第46話 孤独の悪魔
隕石が降るまで、あと十日。
もうすぐ終わりを迎える世界は、やけに暗く、毒のような空気が漂っている。
「さあ、始めようか」
それが世界など、そう思えないほどに世界は混沌へと叩き落とされていた。
悲しみと憤怒が入り交じる世界で、神野王は一人の男の死骸に喰らいついていた。
だがしかし、その現場を、通りすがりの一人の男が凝視していた。
「プ……プテラノ!?」
神野王が喰っていたのは、翼をもがれたプテラノの死骸。その肉を旨そうに喰らい、神野王は傲慢に、そして完食した。
そんな神野王へ、男は火炎を背中から発射して神野王へと飛び込んでいた。
「やっと来たか。インフェルノギア」
「神野王おおおおおおおおおおお」
インフェルノギアは全身に火炎を纏わせ、紅蓮の拳で神野王の顔面を殴った。だが、神野王は顔を金属で硬化しており、インフェルノギアの拳が神野王にダメージを与えることなどなかった。
インフェルノギアは宙で身をふらつかせ、その瞬間に、神野王は電撃を纏った拳でインフェルノギアの腹部を思いきり殴った。インフェルノギアはその衝撃に投げ飛ばされ、見事に吹き飛んで背面にあった巨大な木へ激突する。
インフェルノギアと神野王。
二人が戦っているのは緑に囲まれた樹林の中。しかもそこは木の魔人が生息している島でもあり、環境局が放棄した島でもあった。
だがしかし、インフェルノギアの憤怒で燃え盛る炎により、その島は火炎に包まれている。
「インフェルノギアくん。君のせいで島が火炎に染まってしまったね。どうする?まだ僕と戦うの?」
神野王は不敵な笑みを浮かべ、勝者の佇まいでインフェルノギアへと歩み寄る。
対してインフェルノギアは、電撃にやられて体が痺れて動けない。何とか火炎は出せるものの、やはり力は入らない以上は膨大な火炎を出せない。
それを見破ってか、神野王は無防備な状態でインフェルノギアのすぐ正面まで顔を近づけた。
「ねえねえ。君ってさ、ひょっとして弱い?ねえ、弱いよね」
神野王の挑発に、インフェルノギアは拳で答えることができない。
さすがに神野王も拍子抜けしたのか、足に電撃を纏わせ、その足をインフェルノギアの顎に当てる。
「えっとね、今からするのはただの一方的な攻撃だから、ごめんね」
神野王はそう言って、足を光の速さで何度も動かしては、血を周囲へと錯乱させた。
ボロボロになるインフェルノギア。
そして神野王の影には狂暴な悪魔が映り、その悪魔はインフェルノギアを喰らった。
「これであと五人。いや、裏切り者も合わせれば六人かな」
不敵な笑みが闇に紛れ、そして彼はとある場所へと足を運ぶ。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
いつだって、いつだって、私は間違えて生きてきたんだ。
だからきっと、こも選択も間違っている。
そんなのーー解ってるよ
第九環境軍将軍ーー
いくら透き通っている白銀の氷解でさえも、人の手に触れてしまえば、簡単に汚れてしまう。
ああ。どうして私はこんなにも無力なのだろうか?
「はじめまして。氷術霞姫さん。いいや、〈大災害〉への内通者ーー霞姫」
霞姫が振り向くと、氷解の上に座った一人の男がいた。
「おやおや。また会えるとはな。神野王」
「まさかお前が第九環境軍の将軍だったとは。あの日は第十環境軍の島であったから第十環境軍将軍だとばかり思っていたよ」
「そんな遠くから私を探しに来ていたのか」
「あれ?一人称や喋り方が違うが、何かあったのか?」
「これが本当の私だよ。氷に閉ざされたままの私だ」
酷く悲しい目をした彼女は、冷たい腕を上へ振り上げた。
結局彼も、私を殺しに来たのだろう。
結局誰も、私を救ってはくれないのだ。
結局私は、ヒロインにはなれない。
「どうせお前は私を殺しにきたのだろう。グレイやクロウド、他にも多くの仲間を殺してきたお前は、次は私を殺しにきた」
「よく解っているじゃないか。そんな君には敬意を表し、楽に死なせてやる」
神野王は右手人差し指に電撃を纏わせ、一歩ずつ霞姫へと歩みを進める。
ああ。きっと私は死んでいく。
相手は仲間を次々に殺していった大罪の悪魔ーー神野王。
どうして私はこんなにも弱い?どうして私は死ぬというのに死を受け入れている?ねえ、どうして私はーー死んでしまう。
神野王が向けた人差し指。
私はそれを咄嗟に避けた。
死ぬのが怖かった。
そんな単純な理由じゃない。
私は怖かったらかじゃない。ただ生きたかったんだ。
死ぬのが怖い?違う。生きたいんだ。私は心の底から生きたいと思っている。
「神野王。私は君には負けない。だから、存分にかかってこい」
ああ。こんなことを言わなければ、楽に死ねたかもしれないのに。
けどどうしてかな?やっぱ私は、生きたいよ。
「霞柱」
氷結の柱が天を喰らい、氷の大地から神野王を襲うようにして生えてきた。だがそれにいち早く気づいた神野王は、身を翻してそれを避けた。
だが霞姫の猛攻は止まない。
「霞霧」
冷たい霧が周囲を錯乱し、その寒さに耐えかねてか、ところどころが氷によって凍り漬けにされていく。
だが神野王は全身に火炎を纏わせ、氷がなかったもののようにして立っている。
「霞姫。抗うと言うのならば、全力を以てして迎え撃とう」
「安心しろ。負けるのは君だ、神野王。ここは氷のフィールド。いわば、私が負けることは、万が一にもあり得ない」
霞姫は自信たっぷりに言った。
「さあ、死んでもらうぞ」
霞姫は氷解を手から放つ。だが、神野王は全身を灼熱の業火で燃やし、氷をいとも容易く水に変えた。
「まだまだ」
それでも懲りずに氷を乱射し、神野王を倒そうと必死に氷解を飛ばす。
さらには隕石のように巨大な氷解を空から降らせる。も、神野王は雷を降らせ、氷解を木っ端微塵にして破壊した。
「まだまだ」
霞姫は全力を出し、周囲を氷山のようにして一瞬で凍り漬けにした。
白銀で透き通る世界。
息すらも凍り漬き、寒さが肌へ染み渡る。
「『
灼熱が吹き荒れ、何もかもを燃やして獄炎が吹き渡る。
氷などは一瞬にして溶け、雨上がりのように水溜まりがいくつもできあがっている。
「はあ。完敗だ」
「なかなか手強い相手だったよ。だが、僕の方が上みたいだな。まあでも、全力を出したのは、お前が初めてだがな」
全力かー。ならあと少しで勝てたのかな?
そんなわけない……って解ってるけど、どうしてか?負けたって言うのに、嬉しいんだ。
ーー私、頑張ってよね。
「霞姫。またいつか生まれ変わったのなら、きっと、今度は間違った道を歩まないように、自分が進んでも後悔しない道を歩めるように、自我を大切にしろ」
「うん」
霞姫は自らを凍り漬けにし、第九環境島へ巨大な氷の塔が堂々と刻まれた。
その氷の塔を眺め、神野王は振り返る。
「やはり、辛いなー」
神野王は痛みを噛み締め、再び歩み出す。
それがたとえ間違っていたとしても、それがたとえ不正解だとしても、きっと、きっと世界は、変わってくれる。
そう、誰かが願っているかぎり。
ーーありがとう。神野王。
君のおかげで、私は私になることができたよ。だからまた生まれ変わる時が来たら、また、
誰だって、いつだって、きっと終わりはあるのだろう。
だが、彼らかのじょらが間違った道を進もうと、そこが終わりになってしまうのは、少し悲しいだろう。
だからこそ、彼は自己犠牲と掲げ、闇に紛れる。
何が正解で何が間違っていようとも、彼は進む。
「神野王。孤独の悪魔よ。きっといつかお前を救ってくれる者が現れる。だから諦めるな」
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