第41話 神野の子

 氷。

 それが一瞬にして僕たちの足を凍り漬けにした。

 だが、僕は火炎で足を凍らせていた氷結を溶かした。ウッドマン博士やハーク・トースター、そして多くの少女たちも、自身の能力で氷を破壊した。


「ったく、こんな大人数、倒せるはずがないなー。ここは一旦退かせてもらいます。では、おおきに」


「って、逃がすわけないだろ」


 逃げようとした彼女の背後を獣のように追い、ハーク会長は右手をかざし、火炎を彼女へと放った。


「邪魔やねん」


『氷壁』


 氷の壁が炎を防ぎ、その隙に彼女は路地裏へと走り去る。が、彼女は路地裏をうろうろしていた少女たちに見つかる。

 彼女は少女をあまく見て、正面突破で突き進み。が、


「ねえお姉さん。逃がすわけ、ないよね」


 少女たちは一斉に火炎を放ち、彼女を火の中で焼失させた。


「何だ!この少女たちは!?」


 驚く僕へ、ウッドマン博士が歩み寄って教えてくれた。


「彼女らは小悪魔。つまり魔人が生んだまだ子供の魔人が人になった存在。つまりは小悪魔ということだ」


「なるほど。では彼女らも時々暴走するのか?というより、なぜハークが生きている?というか、どうして小悪魔をこんなにも産み出している?というか、どうしてハークが生きている?というか、彼女たちはなぜ感情があんなにも大人びている?」


「質問が多すぎるな。だが数個質問には答えよう。悪魔が暴走するならば、もちろん小悪魔も暴走する。と言いたいところだが、そんなことは今のところはない。研究によるとだが、単に小悪魔が蓄積しているエネルギーが悪魔に比べて少ないと解った。それから多くのことを研究し、神野、お前のように魔人を喰いまくった者は暴走しやすいと解った。それは魔人の体の方がエネルギー蓄積をできるという判断に陥ったからだ」


 なるほど。

 では蓄積しているエネルギーが小さければ、暴走しないのではないか?つまり、弱い魔人ほど、人になっても害はないのか?


「まさかとは思うが、お前らも〈大災害〉がしようとしている、魔人を全員人に変える計画に協力しているのではないか?」


 だがその質問に動じず、ウッドマン博士は答えた。


「安心しろ。私たちは未来のため、小悪魔について研究をしている。つまりは、あくまで彼女らは被験体。だけど私たちは、結局〈大災害〉を止められない。だとしてもさ、やれることは、少しでもやっておきたい。そうしたら、きっと世界を救ってくれる英雄さんが、頑張ってくれるでしょ」


「そうだな。きっと英雄は現れる」


 僕は英雄にはなれない。

 だって僕じゃ、世界を巣くうには値しないのだから。

 きっと英雄とは、いつでも世界を変えてくれる者のことを言う。いつだって仲間を救い、いつだって平和を保ってきた。そんな英雄に、僕がなれるわけがないんだ。


ハークお母さん。あの女は仕留めたよ」


 ラーカは大声でハークへ言った。

 ハークはありったけのピースサインをし、ラーカへナイスと告げる。ラーカもそれに呼応し、ピースした。


 だが、仕留めてなどいなかった。

 白煙が立ち込める中、そこを一人の女性が駆けていることに気づく。しかもだ、その女性は冷気を放っており、急ぎ足で去っている。


「逃がしたか……」


「すみません。お母さん」


「大丈夫だ。どうせいつか決着はつくんだし。とはいっても、仕留めたかくらいの確認はしておけよ。もしあいつが逃げる以外の選択肢を取っていたら、お前らはコロサレテイタかもしれないんだから」


「解りました」


 ラーカはそう返事をし、街に散らばっている十人ほどの少女へ呼び掛けた。その呼び掛けに反応し、ラーカのもとへと十人ほどの少女が集まった。


「なあ神野。どうしてお前が一度、あのラーカという少女に拐われたか解るか?」


 そういえば、ここに来てあいつと会って、その瞬間に拐われたんだっけな。けど結局土の中に埋められただけで、そこから先は覚えていない。

 結局、あの後どうなったんだっけ?


「その様子だと解っていないらしいな。では教えよう。ラーカはな、お前の子供だ」









「は!?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る