第45話 私たちはーー人間だ
グレイは瓦礫が散らばる地面を駆け、神野王の懐へと侵入した。
「砕け散れ」
グレイは神野王の体へと触れたーーが、神野王は百万ボルトの電流をグレイへ流し、咄嗟にグレイは手を引っ込めた。だがしびれは多少感じており、グレイは手へ流れた痛みに驚嘆する。
だがグレイはすぐに拳を構え直し、地面を足で踏みつける。すると地面は震動し、神野王はふらつく。それとともに、瓦礫が宙を右往左往し、瓦礫どうしの衝突音が鳴る。
「『震撼する大地』」
大地は揺れ動く。
がしかし、神野王は背中から翼を生やした。
「無駄だよ。今の僕には、君たちじゃ無力だ」
神野王はグレイへと手をかざした。
グレイも両手を神野王へ向け、震動の壁を発生させた。それに真正面からぶつかるように、神野王はカラスの羽根を飛ばした。
「『
神野王の背中に生えた翼からは、漆黒の羽根が何枚もグレイへと吹き荒れる。だがその攻撃は全て、まるで効いていないかのように震動によって弾かれる。
だが、神野王は電撃を拳へ纏わせ、翼を荒立て、グレイへと飛び込んだ。だがグレイの前には震動の壁がある。そう簡単には突破できない。
はずだった。
「『
電撃が神野王の拳から放たれた。
しかも、その電撃は震動の壁をいとも容易く突破していき、高速でグレイへと電流が浴びせられる。
「ぐがあっががああああああががあっっがががっ…………」
グレイは電流を浴び、嗚咽混じりの叫び声を発する。
震える頭を強く押さえ、神野王は地面を何度も転がっては、血を吐いて意識を失い欠ける。
「まだ……」
グレイはしびれる体を起こし、負けず負けずとか弱い足で立ち上がった。
「いくら地震の能力を応用しようとも、結局朴には勝てないでしょ。それに君の震動には隙間が多いんだ。だからその隙間を通れば、簡単に電流を浴びせられるんだよ。ということで、もう一度電流を浴びせよう」
黒い笑みが闇夜に浮かび、神野王は早足でグレイの背後へと回り込んだ。
たった一瞬の内に回り込まれ、グレイは驚きのあまり声も出せず、ただ静かに固まった。そんなグレイへ、神野王は両手をかざした。
「さようなら。〈大災害〉幹部、地震のグレイさん」
電流が虎のように牙を剥きながらグレイへと進み、グレイを一瞬にして飲み込んだ。さすがに耐えかねて、グレイは焼け焦げる体を枯れ葉のように地面へと倒した。
倒れるグレイへ、神野王は背を向け、呟く。
「ってか、弱いね」
悪魔のような視線が、グレイへと向けられた。その視線を向けられながら、グレイは意識を失った。
「さあて、次はシャインだな」
ひっそりと放った言葉。
一体神野王目的が何なのか、それは未だに誰も解らない、がしかし、神野王だけは知っている。そして神野王には見えている。
ーー未来を。
血肉が散り、飛び出た肉片があちらこちらへ散る。
「旨かった」
神野王は闇夜に紛れ、そして静かに消えていった。
静寂がこぼれ落ちる中、一人の男が瓦礫の中からゆっくりと立ち上がった。
「全く、グレイまでやられちゃうとは、さすがに私たち〈大災害〉も終焉かもしれませんね。まあでも仕方ないでしょう。それが定めとなってしまうのですから」
今田に謎のみのカタストロ。
彼の目的が一体何なのか、それを神野王は解っている。
神野王の目的が一体何なのか、それをカタストロは解っている。
お互いの野望が世界を震撼させていく中で、研究施設は完全に崩壊し、魔人研究学会も今日滅んだ。
火炎に包まれ、案の定生きていたも者も殺す死の獄炎。
その獄炎が真夜中に光る中、第十環境軍の島では、ウッドマン博士やハークたちが神野王の劣化版複製体の研究を行っていた。
「ラーカ。サリー。シャレン。アリアドネ。レイラー。スリザー…………」
名前を呼ばれ、全員が返事を返す。
それを聞き入れ、ウッドマン博士は皆がいることを確認した。
「よーし。ではこれより、世界を取り戻すための作戦に君たちを使う。というよりかは、もうそれしか手が残っていない。だから二十日後、君たちには死んでもらう。それでも構わないか?」
その問いに、誰もが静かに頷いた。
彼女らは小悪魔。そして神野王を目指して創られた、一人一人それぞれの人格を持った者たち。つまりは、彼女たちは神野王のため、命をとそうとしている。
「本当にすまない。だが、もうこれしかない。だから、すまない」
うつ向くウッドマンへ、ラーカたちは駆け寄った。
「良いですよ。私たちはあなたのおかげで短い間でも人間になれたんです。だから感謝してます。私たちを人間にしてくれて、ありがとうございます」
ラーカたちは皆ウッドマンへと駆け寄り、ウッドマンを太陽のような温かい温もりで抱き締めた。
ウッドマンは泣き崩れ、悲しいがままにただ涙を流した。
「すまない。すまない。すまない。すまない。すまない。すまない」
何度も謝るウッドマン。
その度にラーカたちもそれに呼応して涙を流してしまった。
「魔人には流せない涙。きっと、私たちは人間です」
「きっとじゃない。お前たちは紛れもない、一人の人間だ」
そうやって、誰もが誰もを支え合って、そしていつかは砕けてしまう。
そんな儚い物語であろうと大切な時間である。たった一時であろうと、それはどんな財宝にも敵わない、美しい物語であった。
男は彼女らを壁一つ挟んで盗み見て、男も一滴の涙を流した。
その涙で全てを吹っ切ったように、男は再び闇に紛れ、悲しい現実との決別を決意した。
「さようなら。大好きな子供たちよ。お前たちを死なせる?そんなこと
男は孤独の翼を背負い、夜の彼方へと駆け出した。
きっとその答えが解っていたとしても、進まなくてはならない。
だから少年は前を見て、その先にあるであろう常闇へ真っ直ぐに走った。
もし幻影が幻影でないのならば、男が進むのは一体どの世界なのだろうか?
ーーそれはまだ、誰も知らない物語
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