第四章 前夜
第十環境島祭編
第39話 ハークの子達
船は泊まった。
故障、ではなく第十環境島へついたらしい。
「神野。もし第十環境軍が〈大災害〉へ加担している裏切り者だった場合、神野は真っ先に狙われる。くれぐれも、単独での行動はさけてね」
「ああ。解ってるさ」
心配してくれている早乙女へ感謝しつつ、船の出口へ少しずつ向かっていく。そして到着し、第十環境軍の島ーー第十環境島を拝むこととなった。
目先には、いくつかの家が連なり、その家には祭で使われるような太鼓や屋台、他にも旗があったりとまるで祭でもしているのか思うくらい、面白い場所だ。
「祭でもやってるのか?」
「そうみたいね。第十環境軍将軍の葉術
「それはすげーな」
あまりに楽しみそうな顔をする僕。
それをみかねてか、早乙女は忠告する。
「神野。祭だからって、くれぐれも浮かれちゃ駄目よ。この島に来た目的は、第十環境軍が裏切り者かどうか、それを見極めるための上陸だ」
「解っているさ。僕はそう簡単には浮かれない。だろ」
「知らないけど、まあせいぜい浮かれないよう、頑張ってね」
神野は冷静さを装っていた。がしかし、僕の心は嵐の時の海のように、荒れ狂っていた。
今すぐ祭に行きたい。速く祭を見てみたい。
僕の心は少しずつ浮き足立っており、楽しみで楽しみで仕方がない。
僕は祭をやっているであろう街の方を見ると、既に斬花将軍たちが街へと入っていくではないか。
「早乙女。ついていくぞ」
「うん」
そう言って早乙女とともに、僕たちは祭をしている街へと入った。
初めて見る祭とは、やはり驚きが勝るのであった。
赤い提灯が無数に並べられ、そこに灯った光がまるで魂のように燃えようとしている。その提灯の下で、多くの店が香ばしいにおいが漂う食べ物を出しているではないか。
僕はつい店へと足が進み、店の前へついた。
「へい。焼きそば一人一つな」
店主は僕を見ると、焼きそばを僕に渡してきた。
何か対価としてあげるのが普通だと思っていたが、どうやらこの世界ではそんなことはないらしい。
僕はもらった焼きそばを食べ、次に謎のふわふわしたものに棒がついているものをいただいた。
「これは一体何ですか?」
「これはわたあめ。甘いお菓子さ」
「わたあめ?」
僕はわたあめを口に含むと、何とも言えない美味しさが口一杯に広がった。
あー。人はこれを、美味と呼ぶのであろう。
とまあこんな具合に、僕はいくつもの店を行き来した。その結果、
「あれ?早乙女ー」
はぐれた。
僕はいつの間にかはぐれており、周囲をキョロキョロするも、どこにも斬花将軍たちの姿はない。
深いため息を吐き、僕は途方にくれた。
今日一日過ごす場所もないし、とは言ってもこの島の中心に城があるのは解っているが、そもそも方角すらも今となっては解らない。せめてどっちに海があるかさえ解れば。
とコンクリートの地面に座り込んでいると、
「なあお前。そこは私の定位置なのだ。退いてくれるか?」
一人の少女が、この路地裏のような場所で、しかも暗い中、僕へ話しかけてきた。
「え……っと、定位置?」
僕が困惑の表情を見せていると、少女はため息を吐いて僕へと近づいてきた。
「ったく、君はどうせ今日島にやってきたあの船に乗ってやってきた環境軍の者だろう」
「ああ」
「やはりか。どうりでこの場所のルールを知らないと思った」
「ルール?どんなのがあるんだ?」
「ルールというかだな、私はこの島の王だよ。だから私の言うことがルールになる。解ったらそこを空けろ」
嘘をついているのか、それとも真面目に話しているのか解らない。
だが一つ言えるのは、少女が王?ありえんありえん。
僕は少し不審に思いつつも、少女の言われた通り、場所を空けた。そこへ少女が疲れたように腰を落とした。
「なあ。ところでさ、城がどこにあるか知ってるか?」
「城?ああ。ならついてきな」
「城に案内してくれるのか!」
僕が満面の笑みを向けていると、少女はため息を吐き、頭を抱えてどこかへと走り出した。きっと城へ案内してくれるに違いない。そう思った僕は、少女のあとを追う。
そして長い道のりを抜け、僕がついた場所は、
「ここ。入るよ」
森の中にある、秘密基地のような隠れ家。
僕は、怪しいが、そこへ入っていくことにした。
土が階段状になっており、僕はその階段を下っていく。やがて、一つの一室へついた。そこは土で正方形に型どられた奇妙な部屋。そこには、他にも二人の少女がいた。
「どうした?ラーカ」
「環境軍の男を連れてきた。ということで、君には人質になってもらうよ」
その瞬間、ラーカと呼ばれていた僕を案内した少女が、土の壁に触れた。すると背後にあったはずの階段へ繋がる道は塞がれ、僕は閉じ込められた。
「おいおい。さすがにこれは、誘拐ってやつか」
「正解。今からお前には、大人しく捕まってもらうぞ」
ラーカは僕の足を土でめり込ませた。
「お前ら。目的はなんだ?」
「私たちは小悪魔。つまり、君の劣等種だ」
「なぜ僕を知っている!?」
『土檻』
そう聞いた途端、僕は土の中に埋まった。呼吸もできず、ただ土の中で息などできなくなり、そして、意識を失った。
「では被験体名:神野王。今からお前を"コピー"する」
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