第30話 将軍

「なあボルダー。私は諦めが悪いんだ。だから最後まであがかせてもらうよ」


 早乙女は風で自分の体を上空へ吹き飛ばすも、ボルダーは落雷を降らせ、早乙女を地面へ落下させる。


「やべ。殺しちゃった」


 ボルダーは立ち去ろうとするが、背後から漂う戦思に思わず顔を後方へ思いきり向ける。

 そこにいたのは、まさしく悪魔と分類される存在。角、それはかつて神野にも生えたことのある角。


「おいおい。お前も悪魔になるのかよ。ったく、ふざけんじゃねー」


 早乙女の右側頭部に生えた角。

 それを見てボルダーは少し苛立ちながらも、拳に電撃を纏わせ、その電撃を指先という一点に集める。


「『指電一進』」


 指先にチャージされた電撃は叫びのような流動をし、一直線に早乙女へと進む。が、しかし、電撃は暴風によって自分に跳ね返る。

 ボルダーは電撃に痛みは感じないものの、その威力に体を浮かせた。


「何だ……!電撃を、跳ね返した?」


 ありえない。

 そう彼は思った。だがしかし、確かに頬には電撃がかすったような跡が残っている。

 ボルダーはその傷に触れ、そこから血が出ていることに怒りを覚える。


「貴様。悪魔だからって調子にのるなよ。俺だって貴様の頭くらい吹き飛ばせるからなー」


 ボルダーは全身から電撃を発生させ、付近の森を自身の雷でいとも容易く消失させる。その威力に、その周辺にいた環境軍の兵士は青ざめた顔をしてそこから一目散に離れる。


「名前は知らねーが、お前を持っていけばカタストロ様は大喜びするだろうな。ひひひっ。じゃあそろそろ殺す程度に気絶させるか。『雷神逆鱗』」


 雷が空からとぐろを巻いて落ち、早乙女の体を黒こげにした。雷をくらって痺れた早乙女の体。早乙女は身動き一つとれずに倒れる、はずだった。だというのに、早乙女は両目を真っ黒に染めて立ち上がった。


「そうだったな。悪魔はこの程度じゃやられねーよな」


『暴風龍』


 渦巻きの暴風がボルダーのいる大地から放たれ、ボルダーは宙へと投げ出された。吹き飛んだボルダーの体へ、早乙女は視界に入った風で何百本もの槍を創製する。

 さすがのボルダーも青ざめ、周囲に電撃を放つ。だがしかし、風の槍はそう簡単には破壊されない。


「ふざけるな。これが悪魔だとしても、よりも規模がでかすぎる。このままじゃ死ぬな」


 そんなボルダーへ、何百本もの槍がボルダーの体を突き刺した。

 風の槍に何本も手足や体を削り取られ、そしてボルダーは意識を朦朧とさせる。


「カタストロ様……」


 ボルダーは空から落ちる際早乙女を見るが、やはりあれは悪魔の領域を越えている。


「悪魔の子、早乙女翔川。哀れな子だな。もうじき悪魔の暴走を止められなくなる。もしくは全てを破壊し尽くすまで止まることはないだろう。つまりは、お前は死ぬ」


 ボルダーは独り言を呟きながら、地面にガタンという音とともに落下した。

 そして血だまりが散る中、ボルダーは死んだ……。


「はははっ。もっと殺すの。もっとたくさん殺して、なにもかも破壊して、もう全部失くしちゃいたいよ。全部ぶっ壊したいよ。ねえねえ、私、速く暴れたい」


 早乙女は左側頭部にも角を生やすと、雷が降る音とともに早乙女は暴走する。


 ーー喰っちゃえよ


「うん、食べる」


 早乙女はボルダーの肉を喰らい、一片も残さず喰い尽くした。


「お腹一杯。じゃあそろそろ暴れちゃおうかな」


 不気味な笑い声に導かれ、第一環境軍将軍が姿を現した。


「まさか……人工的に島が創られる原因となった悪魔が、どうしてここにいる!?」


 第一環境軍将軍の水術六重丸ろくじゅうまるは、悪魔と化した早乙女を見て、過去の記憶が脳裏に何度も思い出される。


「悪魔は、一匹残らず排除する」


「食事?」


 早乙女が六重丸将軍の方を振り向いた瞬間、早乙女の右腕は宙へと舞った。

 早乙女は失くなった自分の右腕を見て、何が起きたのか理解に苦しむ。


「あれれ?腕が……」


「『水刃』」


 水が高加速して早乙女の体へ降り注ぎ、六重丸将軍は悪魔となった早乙女をも圧倒する。


「俺は水を自在に操れる。お前なんか、ただの小動物に過ぎないんだよ」


 六重丸将軍は手から固めた水の弾丸を早乙女へ発射し、早乙女の体力をどんどん削っていく。


「『凝水弾』」


 凝縮された水の弾丸はもろい早乙女の体を次々と傷をつけていくが、致命傷には至らない。

 しびれをきらし、六重丸将軍は水で刀を創製する。


 ーー『凝水刀』ーー


 凝縮した水で刀を創製し、その刀で早乙女へと斬りかかる。


「はははっ」


『雷神逆鱗』


 雷がとぐろを巻いて空から落下し、無防備な六重丸将軍の体をずたぼろにして攻撃を浴びせる。

 電撃をくらって意識が朦朧とした六重丸将軍は、ふらつく足で右往左往する。


「……まだ…………」


「はははっ」


 早乙女は右腕を電撃で複製し、いとも容易く右腕を復活させた。


「しゃーて、食事時間だね」


 早乙女は背中から木を生やし、その木を合成させて巨大な口を造り出した。その口で六重丸将軍の体を飲み込み、六重丸将軍は胃へと運ばれる。


 ーー六重丸。あんた、やっぱかっこいいね。


「なあ悪魔。ここで将軍が殺られちまったら、部下はどう思うだろうよ。怖い、強い、負ける、勝てない。そうなっちまう。だから将軍は、たとえ足がもげようとも、手が斬り飛ばされたとしても、立ち向かわなきゃいけねー。それが、将軍だ」


 六重丸将軍は危機一髪のところで早乙女が背中から生やした木の内部から脱出し、水の刀を侍のように構える。


「我、水術六重丸。第一環境軍将軍として、貴様を撃つ」

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