第37話 ごめんねの等分

 斬花将軍へ二体の魔人が進むが、それをいとも容易く捌いて徐々に傷を負わせていく。

 根羅々将軍は一体の魔人を相手に、木で創製した鉤爪で魔人の硬い体へ攻撃をいれていく。

 早乙女は一匹の魔人を風を操って宙へと投げ出し、魔人が手も足も出ない状況で、風で創製した何本もの槍を魔人の硬い体へと刺していく。


 そして僕は、一体の魔人を前に、心を落ち着かせている。


「さあ来い」


 魔人は地面を踏みしめ、足を大きく振り上げて蹴りを僕の頭部へと入れる。がしかし、体を反らして交わし、電撃を纏った拳で魔人の脇腹へ一撃を与える。

 が、やはり硬い。

 金属の魔人が混合しているとはいえ、想像以上の硬さだ。しかも、そこらの魔人とは硬さが違う。だがなぜこんなにも硬い?

 人工的に造られた……そして火の魔人と金属の魔人の複合型。


 確か僕の脳内には、魔人の複合実験についての内容が記されていたはず。


「なるほど。お前の硬さ、そういうことか」


 ハーク・トースターさんが僕の脳内に入れてくれた情報のおかげで、この複合型魔人の弱点が解った。


 僕は軽く肩を鳴らし、腕に溜めていた電撃を膨張させる。


「お前ら複合魔人は名前の通り、多くの魔人が複合している。だが複合するには接着剤とかじゃなく、単純に化学反応を用いて複合させるはず。では一体どんな原理を使ったか?それは簡単だ」


 僕は一歩踏み出し、立ち尽くす魔人のすぐ前へ体勢を少し下げ、腹へ手を当てる。


「一度に膨大な量の電流を流し込むと、たとえどんな化学反応で魔人同士をくっつけていたとしても、必ずどこかが脆くなるはず。だかそれを利用し、今僕が出せる最大出力の電流を一点に流す。さあ、これで終いだ」


 魔人の腹に当てた両手から膨大な量の電流を発生させ、その電流を一度に魔人へ注ぎ込んだ。すると僕の読み通り、魔人の体は電流を流し込まれた場所を円心状に脆くなっていく。


「これが僕の全力だよ。まあちょっと疲れたけどな……」


 許容量を遥かに上回る電流を発生させたせいか、僕はくらくらする。そんな中、薄目で魔人を見ると、片足片腕でまだ僕を睨んでいた。体は地面へ転がっているが、動けないほどではない。


「まじか……、読みは当たっていたが、完全に崩壊するわけではないか……」


 落胆とともにため息を吐き、戦慄が脳内を駆け巡る。


「神野……。強く、なったな……」


 誰の声?と思ったが、それは魔人から発せられる声であった。しかもその声は夢で聞いたことのある声。


「スペイシー・アンカー!?どうして……お前……!?」


「神野……俺さ、やっぱ弱かったみたいだ。カタストロに拐われた後、お前だけは逃げれて、俺とアリーゼは捕まった。アリーゼは強かったから〈大災害〉に入れられたけど、俺は弱かったから……だから研究材料になって、魔人にさせられた。俺もお前みたいに強かったら逃げられたけど、やっぱ、俺は凡人だ。だから結局、廃人になるしか道がなかった。本当に哀れだろ。俺は、本当に無力なんだ」


 悲しげにスペイシーは言った。

 でも、今のスペイシーの姿からは、誰が見てもスペイシーだと解らない。魔人の研究材料にされ、きっと魔人に変えられたのだろう。それは他の彼らも同じことだ。


「神野、体がマグマの中にいるかのように痛い。なあ神野、せめてお前の手で、俺を殺してくれよ。知らない奴に殺されるより、お前に殺された方がいいんだ」


 僕は……君には生きてほしいのに……。


「ねえスペイシー、お前と過ごした時間、結構楽しかったよ。だから忘れない。スペイシー、ありがとう」


「じゃあな。神野。俺、先行くわ」


 僕はスペイシーに電流を流し込み、そしてスペイシーはーー


 どうして世界はこんなにも悲しいのだろう?

 どうして世界はこんなにも痛いのだろう?

 ああ、僕は、きっと彼みたいには、なれないんだな。


 蒼天に浮かぶ六芒星の月を眺めながら、他の三人の戦闘が終わるのを待った。

 彼女らが戦闘を終わらせるのに、そう時間はかからなかった。

 斬花将軍は一瞬で魔人を二体倒すし、早乙女は一方的に魔人を倒したし、根羅々将軍は鉤爪で魔人の頭を切り裂くで、とても速かった。


「これでここを取り戻せる」


 斬花将軍が根羅々将軍に言うと、根羅々将軍は子供のような無邪気な笑みを浮かべる。対して、やはり僕は元気が出ない。

 ああ、どうしてこんなにも、痛くて苦しい。


「根羅々。じきにここには第十二環境軍が来る。だからもうここは取り戻せるぞ」


「仲間はまたゼロからになっちゃったけど、また新しい思い出を掴んでいければ、それでいいかな」


 不器用に笑う根羅々将軍。それを見て少し悲しい気持ちになる斬花将軍であったが、斬花将軍は静かに手を合わせ、死んだ者たちへ祈りを捧げた。


「じゃあまだ魔人がいないか散策しようか」


「ああ」


 僕たちはとにかく歩き回ったが、結局魔人は全員討伐したらしい。

 じきに第十二環境軍の船が見えてくる。


「来たようだな」


 僕たちが沖へ向かうと、ちょうど第十二環境軍の船から一人の砂を撒き散らしながら飛び降りた。砂粉が散るなか、男は僕たちへ名を名乗る。


「ただいま到着しました。第十二環境軍将軍砂術さじゅつ縛漠ばくばく。とこしえの砂煙を撒き散らし、ただいま参上」

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