第35話 過去の話

 神野王を拐って基地に戻ったカタストロたち。

 カタストロは神野王、つまりは僕について詳しく知るため、数々の質問をしていく。だが僕は一言も言葉を発さず、黙って時が経つのを待つ。


「被験体名神野王。お前は世界を取り戻すのに必要な書類のようなもの。お前が持っている情報を全て教えろ。なあ、お前はどうして日とに戻った?」


「お前。あのハーク会長の実験データを知っているのなら、そのくらいのこと知っているんじゃないのか?」


「あいつは用心深いからね。全て自分の記憶の中に保存しておくタイプなんだよ。それに今の問いに多少言葉を返せたということは、少なからず君には人間の知識が備わっている。しかも、ハーク会長の頭脳が備わっているかもしれない」


 カタストロは確信をついたというように、鎖で縛られ転がった僕を見下しながらそう言った。


「なぜそう言える?」


「だってそうだろ。お前はさっきまで魔人だったんだ。そんな奴が、実験データなどという言葉を知っているはずもない。それになぜ私を恐れているのかも解らない。恐れている理由としてあげるのならば、君がハークの頭脳を引き継いだ、という可能性だ。それならば可能性としてあるんだよ」


 確かに僕の脳内には魔人の頃に知らなかった単語が多く存在している。しかも、そのどれもが魔人の研究に関わるものだ。これらの情報を僕の脳に搭載したのだとしたら、一体ハーク会長という者は何を考えていた?

 それに不可解なのは、とある実験の内容が僕の脳内にある。これは、移植手術のデータ、それに魔人複合実験などという聞いたことのないデータまである始末。


「なあ神野王。お前、人を喰ったことはあるか?」


 突然低いトーンで放たれた一声に、僕は思わず声を失った。


「私はね、魔人を世界から消そうと思っているんだ。大切な仲間を殺した魔人を、私は許せない。だから私は危険を承知で魔人を喰った。人が魔人を喰うなんて、て最初は思ったけど、そのおかげで私は圧倒的な力を手に入れた。だから私はこの力で多くを知り、そして魔人を世界から消す方法を思い付いた」


 魔人を消すなんて……。

 そうバカにするはずが、彼が言った一言に、僕は言葉を失った。


「魔人を全員人に変えて、何もかもを終わりにしちゃおうって話。だがその計画を知った環境局が、私たちを潰そうとしている。だから私たちはやるしかない。無理矢理にでも作戦を実行し、魔人を消すよ」


 カタストロは何かを覚悟しているようだった。

 その何かが何なのか解らないが、きっとそれは大きな決断なのだろう。


「では少しだけだが、僕はお前に協力してやる。だがその代わり、一つ教えてくれ。お前がしようとしている計画に、どれほどの民間人が巻き込まれる?」


「そうだな。魔人を大災害を引き起こして一通り殺し、そして生き残った魔人を我が手で殺すという作戦であったが、魔人が人に変わるということで、私は新しい可能性を発見した。だがその可能性はまだ立証できておらず、止瀉が出るかどうかは解らない。だが、これに賭けるしかないのは確かだろう」


 確かにそうだな。

 全ては魔人をどうするか。

 それにかかっている。


 魔人を一つに集めてその群れを人にするということもできるし、魔人を全員殺すということも可能だ。だが、この男はもっと違うことを考えている。

 きっと、誰の想像も追い付かないような、そんなことをしようとしている。


「では神野王。貴様の記憶を操作させてもらう。君から魔人だったであった記憶を奪い、そして島への子供とともに流そう。そこで何が待っているか、見物だね」


 そう言ってカタストロは微笑み、僕の脳裏に電流が走る。

 そして気づけば、その話を斬花将軍、早乙女、根羅々将軍に話していた。


「で、補足なのだが、未だにカタストロはお前を狙っている。だから私たち民間環境軍が進む場所に〈大災害〉は現れ、結果こんな形で記憶を取り戻させることになった」


「なるほど。ではまだ油断はできないというわけですね」


 僕がそう聞くと、斬花将軍は少し不安げな表情を浮かべ、


「実はだな、私は魔人研究学会にお前の観察を頼まれていた。人間に戻った魔人、通称悪魔が、どれほど人間の世界に馴染めるかを調べた。結果、神野は何度も暴走し、それを魔人研究学会に知られた。つまり、魔人研究学会はどんな手を使っても魔人を殺すだろうな」


「そうですか……」


「それとだ、魔人研究学会は神野と似た個体を創るため、複数の魔人を複合させて強い魔人を産み出した。それがさっき私が倒した魔人だ。そしてその魔人は一体ではない」


 斬花将軍の額を流れる汗とともに、先ほどと同じような魔人が、五体ほど出現して僕らを囲む。


「さあ、戦うぞ」

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