第33話 無能力者
僕は火の魔人と向かい合い、互いに構えの姿勢に入っている。
こんな密室で、僕は魔人と向かい合う。昔の僕だったら恐怖で足がすくんでいただろうな。だが、今の僕は何にも屈することのない力を手にいれた。ならば、我はここで貴様を撃つ。
「知っているか?恩恵の、使い方を」
魔人は足を踏み出し、僕へと飛びかかってくる。
魔人の拳は僕の顔面へと進むが、それを紙一重で避け、蹴りを魔人の横腹へと直撃させた。魔人はそれに動じず、火炎に染まる拳を僕の腹へ直撃させた。
魔人は後方へと距離をとらず、拳で僕の頭部を殴り潰そうとする、がしかし、僕は恩恵で腹を硬くさせていたため、魔人の拳は腹にダメージなど与えなかった。
「『雷神脚』」
雷鳴を纏って進む僕の足に吹き飛ばされ、魔人は壁へと激突した。
雷の一撃を受けたからか、魔人は手足が痺れたようになって動きがパラパラマンガのようにまばらになっている。
「立てよ魔人。第四環境島。ここを破壊したその
僕は足を思いきり踏み出し、魔人を上から見下す形で魔人を挑発する。だがしかし、魔人はたった一撃で力尽きているようだ。
「おいおい。こんな敵に苦戦をーー」
そう言い欠けた途端、自分の側頭部から火炎での一撃が電流のように僕の全身を駆け巡る。
僕はその一撃で頭から吹き飛び、地面を無様にも転がる。
「死んだフリ!?」
知性のない魔人が死んだフリをし、さらには背を向けられた瞬間にその者を狙うなど……
「気を付けろ。その個体は希少な個体だ。相当優秀な知性を持っており、その知性はまさに、私たち人間を越えている。気を付けろよ。一秒たりとも油断をすれば、首を跳ねられる」
「ああ。ならせいぜい、無慈悲に抗ってやるよ」
僕は一度地に伏した体を起こし、再び足に電撃を纏わせる。
この魔人、ただの火の魔人ではないことは確かだ。あの一撃をくらえば、どんな個体であろうと即死だ。だがこの個体はあの一撃をくらってもなお、まだピンピンしてやがる。
と、まだ考えている最中、魔人の蹴りが頭へと進む。だがそれを仰向けになってかわし、回転しながら魔人の横腹へ拳を入れる。だがこの魔人の体は他の個体よりも明らかに硬い。
それに……
「まるで、教育を受けたかのような動きだな」
根羅々将軍はそう呟いた。
それは僕も思っていたことだ。
知性のある魔人というのは、だいだい多くの戦闘を乗り越えて学んだということ。つまりこの個体は、相当多くの死地を乗り越えてきたことになるだろう。
「面白いじゃねーか」
僕は拳を金属のように鋼鉄化し、その拳を魔人へと向ける。
「行くぜ」
魔人は相当速い速度で僕へと走ってくる。だがそんなものは見えている。
僕は魔人の腹へ一撃を与え、すぐさま何十発もの拳を魔人の胴体へと入れる。だがもちろん後ろに少し体を倒すだけ。だがそこへ僕は電撃を纏わせた足に力を込め、その足での攻撃を魔人の心臓部へくらわす。
周囲へ電流が流れ、地面にはひびが入る。
「さすがにやったか……」
息が少し荒くなり、僕は倒れた魔人を見る。
あれほどの攻撃を与えたにも関わらず、魔人は平然と起き上がった。
「さすがに……やべーかもな……」
魔人は数度首を折ると、まるで何事もなかったかのようにステップを踏む。
「まじかよ……」
魔人は壁を走って僕の側頭部へ蹴りを入れ、すぐさま僕の腹へ拳を入れる。僕の先ほどの十連撃を真似るように、何度も拳を振るってくる。
朦朧とする意識の中で、僕は全身から火炎を放出する。が、相手は火の魔人。火に油を注ぐようなもの。
魔人は僕の顔の前で寸どめで拳を振るうと、その拳から波のようにして火炎が大量に解き放たれる。その火炎に飲まれるように、僕は後方へ吹き飛んだ。
鉄の地面に倒れ、体を指先から痺れさせる。
「神野。大丈夫か?」
早乙女と根羅々将軍は心配そうにして僕へと駆け寄ってくれる。
本当にありがたい。
期待に応えないとな……
『悪魔化』
左側頭部からも悪魔のような禍々しい角が生え、僕は完全に悪魔と化した。
あの魔人に勝つには、まだ制御できるか解らない悪魔の力に頼るしかない。だから、今こそ、僕は全力でお前を撃つ。
と、暴れ欠けた途端、僕たち民間環境軍の将軍ーー刀術斬花将軍が颯爽と現れ、僕の額にでこぴんをし、軽くいなした。
「神野。その力は使うな。あの魔人は、私は一瞬にして倒してやるからさ」
斬花将軍は鞘に収まった白刃の刀身を抜き、その刀をいつも通り、中段で構えた。
相変わらず斬花将軍の構えには無駄はなく、その太刀筋はまさしく夜叉そのものであった。
「知っているか?恩恵を授かっていなくても、世界には"
解き放たれた剣閃は、まるで白い光のようにして周囲へと輝き渡った。影を映す世界もなく、ただ一夜に世界というものをその一閃に斬り裂いた。
「『一刀、
彼女が振るったその一刀により、世界は新たな可能性へと動き出していた。
恩恵がなくとも、神から力を与えられなくとも、彼女は、
「ーー魔人?何それ。私にとって、この刀で斬れるものは、ただの紙切れ同然さ。その証明として、まずはこの島を救ってみせるか。ああ、言うのを忘れていた。民間環境軍将軍刀術斬花。私は無能力者だ」
彼女には能力などない。
というのに、彼女の一刀は魔人をも斬る。
「では進むぞ。魔人狩りにな」
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