第34話 それが彼の真の姿

 刀術斬花。

 彼女が一瞬の内にして斬り裂いた魔人は地へ転がり、そして灰のように化して消失した。


「神野王。お前の戦闘を見るや否や、どうやら記憶を取り戻したらしいな」


「ああ。全てを思い出したよ。そして全てを知った」


「だろうな。では話をしよう。これから私がどうするかについてと、そして、お前の過去についての話をしよう」


「はい」


 これから話される全てのことは、僕の過去に関係のある話であり、全ての真実を求めるための話である。


 昔々、一匹の魔人が世界に現れた。

 彼は自らを"輪廻から外れた者"と名乗り、彼は世界に存在する全ての大陸に魔人を出現させた。

 ーー雷、海、風、火、土、空、多くの災害の名を冠した魔人が、世界を一日にして絶望に陥らせてしまった。それにより、世界は広大な海の上に、何十にも連なる島の数々を創製した。それが今の彼らがいる人工創製島である。


 だがしかし、その魔人は人工創製島すらも襲い、世界は危機に陥ることとなった。だがしかし、"輪廻から外れた者"を倒すため、神は人々に恩恵という力を授けた。

 恩恵を授かった者たちは"輪廻から外れた者"と戦闘を繰り広げ、見事に彼を倒してみせた。


 だがそんな中、一人の魔人が何千もの魔人を喰い殺すという、無知である魔人にはそうありえることではないが、知性を持っている魔人にはありえない行動をとった。

 確かに弱い魔人を喰うことはよくあることではあるが、なぜかその魔人は手当たりなしに次々と魔人を喰らっていった。その怪奇的行動に目をつけ、魔人研究学会がその魔人を捕獲した。


「おはようございます。魔人殺しという悲しい異名をつけられたあわれな魔人よ」


 僕の前にいたのは、一人の女性であった。


「私はハーク・トースター。この魔人研究学会の会長。私は君に興味がある。君の戦闘を見るからに、君には普通の個体よりも圧倒的な知性を持っている。だがしかし、君は同族を何体も喰らってきた。火の魔人、雷の魔人、風の魔人、金属の魔人、氷の魔人、海の魔人、などなど多くを喰らってきた。どうして君は魔人を喰う?」


 だが魔人である僕は喋れない。

 それを予想通りだと頷き、ハーク会長は短銃を取り出し、僕へと向けた。


 僕は暴れて動こうとしたが、腕も足も金属製の鎖や繊細に丈夫に絡まされた木の根によって縛られている。そのせいで体を動かせなくなり、僕はその銃口を避けることは百パーセント不可能だ。


「話をしようか。魔人くん」


 低い銃声音とともに銃弾が放たれ、僕の心臓部へと直撃した。亀裂がメキメキメキと砕かれ、僕の魔人としての殻が硝子のようにして砕けた。


「おー。なかなかいい体をしているじゃないか」


 僕の全身が砕け、僕の体には妙な感覚が何度も伝わってくる。

 これは、風か?


「お前、自分の体を鏡で見てみるといい」


 ハーク会長は手鏡のようなものを取り出し、僕の上半身を映した。そこに映っていたのは、魔人だった頃のような禍々しい顔はなく、人間、という優しい顔をした少年の顔が、もの寂しげに映っていた。


「これが……僕なのか!?」


「ああそうだとも。とは言っても昔のお前ではなくなっているがな」


「そうか……。僕は、人間になったのか……」


「はい。その体なら喋れます。なので質問に答えていただきたいのですが、良いですよね?」


「ああ。何でも聞いてくれ。僕は、魔人を掃討するために生まれてきたんだから」


 僕がそう言うと、ハーク会長は一冊の書物を取り出し、羽ペンで書物へ文字を記す。


「お前はもともと人間だったか?」


「いいや。僕が生まれた時、既に僕は魔人だった」


「なぜ君は魔人を喰う?」


「魔人を殺せば世界が平和になると思ったから」


「君はいつから知性があった?」


「生まれた時」


「では誰が君を生んだ?」


「金属の魔人ソードという女だ。彼女は金属で僕を形取り、僕に意識を与えた」


「では君は何年生きている?」


「たかが百年」


「では次の質問で最後にしよう。疲れてきているようだしな」


 初めて喋る、という行為を行ったせいか、口がとても疲れている。それを完全に察したのか、ハーク会長は最後の質問に入る。


「君は、これからどう生きたい?」


「魔人を倒して、世界を再びもとの世界へ戻す」


「では君には、民間環境軍へ入ってもらおうか」


 だがしかし、天井が崩壊する音とともに、数名の者がこの一室へ入ってきた。


「魔人、いや、悪魔と言った方が良いか。ハーク・トースター最大の実験技術、それをもとにして創られたベース。被験体名ーー神野王。その存在は、やがて世界に大きな影響を与える。お前ら。そいつを奪え」


「「「「「了解」」」」」


 四名の使者が一斉にハーク会長へと走る。

 その隙に、カタストロは神野王へと歩いていく。


「グレイ。壁を破壊して扉を塞げ。今すぐだ」


「了解だ、クロウド」


 グレイは唯一の入り口である壁を破壊し、扉を瓦礫で塞いだ。

 そして取り残されたハーク会長は、一人、正義に奮闘する。


「ハーク。魔人研究学会はこれで終わりだ。お前が死んだ後には、魔人研究学会には我々の仲間を忍ばせるつもりだ。だからもう、魔人研究学会は終わりだよ」


 そんなクロウドの声に、ハーク会長は呆然と立ち尽くすのみ。


「いよいよ諦める気になったか。ハーク・トースター」


「いいや違うさ。これ以上、君たちに好き勝手させないという、意思の表れさ」


「無能力者のお前に、何ができる?」


「違うさ。私が産み出した技術、魔人の核を体に埋める移植手術、それの最初の実験体。私だよ」


 右手から生やした木の根から、火炎を発生させてその火炎の根でクロウドの首を絞める。


「無能力者だろうと、私は負けない。頭脳という力を使い、自身に恩恵を与える。だから私は、貴様らに世界を、壊させない」


「ああああああああああ」


 ハーク会長がその根でクロウドの首を完全に絞めようとした瞬間、ボルダーとインフェルノギアの攻撃ーー雷と火炎により、ハーク会長は全身丸焦げになって倒れた。


「無能力者のくせに、勝てると思うな」


 神野王を肩に担いだカタストロは、仲間たちとともにその場を去った。

 そしてその場に取り残されたハーク会長は、苦しみながらも地面を叩く。


「私は……」


 運命とはいつでも儚いものだ。

 結末など、結局はただのまやかしにしか過ぎない。

 だからまだ終わらないこの回想に、未来へと花束を捧げよう。

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