第40話 氷の魔女

 僕が目覚めた場所は、どうやら知らないコンクリートの上。ここからは夜空がきれいに見える。

 起き上がり、僕はふらつく足で周囲を彷徨く。だが僕が一歩を踏み出そうとした瞬間、足場がなく僕は落ち欠けた。咄嗟に体を後ろへ飛ばせ、落ちるのを回避する。


「危ない危ない」


 どうやら僕は、どこかの建物の上にいるらしい。

 寒い風が通りすぎるその屋上で、僕は一人、横たわって星空を見る。時折空を横断する儚い流れ星が、風とともに静かに僕の視界から去っていく。


「あー。そういえば、あの少女たちは一体、誰だったのだろうか?」


 今となっては、その問いは星空へ投げ出され、流れ星となって降り注ぐ。

 もうすぐ朝が来る。とは言っても、日の出から朝までは、相当の時間がかかるがな。


 僕はその平らな屋上から飛び降り、誰もいない大通りを一人、寂しく歩いた。日が出た方向から海の場所が解ったので、僕はそのまま反対側へと歩いた。

 少し傾いている坂道を上っていると、ちょうど坂道が終わるその場所へ、一人の女性が坂の上に立っているのが解った。


「おはよう。神野王君。そして、〈大災害〉が必死に探している最強の悪魔」


 なぜ僕の正体を知っている!?

 それがなぜなのか、今の僕には到底理解しがたいことだ。だがしかし、僕はそんな彼女に警戒しないわけがない。

 僕は拳に電撃を纏わせ、その女性へ向ける。


「おやおや。戦う気かい?うちはそんなつもりありまへんねん。うちはただ、おまんを捕もうに来とうだけやがな」


「そうかいそうかい。じゃあ、お前が内通者でいいか。第十環境軍将軍、葉術枯華」


「何か勘違いしているようだが、まあいい。うちが内通者やで。だとしたら、どないます?」


「僕はお前を殺す。それだけだ」


 僕は電撃を纏わせた両拳をコンクリートの地面へ接着し、電流を流し込み、彼女が立っている場所へと注ぐ。が、彼女は氷を地面へ発生させ、電撃の攻撃を防いだ。


「神野王。おまんは氷の魔人をあまり食ったことはない。つまりは私のそう強くは能力は使えないというわけだ。だからな、おまん、死ぬぞ」


 高くそびえ立つ氷の塔から、彼女は鳥のように飛び降りた。宙を飛んだ状態の彼女は、両手を僕へとかざした。


「まさか……!?」


 気づくのが遅かったらしい。

 彼女の手からは無数の氷解が飛び散り、僕の全身をくまなく氷で覆っていく。やがては氷が僕の全身を覆い、僕は凍り漬けになったまま、身動きが取れなくなっていた。


「神野王。捕獲完了」


 バカか。この程度で僕が、敗北するわけないんだよな。


 彼女が凍り漬けになった僕を肩に担いだ時、僕は自身の体から火炎を発生させ、少しずつではあるが、氷を溶かしていく。だが、このペースでは間に合わない。しかも、彼女が時々氷をプラスして凍らせてくる。つまりは溶かしても溶かしても、僕はこの氷結を破壊できない。

 このままでは、きっと僕は〈大災害〉へ連れていかれてしまう。行けばカタストロの本当の目的が解るのだろうが、僕は彼が良いことをするようには見えない。


「安心しろ。この氷からは、お前は逃れられない」


 僕が必死に思考を巡らせている最中にも、彼女は自分が上と確信しているのか、平然と話しかけてきた。


「お前はこれから〈大災害〉のアジトへ向かってもらうぞ。そして、カタストロ様の計画のいしずえになってもらう」


 こいつら、やはり僕と早乙女が予想していた通り、あれをしようとしているのではないか?だとすれば……いや……。

 まだ答えが解らない。だが、結局のところ、〈大災害〉は様々な悪行を行っている。ならば、〈大災害〉を止めなければ……


「見つけたよ。ラーカ」


「さすがだな。サリー」


 一人の少女が、建物の屋上から飛び降り、彼女が担ぐ氷解、つまりは凍り漬けになった僕へと拳を入れる。その瞬間、轟雷にも似た流電が、周囲へ飛散した。


「ありがとな。お陰で、氷解から解放されたよ」


 僕を覆っていた氷解は、先ほどの流電によっていとも容易く溶けた。

 つまり今の僕は、最強だ。


「なあお前。今の僕とお前、どっちが強いと思う?」


「炎でも溶かせない氷、さっきも体験したであろう」


「だが、破壊なら、簡単にできるだろ」


 僕は両拳を金属で硬化させ、その拳に電流を纏わせた。


「調子にのるでない」


 彼女は僕へと手を向けた。その瞬間、僕は風を操り空を飛び、空中から風で創製した槍を空から地面へ突き刺すように飛ばした。


荒れ、狂えエア・スピッツ


「『氷壁』」


 彼女は氷の壁を生成し、僕の風の槍を防いだ。が、僕が全ての槍を放った瞬間、氷の壁は砕け、大地に手をつけている彼女の姿がはっきりと映る。


「神野王。二手三手と、先をよんで相手を攻撃することこそが、確実に相手を仕留める方法。つまりは、油断など命取り」


 氷が山のように連なり、僕を飲み込む、が、謎の爆発により、氷は僕へ届かず、地面や建物だけが凍てついた。

 謎の爆発に助けられたはいいものの、一体誰だ?


 僕はその答えを探すように、屋根を見た。そこには、


「久しぶりだな、神野王。私は魔人研究学会元会長ハーク・トースター」


「私は魔人研究学会元博士号ウッドマン」


「「これより貴様を、打ちのめす」」


 彼女は怪訝な表情を浮かべ、現れた二人の女性を見る。

 彼女は凍りついた街を、一歩二歩と歩いていく。


「さあて、と。これより始めるのは一方的な凍殺」


 彼女は表情を一変させ、ただならぬオーラとともに、圧倒的な冷気を周囲へ放った。ようやく日が出てきて、周囲にはようやく光が灯される。だが、彼女の冷気は光をも凍らす。


「じゃあ、死んでくれ」

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