第49話 環境軍

 カタストロは何万もの環境軍兵士に囲まれている。


「かかってこい。私は逃げも隠れもしないぞ」


 その言葉に掻き立てられてか、兵士たちは突撃を仕掛ける。

 叫び、武器を持ち、カタストロへ怯えながらも駆ける。カタストロはそんな彼らへ手をかざす。その瞬間、暴風が兵士たちへと吹き荒れる。兵士たちは吹き飛ぶ。が、その中を掻き分け、六重丸将軍は駆け抜ける。


「『凝水刀』」


 六重丸将軍の手には水でできた刀が創製される。

 その刀を強く握りしめ、六重丸将軍はカタストロの腹へと一撃をいれる。が、カタストロは腹を金属で固めているため、刃は通らない。

 カタストロは六重丸将軍の腹を蹴り、吹き飛ばす。


「脆い脆い」


「『猫爪』」


 爪狩将軍は指先から生えた長い爪を振るい、カタストロの頭部へ振るう。だがカタストロは避け、着地したばかりの爪狩将軍へ電撃を浴びせる。

 そんなカタストロへ、光の矢が放たれる。カタストロは咄嗟に数歩離れた後方へ移動する。が、そこには斬花将軍が待ち受けていた。


「『一刀撃』」


 斬花将軍の刀が氷の大地を思いきり叩いた。

 カタストロはその一振りを危機一髪で回避し、斬花将軍と距離をとるため、今度は横へと移動する。だがここには万を越える環境軍の兵士がいる。そう簡単には逃げられない。


 横へ逃げたカタストロは、幻鳳将軍の重たい拳をもろに受け、体が少し宙に浮いた。その瞬間を逃さず、光の矢がカタストロの体へと何本も刺さった。

 カタストロの体からは血が溢れる。

 だがしかし、カタストロは膝をつかず、幻鳳将軍の腹に火炎をぶちまける。


「熱い熱い。だが、煙の鎧で何も効かねーよ」


 幻鳳将軍は拳を振るい上げ、そのまま氷の大地へと振り下ろした。

 カタストロは前半身から火炎を放出し、その反動で後方へ下がり、幻鳳将軍と距離をとった。


「ちっ。逃げたか」


 幻鳳将軍は舌打ちをするが、深追いはしない。

 カタストロは想像以上の手数に、汗がにじみ出る。だが表情は、一切の曇りもない、笑みを浮かべている。


「さすがは〈大災害〉の王。けど息が上がっちゃってるねー」


「うるせーウッドマン。雑魚は黙っていろ」


 カタストロはウッドマン博士へと駆ける。

 ウッドマンは腰に収めていた刀を抜き、その刃先をカタストロの頭部へと向ける。そして一発の銃声が鳴った。

 その銃声はウッドマンの刀から放たれたものであり、その弾丸を額に受けたカタストロは前へ進む体とは裏腹に、頭から煙を出して後ろへさげている。


「ヒットしているな」


「だが、効いていない」


 カタストロは薄ら笑いを浮かべ、ウッドマンへと飛び、空中から電撃を放出する。

 ウッドマンは刀を盾に変形させてそれを空へと身構えた。

 だがウッドマンの付近にいた兵士たちは電流に倒れる。


「おいおい。雑魚は来た意味あるのか?」


「雑魚じゃない」


 セシルは盆栽を手に持ち、その盆栽を操ってカタストロを縛る。


「『速縛』」


「さすがだな。木の扱いは誰よりも長けている。だが、私の前ではきなど無力」


 カタストロは全身から火炎を放出し、木を溶かした。


「はーい。これで終わり」


 カタストロは狂気の威圧を出しながらセシルへと飛び込む。あっという間にセシルの背後へと移動した。


「『紅蓮脚』」


 カタストロは足に獄炎を纏わせた。その足を振り上げ、セシルへと振るう。


「『光の盾』」


 だがカタストロの足はセシルの頭上に現れた光の盾によって護られる。


「相変わらず、陽風の力は邪魔だな」


「それはそれは、誉め言葉として受け取っておくよ」


「あいかわらずうるさい小僧だ。それだからいつまで経っても身長が伸びないんだよ」


「うるせー」


 陽風将軍は光の矢を何本もカタストロへと飛ばす。

 カタストロは陽風将軍がしたように光の壁を精製し、光の矢をいとも容易く防いでみせた。


「私はねー、君たちとは少し違って特殊なんだよ。だから君たちの攻撃は無意味さ」


「カタストロ。だから君は大嫌いだよ」


 陽風将軍はカタストロの背後へ光の矢を無数に出現させる。


「僕は光が存在する全ての場所が僕の能力の届く範囲。つまり、君の体を一瞬で穴だらけにもできるんだよ」


 光の矢はカタストロの背中へと何本も刺さる。

 カタストロは口から血を吐くが、やはり膝をつかない。

 陽風将軍は懲りずに、何百本と光の矢をカタストロの背中へと刺し続ける。だがカタストロは倒れず、後方を振り向き、一瞬にして光の矢を消滅させる。


「僕の矢を!」


「『火炎龍』」


 カタストロは陽風将軍へと龍の形を成した火炎を飛ばす。陽風将軍へ火炎が激突するも、陽風将軍には当たらない。


「僕は光を遮断できる。つまりは攻撃は無力」


「だが格上の光使いならばどうだ?」


 カタストロは陽風将軍の背後に光の矢を無数に出現させた。光の矢は陽風将軍を襲うも、光の矢は陽風将軍へ当たる前に消滅する。

 安堵する陽風将軍であったが、徐々に陽風将軍へ光が当たる。それは矢が陽風将軍のバリアを突破するのと同じこと。陽風将軍はカタストロが受けたように、背中が無数の矢で串刺しになる。

 陽風将軍は吐血し、氷の大地に転がった。


「まじかよ」

「俺たちの将軍がやられたぞ」

「これが〈大災害〉の王!?」


 第八環境軍の兵士たちは、自分たちの圧倒的な強さを誇る将軍が敗北したことに驚きを隠せずにいる。

 そんな彼らに目をつけ、カタストロは足に電流を纏わせた。


「さあ、次は誰かな」


 カタストロは足から電流を発射し、棒立ちの第八環境軍兵士たちへと飛び込んだ。


「さあ、血祭りだ」


 カタストロは電流を纏った足を振り上げ、そして大きく振り下ろす。だがそれを防ぐように、アリーゼ・アーカイブズが腕で受け止めた。


「お前ら。ここ戦場だ。死にたきゃ勝手に死ねばいいが、戦う気がないのなら邪魔なんだ。武器を握れ。能力を使え。ただ力を込めて、敵を撃つ。それが環境軍じゃなかったのか?」


(相変わらず、私もお人好しになったな。神野王と出会ってから、私は変わってしまった。おかげで、覚えたくもない環境軍の心得まで覚えている始末。ったく世界とは、面白すぎる)


 アリーゼは伝導体。

 つまりはカタストロの電流を自身でもコピーし、拳に電流を纏わせてカタストロの顔面を殴る。だがカタストロは顔面を金属で固くする。だが、アリーゼは止まらない。


「その金属が溶けるまで、火炎を放ってやるよ」


 アリーゼは拳に力を込め、津波のような火炎をカタストロの顔面へと放つ。少しずつカタストロの顔を覆う金属は溶けている。


「相手が必ずしも待ってくれると思うなよ」


 カタストロはアリーゼの脇腹を蹴り、氷の大地へと転がした。

 とどめを刺そうとカタストロが腕を刀に変形させた途端、爪狩将軍が再び長く鋭い爪でカタストロの顔へ傷をつける。もカタストロは重心を下げ、その攻撃を回避した。

 カタストロが爪狩将軍へ電流を浴びせようとした刹那、林輪将軍は全身を固い土で覆い、土の拳でカタストロを殴った。さすがにそれは効くらしく、カタストロは立ったまま吹き飛んだ。そして数十歩離れた場所へと着地する。


「ちっ。何だよあの化け物は」


 カタストロも目の前にいる土の化け物に驚いている。

 そんなことも知らず、林輪将軍は土の拳で何度もカタストロを殴る。カタストロはそれを真似し、全身を金属で覆う。


「ほう。これは素晴らしい発見だ。どこから攻撃がきても全く意味がないな」


 カタストロは全身を金属で覆い、全身を土で覆っている林輪将軍へと駆ける。

 林輪将軍は拳で迎え撃つも、カタストロの金属の拳により、林輪将軍の右腕を覆っていた土は一瞬にして砕けた。そこへ追い討ちをかけるように、カタストロは林輪将軍を覆う土の心臓部へ打撃をいれる。その攻撃により、林輪将軍の体を覆っていた土が全て粉々に砕ける。


「脆い脆い脆い」


 カタストロは完全に狂気に満ちた目となり、全身を露とさせた林輪将軍の腹へ蹴りをいれる。林輪将軍は氷の大地へと吹き飛んだ。


「はいはい。弱い弱い。もう少し頑張ってよ」


 すると、カタストロの指が草に変形して地面へと落ちた。カタストロの指は全て消え、驚きに支配される。

 カタストロは視線をキョドらせ、そして犯人を見つけた。


「さすがは第五環境軍将軍、草術花。見た者の体を徐々に草に変え、そして体をむしりとる。こっちは既に左腕が吹き飛んでるって言うのに、もう片腕も失くしときたいのか。相変わらず傲慢だな」


 カタストロの視線は草術花へと向けられる。

 花将軍の護るように、十人ほどの兵士が刀を持って守護している。


「兵士の壁など意味ないが、あいつの背後にいる斬花。あいつさえいなければ、突破できるんだがな……」


 カタストロは抜け落ちていく右手の指を心配しつつ、戦況を冷静に判断する。

 だがどこをとっても穴はなく、カタストロはため息を吐く。


「これが天下の環境軍。さすがは何百年も魔人から世界を護ってきた存在だ。だが私も何百年も生きてきた。お前らのような政権交代の将軍どもに負けるわけないだろうが」


 カタストロは氷の大地へと手をかざした。

 その行動を見て、神野王は手から刀を生み出し、それを飛ばしてカタストロの右腕を吹き飛ばした。


「神野王。さすがにこれは一本取られた」


 カタストロは笑顔でそう言った。


「ここ氷の大地は霞姫が命をとして創った大地だ。そう簡単には壊させないよ」


「おいおい。たった一瞬で私の策略を察するとは、さすがは"世界最強の悪魔"だな」


「カタストロ。この戦いはお前を倒すためだけの作戦だ。だからこそ、この戦いで命を懸ける意味がある」


 神野王に全身を覆っていた黒い殻はめりめりと剥がれていき、神野王の真っ白な素肌、そして真っ白な短髪、さらには何にも染まらない瞳に、輝かしい涙腺。

 まるで天使、悪魔というのが嘘のように、神野王は背中に真っ白で美しい羽を生やした。


「なあ。僕は世界最強の悪魔、そんなものじゃない。僕は世界最強の天使、神野王。つまりは、世界の救世主だ」

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