第48話 凍てついた心
神野王は、絶望を感じていた。
目の前には、悪魔となって、いや、ただの悪魔ではない。今のカタストロの姿は、誰もが知り得ぬ存在であるカタストロ。つまりは、"悪魔の王"。
「神野王。お前じゃ私を殺せない」
カタストロはそう宣言し、神野王へと駆け抜ける。
カタストロは一瞬にして神野王の前方へ立つと、電撃の拳で神野王の顔面を思いきり殴る。神野王は後方へと吹き飛び、地面を転がりつつも何とか着地をして砕けた氷解をカタストロへと飛ばす。
「無駄だ」
カタストロから放たれた威圧。それに気圧されるように、氷解は砂粒のようにして砕ける。
カタストロは咄嗟に体を浮かし、近づいてきた神野王へと近づく。
そして神野王が蹴りを入れてきた途端、カウンターとしてカタストロは神野王の腹へ手を突き刺す。
神野王は悶絶し、腹から血を出して地面へと転がった。
「おいおい。腹に穴が空いただけで死ぬなよ。私は首が吹き飛んでも死なないのだから」
「くそ……。まだああああぁぁあぁぁぁっぁ」
神野王は立ち上がった。
これ以上倒れるわけにはいかない。
これ以上止まるわけにはいかない。
いくら自分が犠牲になろうとも構わない。だが、誰かが傷ついているのはもう見たくない。
きっと誰の記憶にも残らない。
きっと忘れてしまうから。
それでも男は立ち上がった。
自らの定めに抗い、何度でも倒れようとも、世界を護れるのなら、誰かを救えるのなら、この命まど、いらない。
もう二度と、何かを失うのはごめんだ。
「ああ。どうして僕は……闇堕ちしてしまったのだろう……」
神野王は落ち込んだように夜空を見上げた。
孤独に輝く一等星が、徐々にこの星へと近づいてきている。
もうすぐ世界は終わってしまう。
けれども、終わるのは僕だけで十分なんだ。
きっと、きっと、失うのは痛いことだから、だからごめんね。
斬花将軍、早乙女、アリーゼ、スペイシー、セシル、根羅々将軍、ハーク、ウッドマン博士、ウッダー、藍原加奈、皆、ごめん。
「神野王。もうそろそろ終わりにしよう。お前を葬って、あとは悪魔を無限に生み出し、そして世界に恐怖という二文字を与え続けよう。それこそが、私の望む世界」
「そんな世界で……誰が得をする?」
「そんなの決まっているだろ。私たち〈大災害〉だよ」
当たり前のような顔をし、カタストロは言った。
「相変わらずお前らは、本当に無価値だよ」
「ああ?」
怒りの言葉でカタストロは睨む。
だが神野王は今にも死にそうな目でカタストロを見、そして微笑んだ。
ああ。こりゃー、負けるな。
さすがにこんなボロボロの体じゃ、きっとどこにも飛べないのだろう。けど、僕はもう後戻りはできないんだ。
多くの人を殺し、そして多くの者に生かされてきたんだから。
きっとこの選択を、僕は永遠に悔やむのだろう。
きっと、僕はここまま灰となり、世界を救った英雄として、崇められるのだろう。いや、それはないか。
どうして僕は死ぬ?
どうして僕は朽ちる?
どうして僕は終わってしまう?
嫌だなー。このままじゃ、死んじゃうんだなー。
僕は、悪魔さ。
世界に恐怖を与えてしまう、そんな害のある悪魔さ。
だからごめんね。皆。
僕は、死ぬよ。
「カタストロ。僕はお前を、殺す」
「かかってこい」
僕は終わってしまう。
けど、何一つ護れないよりも、何かを護れる、そんな悪魔になれたのなら、僕はきっと後悔をしないだろう。
だから僕が、世界を護る。
「『
僕は悪魔のような忌々しい角を生やし、全身を黒い殻で覆った。
忌々しいまでの黒い殻に身を包み込み、僕は戦う。
「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ」
叫び、僕はカタストロへと突進する。
カタストロは僕へと手をかざす、がその瞬間に背中から羽を生やして空を飛ぶ。そしてそこから飛び蹴りをいれ、カタストロは地面を足で削りながら後方へと移動した。があまり効いていない。
さすがは多くの環境軍が協力しても勝てない相手だ。だけど、僕がやらないと。
「『
全身に電撃を纏い、カタストロの腹を掴んでそのまま押し倒した。もちろん僕から電流が放たれているため、痺れるはず、だがしかし、カタストロには全く効いていないようだ。
このままでは、勝てない。
「『
火炎が僕の全身から放たれる。だがカタストロはその攻撃など無意味かのように平然とし、僕の腹に空いた穴を蹴り飛ばした。僕は痛みで吹き飛び、氷の大地へと転がった。
「やっぱ……強いな…………」
「神野王。お前じゃ勝てないんだ。もう諦め……」
たった刹那、その刹那に、カタストロの左腕は斬り飛んだ。
「では、私たちも協力しよう。我ら環境軍全勢力をもって、カタストロを撃て」
この氷の大地に集結していたのは、刀術斬花、並びに全環境軍の兵士たち。
「やっと忌まわしき〈大災害〉との決着がつけられる」
第一環境軍将軍ーー水術六重丸
「久しぶりのカタストロ戦。これは楽しまなければ」
第二環境軍将軍ーー土術林輪
「寒い寒い。こんな寒いところで戦ってたのかよ。しかも滑りやすいし。まあ俺は空飛ぶから関係ないけどな」
第三環境軍将軍ーー風術止紋
「懐かしいな、神野王。お前には何度も助けられた。ならば、助けに来るのが当然であろう」
第四環境軍将軍ーー木術根羅々
「桜木の、枯れ散り行く手の山際の、白き恋花、時雨も待たず」
第五環境軍将軍ーー草術花
「青薔薇戦。ようやく神野王に再会できたじゃねーか。あの時救った甲斐があったわ」
第六環境軍将軍ーー雲術幻鳳
「戦うのは好きじゃない。だが戦えと言うのなら、戦うぞ」
第七環境軍将軍ーー石術岩奈
「光がなければ攻撃など届かない。つまりは僕は無敵。だから僕は死が似合わない」
第八環境軍将軍ーー光術陽風
「将軍が死んでしまった今、俺は将軍の代わりにこの軍を率いらねばならない。だから皆の衆、俺についてこい」
第九環境軍中将ーー黄坂壁慈
「風が吹いているな。まあでも、私は風すらも葉に変えてしまう、いわば最強である」
第十環境軍将軍ーー葉術枯華
「にゃんにゃんにゃー。にゃにゃにゃにゃにゃんにゃーにゃん。にゃんにゃんにゃー」
第十一環境軍将軍ーー猫術爪狩
「いやー、まさか裏切り者が霞姫だったとはな。さすがに驚いたぜ。だがそれより驚いたのは、神野王、お前が突然いなくなったことだぜい」
第十二環境軍将軍ーー砂術縛漠
「神野。相変わらずお前は、無茶ばかりするな。だがそれも今日で終わりだ。あとは私たちに任せておけ」
民間環境軍将軍ーー刀術斬花
「斬花将軍!」
神野王の目に映っていたのは、全十三環境軍の
「もちろん私たちだけではないぞ」
「久しぶりだね。神野くん」
民間環境軍中佐ーー束根セシル
「俺も来たぞ。まあ尾前が心配というのもあるが、何よりカタストロには因縁があるからな」
第四環境軍少将ーー青薔薇戦
「神野王。まだ世界を救う手だてはあるぞ」
第四環境軍博士号ーーウッドマン
「はー。〈大災害〉に囚われてから長かった。けどお姉ちゃんが救ってくれたから、良かった良かった」
魔人研究学会博士号ーーウッダー
「神野王。相変わらず何もかも一人で終わらそうとするんだな。人間になっても魔人の時も、大して変わらないな」
魔人研究学会会長ーーハーク・トースター
「そうそう。私たちも頼りなさい」
「そうよ。ガキじゃないし」
「そうそう。私たちは人間だからね」
小悪魔ーーラーカ、サリー、シャレン、アリアドネ、レイラー、スリザー。
「神野、お前って奴は、早乙女が心配していたぞ。急にいなくなって、それからずっと見当たらなかったんだから。まあでも見つかって、あいつは安心してると思うぞ」
伝導体ーーアリーゼ・アーカイブズ
「ちょっとアリーゼ。神野、あなたが来なかったせいで、祭りが全然楽しめなかったじゃない。もう迷子にならないでよね」
民間環境軍兵士ーー早乙女翔川
「皆、どうして!?」
「実はな、一人の女性が教えてくれたんだ。今この島でカタストロと神野王が戦っているって。だから私たちは駆けつけた」
早乙女は静かに神野王へと歩む寄る。そして、早乙女は神野王を温もりで抱き締めた。
「もう一人で戦わなくていいよ。君はもう、一人じゃないんだから」
早乙女の温もりに温められ、凍てついた心が徐々に溶けていく。その涙が目からこぼれ、神野王は早乙女の胸の中で崩れた。
「神野王。君は、もう一人じゃない」
「早乙女……」
いくら強い悪魔であろうと、孤独には勝てない。
だから正義は、勝つんだよ。
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