第4話 …………俺達の演奏ってさ。ヘタすぎるな。

 ――チウネルは気を取り直して、


「ねえ? あなた? どうしたいの? 成仏したいの? したくないの? ねえどっちなのよ? 私はね、あなたに成仏してもらいたいんだよ? ねえ~? もういいじゃない? もう十分に楽しんだでしょ?」

 ソファーの上で飛び跳ねてはしゃいでいるナザリベスに、真剣に尋ねました。

 別に、私が恥をかいたから……ムッとして怒って、その仕返しにとかじゃなくって、純粋にこの7歳の幽霊の女の子は、どうして成仏しようとしないのか、疑問に感じたからです。


「……うん」


 ナザリベスはあっさりと、そうはっきりと返事をしました。

 そして、飛び跳ねていたのを止めてソファーからも降りて、床の上にちょこんと立ちました。


「大体、なんで、この家の女の子に乗り移っているの? なにかしらの縁でもあるのかな?」

 私は、今度は私が両手をグーにして自分の腰に当てて。

「……だって、あたしがこの女の子と、女の子のパパとママを呼び寄せたんだもん」

 すると、ナザリベス少し俯き教えてくれました。

「よ、呼び寄せた?」

 え? 幽霊ってそういうこともできるんだと驚いて。たぶん憑依の逆――降霊?

「どうして、呼び寄せられたの?」

 と、私がナザリベスに聞こうとしたら、トケルン――


「ああ……音楽か。音楽ができる7歳の女の子。自分のパパと……そしてママのためか」

「そうだよ、お兄ちゃん!!」

 俯いていた顔をグイっと上げて、

「お兄ちゃんって、本当に何でも分かっちゃうんだね~」

 ニコッと口元を緩め言いました。


「トケルン? ……それって、つまりあの子の未練ってこと?」

 ススっと……3歩、カニ歩きでトケルンの横まで行き。

「違うって、その逆だ……」

 ……そしたら、トケルンは同じくススっと1歩、カニ歩きで私を避けて。(なして??)

「早く自分のことを忘れて、元気を取り戻してもらおうと、自分は幽霊なんだから、もう7年前の出来事なんだから、このままでは成仏したくてもできないから。自分のかわりが今、乗り移っている女の子っていうことだ」

 ……私は絶句して。


 トケルン。どうしてそこまで、もう、分かっちゃってるのって。


 チウネル、そう感じてしまって。――そして、ナザリベスを見つめたのでした。



「……じゃあ! 最後の最後の謎々に正解してちょ~だい!! 最後の謎々は、とびっきりの謎々を出すよ~。じゃあ行っくよ~」

 ナザリベスは両手をぐっと頭より高く上げて、


 その両手を広げて…………


 広げて…………



「▽+△×▽+△×▽+△……」



 なんだか意味不明な呪文を唱え始めました。すると、


 バチバチッ……


 リビングの照明が……消えたり付いたりをくり返しています。

「じゃあ最後の謎々、行っくよ~」

 私達をギッと鋭い視線で見つめて、口元は相変わらずニヒーと不敵なその表情――


 んで、最後の謎々を言ったのでした。



  魔女が粘土で、人形を作っているよ~

  騎士さんのお人形を、作っているよ~

  でも、何か一つ足りないような気がするな~

  そうだ、心が足りなかったんだ! な~んだ?



「逃げろ…………」

 ……トケルンが私に、小声で言いました。

「え?」

 私が返すと……

「その前に、今から言うトランプのカードを探して集めろ。いいな? 言うぞ!!」



♠A ♠3 ♠5 ♠2 JK ♠8



「え? トケルン。どういうこと?」

 って、私がトケルンの方を振り向いたら……彼は、もう私の隣からいなくて。

 キョロキョロ何処に行ったのかって……部屋を見渡して。

(あ! いた……)

 彼、リビングから2階へ続く階段を駆け上がっている最中でした。

「……………」



 ――要するに、あいつ私に逃げろって言っておきながら、先に逃げたんですよ!!



 もう一度言っておきます!! あいつが先に逃げたんですよ!!! (あのやろう……。ほんまにドツイタロカ!!)



 ――私、本気で彼に対して“この野郎”って怒って。

 ……いたら、


 ゴソゴソッ


「え?」


 ゴソゴソッ ビュ~


 私とトケルンが背負ってきたリュックから、何かが飛び出して……リビングをですね。

 リビングを……ビュンビュンと飛び回っているのです――


 リビングをグルグルと円を描くように飛んでいる未確認飛行物体――

「?・?・?……えっ?」

 別に光ってはいなくて、リビングの照明に反射するその物体は、お人形さん?

「え~?? なに? なのよ? なにこれ~!?」

 お人形さんだ。というより――オカッパの日本人形じゃなくってフランス人形の様に?


「あたしの、かわいいゴーレムちゃん。心を返さないお兄ちゃんと、お姉ちゃんをしっかりと倒してね~!!」

 ナザリベスがニヤリと、そう言い放って。

「ゴーレム? なにそれ? もしかして……この飛び回っている人形のことなの?」

 私とトケルンが無人駅から1泊2日背負い続けてきたリュック。

 中には――よく分からない外国語で書かれている分厚い辞書のような本数冊。五線譜ノートが数冊。そしてメッシュで作られた、いかにもなフランス人形が入っていて……いたので。


 で、その中に入っていた人形が、いま……今、飛び回っているんですよ!!!


「何が可愛いゴーレムだ! 全然可愛くないぞ!! だいたいゴーレムは泥人形だろうが! その人形はどう見ても、普通のフランス人形だろ!」

 2階へ逃げたと思っていたトケルンが、階段の手前まで降りてきて、壁に身体を隠しながら、

「いいからお前、さっさと俺の言ったトランプカードを集めて、2階まで逃げ延びろ! 早くしろよ!」

 と言うと、再び2階へ逃げて行ったのでした。



「うわ! ……うわわ!」


 もう! リビングはゴーレムが飛び回っているせいで無茶苦茶です。

 そこら中の物を空中に浮かせて、投げてくるのです。


 チウネルにです!!!


「あはは! お兄ちゃ~ん、そのカード返してよ。ねえ? 返してよねぇ~」

 ナザリベスがさっきからずっと、トケルンに対して『返せ返せ』と言い続けていて。

 多分トランプタワーの時の、1枚足りなかったカードのことなんだろうと、私は考えて……。


「ちょっと、ねえ? 私に八つ当たりするのやめてくれる?」

 じゃあ、どーして私目掛けて物を投げつけてくるんじゃい? 意味わからん……。


(あっ……あの野郎~!! こうなることを知ってて、先に逃げたな!!!)


 私チウネル、心の中でブチキレました。

 ――だから、トケルンと一緒に行動するは嫌だって、ずっと思っていたけれど。けど、やっぱし……私の気持ちは正しかったんだと、今まさに確信できた。


 ……けれど、それよりも。


「もういやゃ! 痛いってば!! こんなヤバい状況、嫌やん!!!」



♠A ♠3 ♠5 ♠2 JK ♠8



 思い出した――


 トケルンが言ってたトランプカード!

 悔しいけど、あいつは頭が良いから、とにかく、あいつの言う通りトランプカードを集めりゃいいんでしょ!


 もう!!


 ――それからおよそ14秒間


 ビュンビュン風が吹きまくっているリビングの、中心のテーブルの上に運よくあった……トランプカード!

 カードはそれほど影響を受けてなくて、飛び回ることもなく。

 私は必死になって、トケルンが教えてくれたカードを、意味も分からず夢中で集める。


 ふうっ……。 集めて、さっさと2階へ駆け上がりましたよ――



「アンッ!! も~痛いから~!」

 2階へ階段で駆け上がっていく途中、私……足を段にぶつけてしまって、思わずグチッてしまいました。

「トケルン? とける~ん! ちょっと、おい! おいってば!! トケルンさんって~!」

 痛い足を我慢しながら、必死に彼を探して、

「ほら! ♠A ♠3 ♠5 ♠2 JK ♠8。ちゃんと言われたとおりにさ、6枚のカードを集めて持ってきたんだから~、ねえ? とける~ん? どこよ~??」

 私が彼を探していたら……


「……こっち、……こっちだ」


 階段を上がった2階の廊下の、一番奥の部屋。

 彼、左手だけを出して……私に手招きして言ってるし……。

(そこにいたか……)


 タッ タッ タッ タッ


 チウネルは全力で、彼がいる部屋へと向かって走ります。

 もう……後ろにはね、ゴーレムが飛んできていたんです!


 その更に後ろには、ナザリベスが、

「はやく、心を返してよ~」

 って、叫びながら階段を上がって来ています。


 私はようやくの思いで……トケルンのいる部屋まで辿り着き…………っんでもってさ!!



「うりゃ~!!!」



 部屋の中にいる彼を見つけるなり、私……あいつに飛び蹴りをくらわしてやった。

 んで、あの野郎は


 ゴロン…… ゴロン……


 と後転して、後転して。


 ゴツンッ


 窓際まで転がって行き、壁に頭をぶつけて、でも私、それでもっさ!


「ケッ! スキあり!!」


 彼を睨み付けて、今度の今度こそ(ようやくさ!)あいつの顔を殴って、念願ドツクことができました!

(よい子は真似しないでください)



「トケルン! いい加減にしなさいよね! 私がどれだけ怖い思いをしたと思っているの? ねえ? あんた、いっつも私に損な役回りをさせて……自分は何逃げてんのよ? このドツキは天誅だからね!! 悪く思わないでくださいさ~ね? 分かった! んはぁ~??」

 チウネルの容赦のない言葉攻めも浴びせてやったぞ。

「…………わかったから、あやまるから」

 トケルンは半分涙目になりながら、

「……と、とにかく。その6枚のトランプカードを渡してくれ!」

 と言い、急ぎ私から6枚のトランプカードを分捕り。


 ……トケルン、忙しなくカードを床に並べ始めました。



 ――私達のいるこの部屋には中央にピアノがあって、窓際にはヴァイオリンと譜面台が置いてありました。

 そのヴァイオリンのすぐ近くの壁には、もうひとつヴァイオリンが置いてあって、その更に隣に、一回り大きなヴァイオリン――じゃなくってヴィオラが置いてありました。


「もしかして? この部屋」

 そうなんです。私達がこの家へ来た時に聴こえてきた……


♪~♫♪♬♪~♫♬~♬♪~♪♩~


 モーツァルトの弦楽四重奏15番第一楽章、第一ヴァイオリンが聴こえてきた部屋でした。



「じゃじゃ~ん!!」



 デレデレデレ!(RPGの戦闘投入の効果音です)

 廊下をスーとすべって部屋の入口に、ナザリベスが現れた!


「お兄ちゃ~ん、もうチェックメイトだよ。さっ……早く心を返してよ~」

 ナザリベスの真上には、ビュ~ンと、ゴーレムの人形が小さく円を描いて飛んでいます。

「心を返してよ~。ねぇ? 心を返してよ~」


「トケルン? トケルン! なんとかしてよ~!! カードを1枚隠し持ってるんでしょう? それが答えなんでしょ?」

 チウネルも気が付けば大ピンチ!

 目前に私に背を向けているトケルンの、両肩を揺すって。

「ねぇ早くさ~! ねえってば~!!」

「お前のビンタってさぁ……」

 振り向きトケルンが私を細目で見つめて。


「ねぇ? ねぇねぇねぇねぇ?? 早く~! ねえってば~!!」

「分かったから……。ああ……さあ! 返してやるよ。ほらっ!」

 彼が右のポケットから、隠し持っていた“それ”を取り出して、そしたらっ!



「へへっ! この床にな!!」



 と、トランプカードを床に並べてある、私が集めてきたトランプカードのそれらの、一番最初にゆっくりと置きました。そのカードは、



  ♡5



 ズトン…………


 ゴーレム人形――いきなり床へ力尽きたように……空中から落ちちゃった。……人形はうんともすんとも動かなくなって。

 その影響で、部屋中がビュンビュンと嵐のように風が吹いていたのに……それも無くなって無風状態。本来の部屋の中のあるべき状態に戻ったのでした。


「……やっぱり。お兄ちゃんと出逢って、あたし良かったよ~」

 にっこりと、ナザリベスが微笑んでいる顔が見えました。



 ♡5 ♠A ♠3 ♠5 ♠2 JK ♠8



 部屋の床には、トランプカードがこう並べてありました。


「……やっぱりお兄ちゃん、あたしの気持ちを分かってくれたんだね~。ありがとう……お兄ちゃん!!」

 ナザリベスが、とびっきりの笑顔を私達に見えてくれて……。

「俺たちとさ、出逢えて嬉しかったか?」

「ちちょ……と……」

 トケルン、私の右腕をつかんで自分の方へ引っぱって、ナザリベスに恥ずかしがることもなく言ったら、(いやいや……私はちょっと…………)


「えへへぇ……」

 ナザリベスちゃん、照れちゃったのですよん!!!




 ――でも。


 チウネルは意味不明でした。

 私が死ぬかもしれないって……だから必死で集めた6枚のトランプカード。

 それにトケルンがずっと隠し持っていた『♡5』のカード。


 それを床に並べたらナザリベスが嬉しくなって、喜んでくれて……。

 私、トケルンに返すように右肘で、グイグイって突いて、そして小声で、


「ねえ? どういうことなの?」


 そしたら、


「methにemethをあたえてやった! e=5だ!」

「メスにエメス? イーイコールゴ?」


 私の“?”な表情に――トケルン。


「つまり、死に真理を与えたってことさ!」

 ――トケルンの表情、彼の笑顔は晴ればれとしていました。

 でも、どう考えても意味が分からないですよね?


 続けてトケルンが――

「君と、君のパパとママ、そして君が乗り移っているこの女の子、4人。それとも俺とこいつと、君と君のパパと。……この1泊2日の旅の出来事は、どれもこれも、見事な四重奏だったぞ!!」

 ナザリベスの頭を優しく撫でて言いました。

「うん! ありがとうね……気が付いてくれていたんだね。お兄ちゃん」

 ナザリベスは上目にトケルンを見つめています。

「ん? ああ! 弦楽四重奏の第1ヴァイオリンを一人で演奏しているところから気が付いていた。……ずっと寂しかったんだろ?」


「ううん……。違うってば…………」

 ナザリベスは首を大きく横にふって……そう返しました。


「…………そうだったけな!」

 トケルンは大きく深呼吸をして、ナザリベスの頭を撫でながら、しばらく撫でながら……

「……だって、お前はウソしかつかないんだからな…………」


「なあ、お前?」

「……は、はいな?」

 おもむろにトケルン――私に話し掛けて。

「確か……ヴァイオリンが演奏できたよな?」

「……ええ、まあ、ある程度はね」

「じゃあ、決まりだな!」

「……何が? トケルンさん」


 トケルンはそう言うなり……壁に置いてあったヴィオラを手に持って、ナザリベスに、

「君は第1ヴァイオリン! そして……お前は第2ヴァイオリンだ!」

 言っときますけどさ……いい加減お前って言うの止めてくれませんか?

「で、俺はヴィオラかな……」

「そうだ! お兄ちゃん!」

 ナザリベスが右腕をまるでタクトのように大きく振った。

 ――そしたら、床に倒れていたゴーレムの人形が「ムクッ」と起き上がった。

「お兄ちゃん! この人形がピアノを担当するよ~!!」

 ナザリベスが嬉しそうにトケルンに言いました。

「ははっ! ちょっと変わった四重奏になるな!」


「うんっ!」


「……で、曲は何にしようか?」

「あたし~モーツァルトのきらきら星変奏曲がいい!!」

 ナザリベス、なんだか本当に嬉しそうです。

 トケルンに対して、こんなにも心を許する女の子――よくよく思い出して考えたら珍しい光景だ。

「そうだな! 俺もこいつも、それくらいしか演奏できないしな……」

(ちょっとトケルン……)

 心の中で私が彼にツッコもうとしたのですけれど……ナザリベスの嬉しさの表情を見ていて……。

 まあ、そう思われてもしょうがないかなって思ってしまって……。



「実在か……」

 私は無意識に――静かに呟きました。



 ――私達にとって、実在とはなんなのでしょうか?


 私達は出逢うことでしか、実在を感じることができません。

 出逢わなければ、私達は、はじめから実在していないのと同じなのです。

 では、ナザリベスという幽霊は、実在していると言えるのでしょうか?


「準備できたかな?」

「うん! お兄ちゃん! ねえ、お姉ちゃんも早く~」

「ん、ちちょっと待ってよ……」


 トケルンとチウネルは、……まあ実在しているといえるでしょう。出逢えているからです。

 では、7歳で亡くなったナザリベスという幽霊は、何がどう実在していると言えるのでしょうか?

 ナザリベスは、一人だけでは実在できなかった女の子。では、その幽霊と出逢ったとは、どういうことなのでしょう?

 出逢うことができない幽霊に出逢った私達は、一体何に出逢ったのでしょうか?


「じゃあ、いくぞ!」

「うん!」

「ちょ! トケルンさんって。私……」

「いくぞ! せ~の!!」


 あたしはウソしかつかない……

 自己言及のパラドックス。

 私は、ナザリベスが言い続けてきた言葉を思い出していました。


 ほんとは寂しい。気が付いてほしかった。

 それは、7歳という若さで亡くなっていった女の子からの、茶目っ気激しすぎた――私達への『究極の謎々』だったのかもしれません。


 いいえ、そうなのでしょう。



 ♪~♫♪♬♪~♫♬~♬♪~♪♩~ ♪~♫♪♬♪~♫♬~♬♪~♪♩~



 ――トケルンの合図から、ナザリベスが勢いよくヴァイオリンでモーツァルトのきらきら星変奏曲のメロディーを演奏し始め。

 私も二人に合わせて、メロディーに続きました。

 トケルン、器用にヴィオラで私達の旋律に和音を重ねてきます。

 人形も、ピアノのけん盤の上でダンスを踊るかのように、両足を使って器用に、ベースのような演奏をしてくれています。


 ところで、ナザリベスが乗り移っている女の子、大丈夫なのかな?

 それに……この子のパパとママは何時帰ってくるんだろう?

 そういえば1階のリビングって、この人形がビュンビュン飛び回って散らかしっぱなしだし…………。


 それもこれも…………

 私達の演奏が終わってからでいいか! と思い、私はトケルンの顔を見つめたのでした。



♪~♫♪♬♪~♫♬~♬♪~♪♩~ ♪~♫♪♬♪~♫♬~♬♪~♪♩~



 しばらくして……。

 トケルンが、私の視線に気が付いてこう言ったんですよ!! なんて言ったと思います?


「…………俺達の演奏ってさ。ヘタすぎるな」





「ねえ? 教授からも言ってやってくださいよ! トケルンってさ、あれから私に何にも教えてくれないんです!」

「別にいいじゃない?」

「よくないって!」

「教授! ゴーレムとか死とか、真理とか『e=5』とか、一体何なのですか? 教えてください。……っていうか、あのリュックの中に入っていた人形! あれ教授から恩師の女の子へのプレゼントだったんでしょ? 五線譜ノートも! ほんと大変だったんですから!」

「だから、知らなくっていいって言ってるだろ!」


「……ところでさ、トケルン? ど~して『♡5』を、ずっと最初から隠し持っていたの?」

「ん? 俺たちが無人駅に付いた時、君がお手洗いに行ったでしょ! あの時に俺、こっそりとリュックの中を見たから。そしたら人形が入っていて、徳川埋蔵金の謎々の辺りから、最後の謎々はゴーレムだろうなって」


「わかるの、そんなことがさ?」

「人形っていうキーワードを知っていたら誰でも気が作って! だって幽霊が最後に出す謎々に相応しいのが、ゴーレムの伝説だから……」


「ウソだ~!」


「幽霊とゴーレムは仲間みたいなものだから……」

「うそうそ! うそうそ~!」

「もういいって!」

「なんで? なんで? トケルンって! なんで教えてくれないのよ~ん?」


「あ~あ、わ、分かったから。……だったら簡潔に説明してやるから…………まあ。あの女の子はさ!!」




 自分がなんとしてでも言いたかったことを、

 謎々で必死に物語ってくれて――


 それは永遠に輝く星々を見て、私達が祈るように。

 私達が心から祈り続けるように――





続く


この物語はフィクションです。

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