第36話 四人の英雄

 五体の魔人が僕らを囲む。

 斬花将軍は息をするように刀を抜き、それに続いて僕らも能力を発揮する。


「お前たち。神野は解っていると思うが、この魔人は硬い。だから普通の攻撃などほぼ意味がない。それにこいつらにはほぼ弱点などない。つまりは、勝てない」


「でも、こいつらを倒さないと、この島を取り戻せなくなる。そんなの……嫌だ」


 根羅々将軍は指先に根を出現させ、それを鉤爪のような形にして戦闘の体勢に構える。


「根羅々。相手の力量くらい、お前なら理解できているはずだ。それなのにどうして戦おうとする?」


「斬花。ここは私の思い出がたくさん詰まった場所なんだよ。そんな場所をこんなにも壊されて……。私はね、強くなりたかった。仲間を護れるくらい、強い"人"になりたかった。でも弱いよ。結局、何も護れなかった。でもさ、せめてこの建物だけは、護りたいんだ。それが。私のせめてもの足掻きだよ」


 そう言って、根羅々将軍は足を一歩、前へ踏み出した。

 過去から逃げていた彼女は、今戦う。


「『樹魔人じゅまじん』」


 根羅々将軍は全身を木の根で覆い、その姿はまさに魔人と呼べるものであった。


「斬花。先に行ってて。私はもう、死ぬ覚悟ができてるから」


 涙は木の根の栄養分となり、すくすく育っていく。


「さあ勝負だ。私とお前ら、どっちが強いか」


 根羅々将軍は震えながらも、手に生やした樹木の鉤爪で五体の人工魔人を威嚇する。その威嚇に返すように、人工魔人五体は根羅々将軍を眺める。


(ごめんな。私、やっぱ、怖いよ)


 根羅々将軍へ向け、五体の魔人が一斉に襲いかかった。根羅々将軍は鉤爪を構えるも、やはり怖いらしい。足がすくんで動けないようだ。


「根羅々。強がるのは、相変わらずか」


 白鞘から解き放たれた閃光が、一瞬にして襲いかかる五体の魔人を吹き飛ばした。だが刃は貫通せず、吹き飛ぶだけである。


「やはり全力で集中しておらんと無理か」


「何で、何で逃げなかったのさ?私は、一人でも十分に戦えたのに」


「根羅々。相変わらずお前は勇気があるな。だがそんなお前には、覚悟が足りない。だからいざという時、足がすくんで動けない」


 斬花将軍は身を翻し、うずくまっている根羅々将軍へ体を向ける。


「なあ根羅々。誰だって生まれながら持ち合わせているものと持ち合わせていないものがある。それは時に私たちの生活に大きな傷跡となって表れ、私たちを蝕んでいく。それでも私たちは誓ったでしょ。いくら死ぬ戦場にいても、いくら互いを信じ合えなくなっても、私たちは助け合うって。だから根羅々、私が根羅々を助けるのは当然でしょ」


「斬花……」


「さあ、希望はまだ残っている。私たち四人で、魔人を倒そう」


「解ったよ。斬花」


「それにしても根羅々、相変わらずか覚悟がねえな。恩恵は相当強いのに」


「まあでも、今の私は吹っ切れた。この私は、誰にも止められないよ」


 なるほど。根羅々将軍は火の魔人とは相性が悪かったから戦えなかったんじゃなくて、戦いたくなかったから僕に託したのか。

 まあでも、力を発揮した根羅々将軍は見たことないから、少し楽しみだ。


「では本番はこれからだ。忌まわしき魔人ども」


 根羅々将軍は鉤爪を魔人へ向け、目付きが少しばかりであるが変わった。


「さあ、そろそろ本気を見せてあげよう」


「そうだな。私たちの最強コンビ、それプラス若きエースたち。このメンバーなら、倒せない敵なんていないよ」


 斬花将軍は刀を持ち直し、根羅々将軍は五体の巨人を見物する。早乙女は全身を風で覆い、僕は全身に電撃を発生させる。


 今まで喰らった魔人は数知れず。

 そんな僕だから、そんな魔人であった僕だから、僕を模して造られた劣化版の魔人になど、負けるわけがない。


「『走れ、稲妻ボルト・ソニック』」


 僕は全身に電撃を纏わせ、斬花将軍の掛け声とともに、魔人へと駆ける。


「行くぞ。各々、魔人を捻り潰せ」

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