第3話 やっぱり、まだ続きがあるんだね? 当たり前でしょ~! お姉ちゃん!
私達、解きたくもない謎を、解かなければならなくなったのです……。
2017年2月3日、第2外国語科目の授業が終わった教室――
「あ! 思い出した!! ところで教授! ゴーレムってなんなのですか?」
私、チウネルが真剣に教授に質問していたら、となりにトケルンがやって来て……。
そんでもって、ボソッと「RPG、RPG……」独り言みたいに言い続けてきて。
私、今度こそドツイタロカって、思わず右手をギュッと握りしめて、その手でトケルンのお腹を殴ろうと動きかけたら、教授が、
『あ! あ~。ユダヤ教に出てくる伝説のことかな??』
って、タイミング良く(私にとっては悪く)仰って……。
教授が、それが何かな? って顔を私に対してしたので、私は……
「それがも~大変だったんですよ! 教授の母校の恩師へのお使いの件ですよ!」
私はひとまず、トケルンへのお仕置きは置いておくことにして、
「そのゴーレムっていうのがですね! なんとね~!! 私達に襲いかかってきたんですよ! 危なかったんですよ~!」
悲痛な試練を無事に潜り抜けてきた自分達の思い出を――教授に言おうと。そしたら、
「だからさ、RPG、RPGですよ……」
「ちょっと! あんたうるさいってば!!」
トケルンが教授の前で、いつもこういう態度をとっているから、それに対して私が、トケルンにツッコミを入れるのは……いつものことなんですけど。
ほんとに今日だけは、少し本気でイラッとしました。
「教授、聞いてくださいよ! こいつ最後の最後まで、そのゴーレムのこと教えてくれないんです。襲われたのにですよ!!」
私はトケルンを指さし、感情的に喋り続けました。
そしたら教授は“?”な表情のままで――
私はハッと気がついて、これじゃなんにも伝わらないか……、ちゃんと順序よく説明しなければと思いました。
「とにかく、結論を言うとゴーレムとトランプの『♡5』のバトルなんです!」
「だからRPGなんだってば、お前さま!」
「だからお前って言うな! バカ!」
私達二人が睨み合っていると、そこを、まあまあ……という具合に教授が間に入ってくれて、落ち着いて最初から話してほしいということで……。
「ぜ~んぶ! こいつのせいなんですからね!!」
私は黒板に向かいチョークを手に持って、ひと呼吸ついて、そしてゴーレム談話の話を始めました。
「どうでしたか? 私のオムライスは?」
「お、おいしかったです……。ほんと」
「ええ! とても美味しかったです!!」
――翌日の午前の瑞槍邸を出る3人。
エルサスさんがこういう風に、トケルンと私チウネルに気軽に話し掛けてくれたので、私達もそれに愛想良く返事をしました。
エルサスさんが、私達の教授の母校の恩師の家まで、途中まで送ってくれるそうなのです。
「家の人には、昨日の夜にしっかりと電話しておいたから、今日は心配無く、君達は用事を済ませることができるからね。これも何かの縁かな? もしよかったら、いつでも遊びにおいで。泊まる部屋はいつも空いているからね」
印象良く話し掛けてくれるエルサスさんに、私はニッコリと会釈を続けました。
「それと、娘のことを、ありがとう」
「え? いえいえ……私達なんにも」
この時、エルサスさんは何を思っていたんだろう?
7年前に7歳で亡くなったナザリベス――
私達は逢うことができたけど、エルサスさん、やっぱり逢いたかったのかな? って……。
それとも自分が逢えなくなった娘と、謎々で遊んでくれたことのお礼というか、感謝の気持ちというか……。
エルサスさん、私達が自分の思いを叶えてくれたんだと、そう思っているのかな?
「私が10年前のあの時に、離婚を決断したせいで……」
「そんなこと、ありませんってば!!」
私はエルサスさんの重い空気をかき消したくて、ちょっとだけ大きな声を出してしまいました。
「そんなこと……ありませんって」
そして、私はすぐに小さな声に変わってしまったのでした……。
「君達は、やっぱり若いんだね。私からすれば、もう昔の話なんだけれどね」
「…………」
私達が無言で気にしているその隣でエルサスさんは、そんな私達を「はははっ」と笑って喋り掛けてくれました。
私が思っているこの気持ちを、エルサスさん『若いんだね』という言葉でひとくくりにして仰ってくれて。
(今ではそれが、あの演奏会を終えてみて……なんとなく理解できるのです)
「あ、分かれ道まで戻ってきた。右だったんだ~。やっぱだ! やっぱ!!」
おい? トケルンさん?
あなたはさ、私がシリアスな場面でちょっと感動的なシーンになったら、いつもそうぶっきらぼうで……あっけらかんに、お喋りをしますね? 何度も言わせてもらいますよ。
お前! ドツイタロカ!!
やっぱり、私の判断が正しかったんです! チウネルは大正解!
ブルドーザーが駐車してある、この分かれ道を右へ行くのが正解だったんです。 (*^▽^*)♡
「この道をまっすぐ歩いていくと川が見えてくるから、その川沿いにしばらく歩いて行って、橋を渡って杉林をぬけた所に、君達の目指す家があるよ!」
エルサスさんの親切な道案内に、
「本当にありがとうございました」
私は愛想良く振る舞う――
一方、トケルンに対して私は、
「ほら、トケルンも……ね!」
左足を踏みつけて少し睨んで、そしたらトケルンも……
「……ど~も、お世話になりました」
て言いました。
(ほらね~! 右の道だったでしょ!)
(だったら、昨日右の道に行けばよかったでしょ?)
……しばらくお互いに心の中でこう呟いて、睨み合って。
「じゃあ、ここまで来ればもう分かりますよね。……私は戻りますので、先方によろしくお伝えくださいね」
でも、こんなヤキモキした私達を気にすることなく……。
エルサスさんは右手を振りながら、瑞槍邸の自宅まで帰って行きました――
それに気が付いた私達は、ひたすら、ひたすら頭を下げて、道の奥の森林に消えていくエルサスさんに感謝しました。
……しかし、その実情はというと……“競って愛想良い笑顔作りバトル”なのでした。
ドンッ!
私はリュックを地面に降ろして言いました。
「トケルンさ~ん!! 罰としてここからはトケルンが、この重~いリュックを背負いなさい! いいわね!」
「嫌です」
トケルンの即答。
「だいたい、その重いリュックの中身はなんなんだ?」
「知るわけないでしょが!」
「知らないのに、重~いそれを背負わされて、腹が立たないのか?」
「……だってさ、もともとは私が赤点を取ったことが原因なんだし」
「なんだし? 赤点を取ったら、中身がなんなのかもわからないその重~いリュックをさ、君は背負わなければならないのかな~?」
「はい、そうです! これは罰なんですから。だからさ、今度はトケルンが罰を受ける番です!」
「……………」
私の開き直りの断言に、トケルンは絶句しちゃって。
そもそも自分が道を間違えたから、こんなことになったと気がついたんでしょう?
「…………お、重い……」
しぶしぶ、リュックを背負って私への冷めた視線。その視線を、私はフッと鼻で笑って。
「それでよし! さあ行きましょう!!」
気をとり直して、私達は目的地へ向かいました。
――しばらく山道を歩いていると、目の前に川が見えてきました。エルサスさんの言葉通りです。
山深いその川は細くて、小さな川だったのですけれど、流れは山の上ということもあって、少しだけ速かったです。
「なんだ? この川の色は?」
トケルンが背負っていたリュックを地面に降ろして、勝手に一休みを始めて。
彼が川を眺めてそう言ったんです。
私も見ると、その川の色は土色でした。
これだけ山深いのだから清流をイメージしていたのですけれど、まったくの泥水で、濁流だったのです。
「昨日、この山の周辺のどこかで雨でも降ったのか? ここまで来て風流が無いなんてのも、無人駅からずっと山奥まで登ってきた価値も、何もないな」
「それはさ、誰かさんが疫病神だからでしょ」
「……あ~、このリュック重い」
トケルンが再びリュックを背負いだして、山道を歩こうとしたので、
「おいこら! お前でしょが!」
私は彼を指さして、睨み付けてやりました。
――で、その川を川沿いに歩いて行くと、エルサスさんの言葉通りに橋が見えてきて。
それを私達は渡って……すべて、エルサスさんが教えてくれた通りの情景が続いていたのです。
――杉林を抜けて見えてきたのは、私達の目的地、教授の母校の恩師の家です。
その家も瑞槍邸のような洋風建築でしたが、その大きさは瑞槍邸よりは、少しだけこじんまりとしていました。
ですが、瑞槍邸が古風な洋風建築と表現するとすれば、こちらの家は現代的な日本の一戸建て住宅でした。
2階建てで、玄関の隣には駐車場があって……塀で囲まれていない今時の現代建築でした。
「ヴァイオリンだ…………」
「なあ? 聴こえてこないか? ヴァイオリン……」
トケルンが耳をすませています。
「ヴァイオリン…………?」
「ほら、演奏してる」
「トケルン? 演奏? ………………あっ!」
私も、トケルンと耳をすませていたら、
♪~♫♪♬♪~♫♬~♬♪~♪♩~
「ほんとだ! トケルン」
そのヴァイオリンの演奏は私達の目的地、教授の母校の恩師の家、つまり私達の目の前にある家の中から聴こえてきます。
「……なんの曲だろうね?」
私がトケルンに尋ねると……。
「……モーツァルトの弦楽四重奏15番・第一楽章の第一ヴァイオリンの旋律だ。ちなみにニ短調」
「わかるの? トケルン!」
「ハイドン・セット全6曲中の第2作。6曲中で唯一の短調作品だ」
いつものことだけれど、私はトケルンの知識の豊富さだけは驚きます。
すると、トケルンは、
「超有名なメロディーだから知ってる」
と謙遜でもない、一般常識みたいな感じで私にそう教えてくれました。
「……でも良かった! これでお家の中には、誰かいるってことが証明されたね!」
「お前バカか、昨日、電話で今日来るからって先に言ってあるんだから、いるに決まってるだろが」
「あ!」
それもそうだ、いるに決まっているんです。
トケルンが言ったように、エルサスさんが昨日の夜に電話してくれたのだからです。
「さあ行こう。さっさとこの荷物を届けて帰ろう! あの無人駅、電車が2時間に1本しかないぞ」
「……え?」
「今、この荷物を渡して、しばらくお話しして、そして無人駅まで歩いて帰ったら……ちょうど電車が来て、新幹線に乗って順調に帰ることができるんだから。タイミング逃したら2時間のロスだ! ヤバいぞ!」
「ん……。うん。そ、そだねっ」
ピンポ~ン!
「ごめんくださ~い。ごめんくださ~い…………ん?」
トケルンがインターフォンを押して、私が玄関に向かって言っていると、家の中から聴こえてきたヴァイオリンの演奏が止まりました。
ダッ ダッ ダッ ダッ
家の中から、2階から階段を駆け下りて、玄関まで走ってくる足音がします。
足音は玄関のドアのところでピタッと止まって、しばらくして――
「ど、どちらさまですか?」
その声は子供の……女の子の声でした。
「あっ、あの~、私達大学の教授からお使いを頼まれて、ここまで来た者なのですけれど……。あの~昨日電話で連絡があったと思うんですけれど、その者です。私達荷物を預かっていて、それを渡しに来ました」
「……だから?」
ドアの向こうの女の子が……どうやら私達に疑念を抱いている様子。
「……だ、だから、ちょっと開けてくれませんか?」
「嫌です。怪し人は家に入れちゃいけないって、ママが言ってるし」
「あの! 怪しくないですって! 昨日電話でね」
「十分に怪しいよ……」
「ちょっと、ねえ? ……だからさ!」
「じゃあこうしないか! 俺が、お前の好きな番号を当ててやる! 当たったらここを開けてくれ!」
いきなりです。
トケルンが、その女の子へ言いました。
「もう、トケルン! そんな変な事言わないでよ!」
彼って、なんでこうも空気読めないのだろ?
ドアの向こうには女の子がいて、その女の子が明らかに私達を不審に思っているんだから。
こういう時は穏やかにさ……と思っていたら。
「…………ほんとに? じゃ当ててみてよ」
と、その女の子は意外な返事をしたのでした。
「15421だろ?」
「即答って、んねぇ? トケルンさん? なんで、その数字なの?」
私は、トケルンに小声で聞きました。
「モーツァルトの弦楽四重奏15番・第一楽章、そのケッヘル番号は421。たぶん今さっきまでこの曲を演奏していたのは……そこの女の子だから。この数字を言えば、何かしらの反応があると思ってな!」
……あんたあてずっぽかいな?
私は呆れて、
「あのね、この男の言うことなんて気にしなくていいからね……、それでね」
と弁解しようとドア越しに話しかけていた時、
「入っていいよ~」
ガチャ ギギー
……なんとね、女の子が玄関のドアを開けてくれたのです。
――玄関のドアが開いて、半開きになりました。
じ……
と、その女の子がドアから顔を出して、私達を見つめます。
「……お兄ちゃん、お姉ちゃん、誰?」
私、ビックリしました。
何をビックリしたのかって?
それは、服装は現代の女の子だったし、ヘアースタイルも肩に掛かるくらいの長さのオカッパのような髪型だったし、声は一般的な女の子の高い声だったのですけれど……。
その、雰囲気がどう見ても7歳の女の子『ナザリベス』なのでした。
本当に雰囲気がナザリベスに……本当に、とても似ていたのでした。
だから、ここからは、この女の子のことをナザリベスと言わせてもらいます。
「あの、パパかママはお家にいるかな?」
「パパとママ、あたしが朝食を食べていたら電話が鳴って、すぐにパパとママ~、車に乗って町まで行ったよ~」
あっ! だから、駐車場に車が無かったんだと私気が付いて。
――私、しばらく考えて、
「パパとママ、いつごろお家に戻ってくるかな?」
って聞きました。
「そのうち帰ってくるんじゃないかな?」
ナザリベスは軽くそう言って、
「……あの、どうぞ。中に入ってください」
手招きして、私達を家の中へ上がらせようとしてくれました。
「あ、はい。お邪魔します……」
本来は、私はナザリベスの家の中に入れてくれるんだ……という言葉に遠慮しなければいけない場面なんだと思うのだけれど。
ナザリベスの……その生き写しのような姿に、私は心の中でずっと驚いていて、逆に興味を持っちゃったのでした……。
その一方で、
「ヴァイオリン、四重奏の第一ヴァイオリン上手だな!」
トケルンはナザリベスにそう言うと、頭の上をポンッと触って、その子に笑顔を見せて靴を脱いで、
「……それにしてもさ、なんで分かったの? お兄ちゃん?」
ナザリベスがトケルンに聞きました。
「さあ? なんでだろうな?? お邪魔しますぅ~」
すたすたと……遠慮することもなく家の中へと入って行きました。
――ナザリベス、リビングまで走って行って、私達も釣られてリビングまで行くと、
「ふふっ! ねえ? お姉ちゃん。これさ、もう少しで完成するから手伝ってくれる?」
「うわ~、すご~い!」
見ると、トランプを2等辺三角形のように積み重ねたピラミッドのような形――トランプタワーの完成の途中でした。
「うわ~、これ全部あなたが作ったの?」
「そうだよ~ん。あと少しで完成するの~」
ナザリベスが嬉しそうにそう言って、私もなんだか楽しそうだなって思って……。
勿論、ナザリベスのトランプタワーの完成を手伝いました!
……トケルンはというと、すぐそこのソファーに座って目を閉じています。
4段……3段……2段……と、トランプタワーを私とナザリベスが作っていくと、
「あれ?」
とナザリベス。
「あと1枚で完成できるのにトランプ1枚たりな~い」
と言って、あたりをキョロキョロ見渡しています。
「あれ? あれ~?」
ナザリベスが、キョロキョロ……後1枚のトランプカードを探し回っています。
トランプタワーは、後3枚で第1段まで完成できるのですけれど、そのためには3枚必要で、でも手元を見ると1枚足りないのです。
別にトランプカード全部を使用してトランプタワーを作っているわけじゃないんですけれど、手元にあるトランプカードは2枚しか見当たりません。
残り2枚では最後の1段を完成させられないんです。
「完成できないんならもういいや~。えい!!!」
「うわ、なにするの?」
トランプタワーを自分の手で叩いて崩してしまいました……。
やっぱり、ナザリベスは子供なんでしょうね、
「もう、そういうことしちゃ……ダメだよ!」
と、私はナザリベスの頭をなでなでして……。
ナザリベス、子供らしくグズンって涙ぐんでしまった。
「思い通りにならないからって、こういうことしちゃダメよ!」
と優しく諭して言うと、そう言ったら……。言ったらですよ……。
「……ふふふっ。呼ばれなくても、じゃんじゃかじゃ~ん! お兄ちゃ~ん、もう分かってるよね~?」
またこの展開でした。(-_-;)
――ナザリベスがまるで別人のように(別人なんですけどね)、スッと立ち上がってそう言ったのでした。
「お兄ちゃんでしょ? トランプタワーを作れなくしたのは?」
ナザリベスはトケルンをジ~ッと見つめて、
「そんな意地悪するお兄ちゃんには、お仕置きだよ~。お仕置きなんだからね~」
すると、トケルン。嬉しそうに……
「クエスチョンでオバケの登場か? さあこい! 謎々対決の第2ラウンド開始だな!」
「――ねえ! 教授! もう分かるでしょ? こいつが、その女の子のトランプになにかしらの細工をしたから、その女の子が怒って、そしてね、襲いかかってきたんですよ! 本当ですよ。私じゃないんです。すべてはこいつからはじまった悪夢なんです」
教授は無言で、ただ静かに私の言葉を聞いているだけでした。
「お前はさ、まだ分からないのか? 俺があの時、トランプを1枚隠し持っていたから、俺達は助かったんだぞ!」
トケルンは反論してきました。
「それは……今では分かっているけれど、でもさ、なんで、あの時に言ってくれなかったのよ?」
私が、トケルンにそう言いながら黒板にチョークで、
e = 5
と書いて、
「これなんですよ教授、これ! これのためにですね!」
私が記憶を蘇らせて、腹が立って、興奮して言うと、トケルンが、私とは対照的に冷静な口調でこう言ったのです。
「四重奏を完成させてあげたかったからだよ!」
「行っくよ! お兄ちゃん! 謎々行っくよ!」
ああ~そうなんだって思いました。
この女の子は、ナザリベスの魂が乗り移っているんだってことに――気が付きました。
理屈はよく分からないけれど、見た目からしてナザリベスと瓜二つなのだから……嫌、魂が乗り移ったから見た目もナザリベス?
幽霊の考えることは理解を超えていますよ……。
「お兄ちゃん! やっぱすごいね~!! だってさ、四重奏とトランプタワー、そしてお兄ちゃんが隠し持ってるそのトランプカード、そのすべてが揃った時。もうお兄ちゃんならさ、理解できているんだよね~?」
「勿論! あるなしクイズみたいなもんだからな」
自信ありげなトケルン。一方のチウネルはチンプンカンプンです。
「さっそく、まずはいつものやつから~!!」
「じゃじゃ~ん!!」
「もんだ~い。17560127×1778+8×265を計算してちょうだい~!!」
ナザリベスの言葉にしたがって、私はポケットからスマホを取り出して、計算機のアプリを使って計算しようとしました。
そしたら、トケルンが私の右腕をギュッと握って、
「だからさ~、謎々だって~の!」
と言いました。すかさず、
「モーツァルトのきらきら星変奏曲だろ」
トケルンがそう言うと、
「なんで~? なんで~??」
とナザリベスが聞いてきました。そしたら、
「バ~カ簡単すぎだろ。1756年1月27日に生まれたアマデウス・モーツァルト、彼は1778年にきらきら星変奏曲を作曲、その曲の音階はハ長調、作曲番号……つまりケッヘル番号は265、……ということだろ?」
「当たり~! さっすが、お兄ちゃん!! でもね、その音階をハ短調にして演奏すると、どうなるかな~?」
「やっぱり、まだ続きがあるんだね?」
私は思わず呟きました。予想通り、ナザリベスが続けて謎々を出してきました。
ナザリベスのなぞなぞは難解なのです――
「当たり前でしょ~! お姉ちゃん!」
「ハ短調? それが謎々なの?」
私がナザリベスに聞くと、
「とっても重要な、謎々だよ~。お姉ちゃ~ん!」
両手を腰に当てて、自信たっぷりげにそう返してきました……。
……そしたら、トケルンがナザリベスをじっと見つめて、同じく彼も両手を腰に当てて、
「ほんとくっだらねえな! 都市伝説の惑星ニビルの話か? 近い将来、南極に未知の天体が衝突して、南極の氷が溶けて地球の海面が上昇して、世界が破綻してしまう予言のことだな」
と言ったのです。
それにしても、お互いのこの自信はどこから生まれてくるのやら――
「お兄ちゃんはこの予言信じる~?」
ニヤニヤなナザリベスがトケルンに話し掛けると、トケルンは、
「君は、ウソしかつかな~いんでしょ?」
「へへ! あったり~!!」
ナザリベスがキャハキャハと、とても嬉しそうにはしゃいで――。
私、まったく意味が分かりません。
――後になっネットで調べたら、太陽系には惑星ニビルっていう、仮説上の太陽系第12惑星で未知の惑星があって、それがもうすぐ地球へ来るとか来ないとか……、天文学の分野ではけっこう有名な話なんですって。
「あははは、あたしウソしかつかなーい!!」
ナザリベスはそう言ってから、リビングにあるソファーの上に乗って……はしゃいで、はしゃいで。
やっぱり、謎々対決しているこの瞬間が楽しいのでしょうね……。
「更にさ、続けるよ~!」
「ああ……やっぱりまだ続けてくるのね」
ソファーで飛び跳ねているナザリベス――まるで猿蟹合戦の柿の木の上のお猿さんです。
……ということは、チウネルは
「モーツァルトの弦楽四重奏の15番をさ~、ウサギたちが演奏したよ~。どこでかな~?」
ナザリベスが右手を顎に当てて、首を傾けて「どこでかな~?」って言った時の仕草――
ちょ~かわいい!
思わず、スマホで写真を撮ってやろうかなって思ったんですよ。
けど……よく考えたらさ、ナザリベスって幽霊だから、心霊写真になってしまうじゃないって気が付いたので、……止めときました。
「月。十五夜のお月様だ」
私が「ちょ~かわいい!」って原宿竹下通りのお店のウインドウで「これ、ちょ~かわいい!」な感じで感動していたのに……こいつ、トケルン! 瞬殺で、あっさりと解答したぞ。
でも、更にすかさずのナザリベス。
「じゃあ、観客達は何を食べて、演奏を聴いたと思う~?」
「あ! それなら私にも分かります。月見団子でしょ?」
私も負けてられません。
だから、今回は自信をもって解答しちゃいましたよ!!
「ブブー!」
「ブー!!」
って、ナザリベスとトケルンの二人が同時に、私に両手でバッテン作って不正解だと教えてくれ……、
「え? なんでよ~?」
私は絶対に、正解だと思っていたんです。思うでしょ? 普通??
「お兄ちゃん! 解答権が回ってきたよ~。答えをど~ぞ!」
ナザリベスの身体、トケルンに向きました。つまり、私を背にしています……。
「……リンゴ」
「うわ~! 正解!!」
「え~なんで? とける~ん。私はもうダメ……」
なんだか着いて行けません。ナザリベスの難解謎々に……。
チウネル……ヘナヘナと腰砕け状態になって、両足をハの字にして床に座り込んじゃった。
……別に、トケルンに泣きついて、試合放棄したわけじゃないですからね。
「お前さ、自分の持っているスマホの裏のマークを見てみろよ。“月”の満ち欠けがマークになってるだろ?」
私は慌てて、ポケットからスマホを取り出して、そのマークを見つめ……
「あっ……。リンゴが欠けてる」
「……でも、本当に君という女の子はウソしかつかないね。ウソしかつかないという嘘を、ひたすら、謎々で付き続けてくる君は、本当に可愛いよ」
トケルンが笑顔で言いました。腰に手を当ててこいつ、いきなり何格好付けて言いだすんだろって!
相手は7歳の女の子――いくらなんでも若すぎるぞ! 私は心の中で刹那、癇癪そう思った。
「いや~ん。お兄ちゃんて!! でも、だ~いすき!!」
そしたら、ナザリベスもトケルンの言葉に合わせるように、そう照れながら言ってきて……この二人、相性が良いのかもって思ったのです。
「でも、昨日と違って今日は言わせてもらうよ!」
けれど、トケルンがいきなり真剣な目をしてナザリベスに言いました。
腰に手を当てた状態で――
「君と、君のパパとママ、そして今、君が乗り移っているこの女の子。4人……つまり四重奏。……君は、まだこの世界に未練があるのかな?」
「……ほんとはさ。…………ないんだけどね」
ナザリベス、さっきまではしゃいでいたソファーに座って……寂しく言いました。
「じゃあ、君はなぜ、ここまでして俺や、こいつに対して謎々を出し続けてくるのかな?」
なんか昨日とは違って、今日のトケルンはとても積極的に思えて……意外性がノーマルを超えて、昨日の彼と照らし合わせて考えて――勇ましく感じられ……
(でもさ、こいつとか、お前とかは、止めてほしいんだけれど……)
「トケルン、いったいどういうこと? 四重奏ってのは?」
私はトケルンに率直に尋ねた。
「この女の子は魔女としての異端の運命を、訴えたいだけなんだよ……」
「ま、魔女? 魔女って、あの中世のヨーロッパの歴史に出てくる……あれですか?」
もしかして、ナザリベスって実は、魔女の血筋を受け継いできた家系なのっていうオチなの?
――刹那、脳裏に映画ジャンヌ・ダルクのラストの場面が浮かんだチウネル。
「ふふふ! お兄ちゃん。あったり~!!」
うわ! 私の予想が当たっちゃった! もうさ、びっくりしました!
今度こそ、本物のチンプンカンプンですよ!! ビックリクリクリものですね。(@_@)
「あたし達魔女は、ずっとこの星で、この世界のために平和と安定、そう、世界のバランスの維持のために、ずっと 尽くしてきたんだから~。あたし達のこの行為に対して、この呪われた名称、この汚名を~。どうか、どうか…… ねえ? お兄ちゃん、お姉ちゃん…………………………」
ナザリベスが両手を目に当てて、今にも泣きそうに……いや泣いてるし。
私達に切実に、訴え掛けてきて……。
「そ……、そんなことないわよ。あなた、呪われてなんかないわよ」
だから、私は何とかしようと思って、
「そりゃ、幽霊だから呪われてないっていう言い方も……どうかとは思うけれど。でもさ、こ……この世の中にはさ! 良い幽霊だっているんだから!」
「良い幽霊? それあたしのこと?」
ナザリベスが手の隙間から、チラッと私を見つめて聞いてきた。
「わ、私はあなたは……そう! 良い幽霊だと思ってるわよ!」
「本当に? あたし、ウソしかつかなーいのに?」
「ウソしかつかなくったってさ、心ってものがあるのよ! 幽霊にだってね。そう心だ! だから気持ちの問題! 気持ち一つで呪いなんてものはさ……」
「おい! お前さ……」
私の肩をチョンチョンと指で突いて、トケルンが言ってきて。だから、チウネルちょいとカチーン。
「だから、お前じゃないって!」
その手を肩を揺すって払い除けてやりました。
こいつ、相変わらず空気読めない男だなって軽蔑し……
「お姉ちゃん! ひっかかった~!! ふふふ~」
しかけて……。そしたら、ナザリベスがいきなり大笑いしながら言ったのでした。
「…………え? どゆこと?」
キョロキョロとして、トケルンとナザリベスを交互に見続け。そしたら、
「君が謎々対決を放棄したから……。私はもうダメ~って放棄したでしょ?」
トケルン。あっさりあっけらかんと淡々と教えてくれました。何をか……分かりますか?
「放棄?」
「魔女だけに……ホウキだ」
「…………うわっ! もしかして二人の冗談なの?」
「違うよ~! 謎々だよ~ん」
……ほんま、恥ずかしかったです。
なんてハイレベル謎々だって。冗談でも、すごく凝った冗談だと思っちゃいましたよ。
「あたしさ~、ずっとウソしかつかなーいって言ってたのに、お姉ちゃん、ひっかかったねぇ~」
ナザリベスがまた、ソファーの上に飛び乗って、ピョンピョンと嬉しそうに飛び跳ねて喜んでいます。
……ナザリベスちゃん。
よっぽど嬉しかったんでしょうね。
でも、チウネルの感想はというと……まったくさ、ほんとに、なんなのでしょうね…………。
幽霊の謎々ってのは、こうも間髪を容れずに次々と出してきてさっ!
感想だけに間奏。
続く
この物語はフィクションです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます