってないって言えたら、ああ~。そ~なんだ……。2人って見た目はそうなんだけど、へぇ~。そういう関係だったんだ……って。
女友達から色々言われる場面なんでしょうけど、
「な~にが、トケルンさん! 『ほんと、こいつって子供とじゃれ合うと、すぐ部屋を散らかす癖があるもんでして……。ほんとに、しょうがないっお転婆女でして』だ!!! 何が癖があるだ! 自分は良い人側に付こうとしてる? んん?」
私、頭着て立ち止まって両手を腰に当てて言ってやった! 今言わずして、何時言うだわさ!!
「……だから、怒るなって」
トケルンの……この無神経な言い方ってもんは、なんだかねぇ。
「ドツキ回したろか! あ~?」
「あの……乙女がさ。そういう言葉使っちゃダメだって。とにかくドツクなって!」
「謝ってよ! トケルン!!」
私の怒りは……もう限界突破。頭の上から箱根山大噴火だ!
「………………ん?」
チウネルの剣幕が、瞬間的に収まっちゃった。
どうしてか? それは、トケルンが……なんだか早歩きして山道を下って……行ってるから。
「おい! 早く来いって!! 電車間に合わないって」
「間に合わない? ちょ! おいっ、あんたって!!」
そんなこんなな会話の後、私も彼に釣られて無人駅へと早歩きして……次第に走り出していたのでした。
ありゃりゃ……
山道を下りながらトケルンとケンカしたもんだから、案の定?
2時間に1本しか来ない無人駅の電車、その電車が……駆け込み乗車をしても間に合わないタイミングで、私達の目の前から行ってしまったのでした――
「ああ……。どうしよう」
私がヘナヘナって無人駅のホームで力尽きると、
「どうしようって言っても、仕方がないから2時間待つしかないだろう?」
トケルンが椅子に座って、ため息ついて言いました。
「別に終電じゃないんだから、そう落ち込むなって! ほら、天気も良いんだし、ここは山が近くて空気も綺麗じゃない? たまには、こういう環境も良いって」
なんで、彼こんなにも落ち着いているんだろう?
昨日から今日までの彼を見続けてきて分析してみたら、トケルンという人物は流れに身を任せるというか、なりゆきに自然体に染まることができる、そういう特技のようなものを……持っているんだと私は推理しました。
「……平和だね~」
トケルンが駅の椅子にダラ~ンと座って、昼過ぎの青空を見上げています。
「しっかりと用事は済ませることができたんだから、いいじゃない。ゆっくりしようよ!」
「…………うん」
私も、椅子に座りながらそう返事をして。
――さっきまで、怒ってる怒っていないで走り続けてきたけど、電車に乗り遅れたことの方がショックで……。
なんだか、もう怒りもすっかり消えてしまっていました。
「あと2時間か……」
私が呟くと、
「んも~。2時間、2時間って言うなって! 大体、都会と田舎は時間の流れの感覚が違うんだってば! 都会では数分で電車が来るけれどさ、この辺りに住んでいる人達ってのは、自家用車やバスが主流なんだって。だから電車を使うのは都市部へ行く時くらいなんだってば!」
「……それ、私への励まし? 謝罪? それとも言い訳??」
諦め感と、ムシャクシャ感が頭の中でとろけて……私はモヤモヤした気持ちをトケルンにぶつけて……睨み付けました。
「……だから、そういう顔するなって。2時間くらい待てないのか? お前はさ!」
「……だから、お前言うな」
「泣くなよ?」
「バカか! 泣かないってば!」
座っている私の顔をじ~と見つめて、それからトケルン、大きくため息を一つ。
「大体、スマホ持ってるんなら……それで暇を潰せよ! それにさ、この時刻表でも見てさ……2時間なんてあっという…………………………」
トケルン、いきなり言葉をつまらせた。
「…………あっという。……なに?」
私はその言葉が気になって、だから……私もトケルンが見ている時刻表を見ました。
「…………あっという」
「…………」
「…………あっという」
「………………」
さっきから、ずっと、あっという、あっというって言い続けているトケルン――
対照的に、本気でムスッとして無言になってキレたチウネル――
私がムスッとしてキレた理由を、もちろん知りたいですよね?
「次の電車……夕方の4時10分だね? トケルンさん」
「ああ……、そのようですね? お前さま…………」
「だからね! お前じゃないってトケルンさま? あと4時間……」
「おいこら4時間!! うりゃりゃ~!!!!!」
再び、トケルンのお腹の辺りに、鈍~い音が聞こえたのは、私――チウネルですよ。
「おいこら! トケルン?」
私がトケルンを睨み付けてこう言っても、
「あの……お前、ずっと俺を殴ってるけど、やっぱ? ストレス?」
「そんなこた~ど~でもいいってば、トケルン! ……もう、ど~するのよ? 4時間もど~するの?」
「仕方ないだろ? 4時間待つしかさ……」
この男は、どうして、こういつも冷静でいられるんだろって。
やっぱこれって、彼の特技なんだって私はこの時に確信しましたよ。
「も~とける~ん! なんとかしてよ~?」
無人駅で私がこう大声で言ったら、
「俺は猫型ロボットじゃないってば」
ってこいつが言って! そしたら……
「あっ! そうだそうだ!! 思い出した! なあ? あの謎々解けたか?」
「……?、あの謎々って? トケルン」
「ヒントがPの謎々、あの幽霊の女の子の最後の謎々だ!」
トケルン? なんだか急にテンションが上がってる。
「……ああ! 誕生日の謎々のこと?」
「そう! で、君はあの謎々は解けたか?」
ニヤッとしてしたり顔なトケルン。
いつの間にか、お前から君へと表現が優しくなってるし……。
「分かりませんって」
「俺は、もう分かってるぞ!」
「……ウソだ~?」
「ねえ? トケルン? あの幽霊がウソしかつかないってのは、私は可愛くていいな~て思えるけど。あんたのウソは全然可愛くも、なんっともないからね」
大体ですね。ヒントがPだけで誕生日が分かるわけないのですから。
「だから、俺には分かるって誕生日! それも7歳の誕生日を!」
「何歳でも誕生日は変わらないでしょうが! じゃあ? トケルン教えてよ? あの幽霊の誕生日を」
「嫌です」
彼、即答――
「……なんで?」
私も返答――
「教えて欲しかったらさ、俺を散々殴ったことを謝りなさい」
トケルンが椅子から立ち上がって、私にそう言ってきました。だから、
「それこそ、嫌です」
私、再び返答――
「だって、私は何も悪くないもの!」
その通りだと思いますよね?
「……知りたいんだろ? 謎々の答えをさ!」
シタリ顔からドヤ顔に変わった、トケルンの表情……。
「……べ、別に!」
「君は、ウソしかつかないんだからね」
なんで、ここでナザリベスの『あたしはウソしかつかなーい!!』に掛けてくるかな?
……しかも彼、肩を揺らしてクスクスって。してやったり感が丸出しじゃない。
「もう! あの幽霊の言葉をアレンジして私に言わないでくれます?」
私も椅子から立ち上がって、右手で彼の胸を押しました。
「あ、あ~! 押すんだ……。これも謝ってもらいますからね」
「……って、あんた子供か!」
ほんと、あったまくる!
「ぜ~たいに、謝りませんって!」
――トケルンのしつこい言い様に私愛想が尽きて、彼に舌を出して「べ~」をして、……それから、スタスタと無人駅の端っこの方まで歩きました。
「いやいや、謝ってくださいよ~!」
トケルン、私の後を追っかけて来ている……。
「こっちに来るなって~の! 来たら、怖い目に合わすんだから!」
「怖い目って、またドツクのですか?」
「だから来るなってば! あんたはトラブルメーカーか? 私はハッキリ言って、その謎々の答えなんて……ど~でもいいんですから!」
「……トラブルメーカーって。そこま……で………………」
あれれ? 彼の急所ってこの言葉?
もしかして彼、この1泊2日の出来事を意外と気にしていたのかも?
だから、絶句しちゃったんだ――
――いいえ。そうじゃなかったんです。
トケルン、無人駅のホームから外を見つめて止まっていたんです。
「……ねえ? トケルン? どうしたの?」
彼、私の方を見ようとしません。
「ねえ? 私謝らないからね……。だって、私何も悪くないんだから……ねえ? トケルン??」
彼、何処見てるんだろうって……気になって、私も視線を同じ方向へと向けました。
視線の先は無人駅から数分先にある小高い丘の森林。その森林の中央を、多分山頂まで続いているだろう石の階段を上へと歩いている人。
……女性でした。
ああ……。トケルンってこういう男なのかって瞬間的に思いました。
その女性、大人の女性です。
私よりもずっと年上の女性で、この時は後ろ姿しか見えませんでしたけれど、紺色の和服を着て髪も黒髪でスタイルの良い女性でした。
彼が見入るのも分かる気がしましたよ……。
「ってさ! トケルン? トケルン?」
別になんとも思ってはいなかったんですけれど……けれど、私との話の最中になんなの? って感じてしまい。
だから!
「……トケルンって! ……あ……謝ってもいいんだからね!」
私何言ってるんだって、客観的に気が付いて。でも、
「別に謎々の話じゃなくって、……ど、そう! ドツイタことをさ、謝ってもいいっていう話だからね……」
と私が言ったら、
「……………」
トケルン、私の話全然聞いていなくて、
「ああ! やっぱし! 謎々の答えが来たぞ!」
って……いきなり大声になって。
「君に答えを教えてやるよ! ついて来い!」
瑞槍邸の廊下の時のように、トケルンが私の腕をグイッとつかみます。
そして、またも山道を下った時のように早歩き――
数メートル……私の腕をつかんで歩いたところで、
「つ、ついて来いって、私の腕をあんたにつかまれてるんだから、ついて行かざるを得ないって状況なんだって!」
チウネル、真正直なまでのツッコミを彼に入れました。
グイッ グイッ グイッ
トケルンとチウネル、まるで運動会の二人三脚のように……いつの間にか一緒になって早歩きになって。
――まあ。
どうせさ、電車は4時間後にしか来ないんだから。それに、無人駅ですることも何もないし……。
だから私は、トケルンが気になっているその大人の女性を、私も気になっていたので……。彼と一緒にその小高い丘の森林へ向かうことにしました。
「うわ~、も~、うわ~、とける~ん!」
「だからさ! 俺はネコ型ロボットじゃないって! ポケットには何も入ってないからな……」
――チウネルは、石段がこんなにも上まで続いているとは、全然思っていなかったんです。
石段の両側には白色の旗が数メートルおきに立っていて、「あ~ここって、やっぱし」私が頭の上を見上げると、やっぱしあった。鳥居がありました。
その鳥居の傍には、
「てんじん……天神様の神社なんだ。この丘の上って」
天神様の神社というのは自分で調べてください。大抵、どこの町にでもありますよ。
「追いかけるぞ!」
トケルンは私の腕を更に強く握って、石段を駆け上がろうとします。
「ちょ、トケルンって! もっとゆっくり! なんで、あの女性にこだわるの? いくらさ、あんたの好みだからって」
「そうじゃないって!」
「え??」
チウネルは、意外な返答に驚きました。
トケルン――石段でくるっと私の方へ振り返って、
「幽霊の謎々の答えが、あの女性だからだ!」
そう断言して……握っていた私の腕を静かに放しました。
「あの女の子が、なんで最後に自分の誕生日っていう謎々を出したと思う? その答えは、さあ、これからだ!」
「さあ、これからって?」
♪~♬♩~♫♬♩~ ♪~♬♩~♫♬♩~
「ん? 歌が……聴こえる……? これって……童歌の……とうりゃ……」
ビュ~ン!!
「うわっ~、なに? この突風!!」
その、童歌が聴こえてきたと同時にビュ~ン!! 突風が森林を吹き抜けて行きました。
「へへへっ! 謎々対決、第3ラウンドってかな? お嬢さん!」
「トケルン……?」
彼、いきなり何言ってるんだろ?
「これはこれは。中ボスのお嬢様。お早いお着きで……」
彼が見つめているのは石段のずっと上の方…………。
私も同じように見たら…………いたんですよ!
いたんです。ナザリベスが……
「じゃじゃ~ん!!」
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、と~りゃさんせ~」
「おい! 童歌を変に変えるなって!」
「……ああ、ごめんなさ~い。お兄ちゃん」
ナザリベスがいます――
「ねえ君? まだこの世に未練があるの? 成仏したいの? したくないの? ねえ? 君、いい加減にしなさいって!」
チウネル、少しだけ怒りました。
まるで、幼い子供がダダを捏ねているところを、母親がメッて叱り付ける様な。嫌いじゃない愛情のある小言のようにですよ。自分で言ってなんですけれど……。
「お姉ちゃん、お部屋の散らかしよう。ごめんなさい…………」
この世って不思議ですね!
隣にいるトケルンとかいう、ひねっくれた男よりも、幽霊の女の子の方が素直で、社会性、一般常識、礼節、を知っているのですから。
って思いながら――私はトケルンの背中に冷たい視線を当てました。
「っんでさ! もんだ~い! 御用の無い者はとうりゃさんせ~。な~んだ??」
「何度も言うけど、それが謎々なの?」
「うん! そ~だよ! お姉ちゃん!」
ナザリベスは石段のど真ん中で、まるで弁慶のように立ち塞がっていて、ここから上へは絶対に上がらせないよ~という感じで、可愛い仁王立ちをしています。
「答えは、君が7歳だから!」
「さあ! 俺達は用があるから通してくだしゃんせ!!」
トケルン、ナザリベスにそうあっさりと解答。でも、
「……ニタっとした調子で、誰かが~お葬式で泣きました~。なんで~?」
ナザリベスが続けて、謎々を言ってきたんです。
いや……たぶん、こうなるかなってことは、私には分かってはいたのですけれどね。
「ニタっと泣くお葬式? 笑うじゃなくって? トケルン? 解けるの~?」
客観本能的ですよ! 私は彼にすがったの……だって、私にはやっぱりチンプンカンプンだったし。
ナザリベスの謎々って、なんでこうも難解なんでしょう?
「モーツァルトはレクイエムを完成できなかったからだろ。ちなみに、ニ短調の未完の曲。君って本当にモーツァルトが好きなんだな!」
ふっ……とため息ついたトケルン。
「うんそうだよ! お兄ちゃん!! そんでもって、せいか~い!!」
ナザリベスが大きく頷いて元気に返してきた。……幽霊なんですけどね。
「でもさ……モーツァルトにとって未完成のレクイエムって、やっぱし悔しいのかな??」
左手を見ての肘にあてて、右手をグーにして『考える人』のポーズ。
7歳の女の子が見せるそれは……ただ単純に子供タレントのグラビアだ。
「……やっぱし悔しいのかなって、モーツァルトは自分が作曲したレクイエムを、自分が生きているうちに完成できなかったんでしょ?」
私は少しだけ感情的になって、ナザリベスに言いました。
「創作している人からすればさ、こんなに悔しいことないじゃない? だってね! 自分が表現できないままに終わってしまうんだから」
「うわぁ~!! お姉ちゃん、いい線いってる~! すご~い!!!!」
「おお! 君珍しく褒められたな! 幽霊にさ!」
軽くパチパチって両手を叩いて、トケルンが言った。
「珍しくって……」
チウネル、意味不明です。何がどう当たっているのか、まったく理解不能です。
「……ねえ? トケルン、どういうこと? 私褒められるようなこと言ったの?」
「ああ! 答えはあの子、あの女の子自身の気持ちだ」
「……ナザリベスちゃんの気持ち??」
ごめん……ちょっと何言ってるか分かんない。私は首を少し傾けました。
「うはぁ~!! 当たり~お兄ちゃん!!」
モーツァルトの最後の曲、未完に終わった曲『レクイエム』それが正解って、トケルンはすでに分かっていて、それでも、私は何も分からなくて――
「じゃあ~後はさ、もう分かるよね~。お兄ちゃん、お姉ちゃん…………」
シュル~ン……
「……へ?」
私が呟くと、瞬間――ナザリベスが消えました。
しばらく、私、ぼーぜんと……。
「……ねえ? トケルン? どういうことなの?」
彼の背中のシャツをグイッっと引っ張って、私は尋ねました。
「……レクイエムを未完にするって、どういうことか分かるか?」
トケルンは身体を半分私に向けて、そう問い掛けたのです。
「……え? どういう」
「レクイエムは死者へ捧げる曲。その曲をモーツァルトは最後の最後で未完で力尽きてしまった」
トケルンが私を見つめて、
「未完のレクイエム……分かるだろ?」
「…………どういうこと?」
私は眉間にしわを寄せて……本当に意味不明。
「だからさ、その答えがさ、この神社の上にあるんだよ!!」
ダッ ダッ ダッ ダッ
――石段を駆け足で上がって行くと、そこに天神様の
神社の境内は昼過ぎなのに、とても暗かったです。
私達が探していた(というより追い掛けていた)女性は何処にもいません。
「あれれ? 誰もいないねぇ?」
キョロキョロと……私が神社の境内を見回していると――いきなり
「中ボス第2形態だぞ!」
というトケルンのRPGお約束の言葉――
(なんかさ、うれしそう??)
と~りゃさんせ…… 帰りは~怖いよね~? な~んだ?
チウネルは思いました。
また、謎々対決が始まるんだって……。
ナザリベスからの、何度も何度も続いてきた謎々。
私には一つも解けない謎々だけれど……。
ふふっ……でも電車到着まで、まだまだ時間があるから……もう少しだけ?
「それってあの童歌なんでしょ? それの何が謎々なのよ!」
私は大声で言ったら……その時、
「うわっ~!」
また、ビュ~ン!!
――森林を風が吹き抜けて行きました。
木くず、木の葉が舞って舞って。
それから、私が薄目を開けると……天神様の社の前にはナザリベスが、再び姿を現わして。
「何かな~? わかる~?」
ナザリベスが、微笑みながら私達を見つめています。
「だから、そ、そんなの分かるわけがないでしょ? 行って良い、けれど帰ると怖いってさ! 大体、謎々になってないじゃない!」
「俺は分かるぞ!!」
その発言に私はビクッ! 彼――トケルンが言い放ったその自信。
「ウソ……? トケルンわかるの? ウソだ~!! だってこんなのさ、謎々じゃないんだよ!」
彼の顔を見つめて言ってやりました!
「いや、謎々だぞ!」
トケルン、私が戸惑っている姿を見て、私の方へと近寄って、私の肩にそっと右手を乗せて、
「こんな謎々の答え、誰にでも分かるって……」
そう私に微笑んでくれて――
「なあ? 誓ってほしいんだ!」
すると、今度はナザリベスがいる方へ身体を向けて、
「もう、これで最後の謎々にすると、この最後の謎々で君は満足すると誓ってほしいんだ。ちゃんと誓ってくれるのであれば、俺は、その謎々の答えを言ってやる。それが条件だぞ!!」
ゆっくりと一歩一歩……ナザリベスのもとへと歩いて行きました。
「…………うん! お兄ちゃんありがとうね。お姉ちゃんもありがとうね~。あたし嬉しかったよ!」
ナザリベス――大きく頷いて、目の前まで歩いてきたトケルンを見上げます。
ほんの少しの、刹那――ナザリベスとトケルン、二人の時間が止まったように見えたチウネル。
「…………じゃあ言うぞ、その答えは……」
「うわわわわわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~!!!!!!! 誕生日の謎々~、たんじょうびの謎々~、たんじょうびの謎々~、たんじょうびの謎々~、たんじょうびの謎々~、たんじょうびの謎々~」
続く
この物語はフィクションです。
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