第29話 アリーゼ

 アリーゼは火炎をエンジンにインフェルノギアへと突っ込み、その突進をインフェルノギアはモロに受ける。


「さすがはアリーゼ・アーカイブズ。なかなか恐ろしい力を持っているじゃないか。だが、俺を少々舐めすぎだ」


 火炎の柱が森の中で上がり、そびえ立つその塔に周囲の視線は一つに集まる。


「『火炎魔王』」


「おいおい。そんなことをしていのか?多分だが、数分もすればここに何百という数の環境軍兵士が駆けつけてくるぞ」


「安心しろ。貴様を殺すのに、そう時間はかけないつもりだからな」


 インフェルノギアはそう呟いて笑うと、一瞬にしてアリーゼの視界から姿を消した。アリーゼは周囲を見渡すも、どこにもインフェルノギアは見当たらない。

 と思って上を向くと、木々が焼け落ちてその中からインフェルノギアが火炎を纏いながら降って現れた。


「速い!」


 上から振り下ろされる蹴りでの一撃を腕で受け止めるも、その威力に体ごと押し潰された。

 インフェルノギアはすぐに上へ飛び、再び蹴りをアリーゼの腹部へと直撃させる。するとアリーゼは吹き飛び、木へと直撃する。体が激痛に支配されて動くことを停止し、インフェルノギアは最大火力でアリーゼの体を殴ろうと拳を握る。


「案外速く終わったな」


「ははっ。もう……動けねーよ」


 アリーゼは全身がしびれ、指先すら動かすことができない。

 インフェルノギアは拳に火炎を纏わせ、その拳をアリーゼの顔へ……


「おっと。そこまでだ」


 光の速度で拳がインフェルノギアの腕をワニの顎の力以上で掴み、その拳を一切動かさせない。

 インフェルノギアは恐る恐るその者の顔を見ると、その男は確かにあの男であった。


「その脅えよう、俺を知っているようだね」


 低いトーンで放たれる言葉一つ一つが重みを纏い、インフェルノギアはその度に体を震わせている。


「どうして……そんなに速くここへついた?」


「おっと。俺を知っていて能力を知らないとは、さては勉強不足だね。まあそれもよしとして、自己紹介をしようか」


 インフェルノギアの腕を掴みながら、男は自分の名を名乗る。


「俺は第七環境軍将軍、光術陽風はるかぜ。恩恵は光。つまりだね、俺は光の速度でここまでやってきたんだよー」


「『火炎爆発』」


 インフェルノギアの腕に纏われた火炎が爆発し、陽風将軍は爆炎に包まれる。が、爆炎が周囲に飛散すると、視界に映る光景は全くもって同じであった。


「貴様、あの爆炎をくらって!?」


「なーにを言ってるのかな?爆炎なんぞ、光がなければ俺に届くことはない。つまりだね、光のない場所には攻撃は届かないってくことなんだよー」


 ありえるはずがないだろ。

 光がなかったとしても、そこに爆炎という光が侵食されて爆炎をくらわざるをえない。というのに、謎の理論で攻撃全てを遮断した。


「くそ……」


「インフェルノギア。捕まえるよー」


 陽風将軍がインフェルノギアの腹を殴って気絶させた瞬間、プテラノドンが空から降ってきてインフェルノギアを咥える。そのまま立ち去ろうとするも、プテラノドンの強靭な顎力は陽風将軍がインフェルノギアを掴む力より劣っており、プテラノドンは雄叫びをあげる。

 するとプテラノドンの背中から何者かが降り、ティラノサウルスがその場に現れた。


「おいおい。これは、まさしく〈大災害〉だねー」


 陽風将軍はインフェルノギアを離して後方へ距離をとり、ティラノサウルスの尻尾による攻撃をジャンプしてかわし、プテラノドンの背中を駆ける。


「では、殺しますか」


 陽風将軍は空高く飛翔し、上空から目でティラノサウルスを捉え、


「これは使いたくなかったが、やるしかないねー。『目からレーザー』」


 光が一直線にティラノサウルスへと進み、ティラノサウルスの心臓をいとも容易く貫通させた。ティラノサウルスは倒れ、人間の姿に戻っていく。

 陽風将軍は人間に戻ったティラノサウルスの頭部を踏み潰し、そのまま殺した。


「じゃああとは君かな。話を聞いていたんだが、アリーゼ・アーカイブズが君の名前だね。率直に聞くが、君は敵か味方かどっちだい?」


「そんなの、私は神野王の味方、としか答えられません」


 アリーゼはそう言い、あとは黙った。

 さすがに陽風将軍も困り果てたところへ、一通の通信が陽風将軍の通信機へと入る。


「ただいま、神野王という男を保護しました。彼にはアリーゼと早乙女という仲間がいるらしい。彼女らは殺さず、生かして第十環境軍へ預けよ」


「なるほどなるほど。じゃあアリーゼ・アーカイブズ、君を保護するよ」


 アリーゼは陽風将軍につれられ、第十環境軍の船へと向かわされた。

 だがしかし、まだ早乙女は戦場で戦っている。


「『暴風』」


 暴風が吹き荒れ、樹々の多くが吹き飛んだ。がしかし、雷を纏った男は微動だにせず、その暴風を消失させた。


「激しく暴れて見つけてもらおうっていう魂胆だろうケド、見え見えな以上、それを全力で阻止しますヨ。それがボク、ボルダーデスから」


「ボルダー?なるほど。貴様はボルダーと言うのか」


「それが解ったところデ、君に勝ち目はないですヨ。それでも、まだ抗うんデスか?」


 舐めきった口調に腹が立ち暴風を放つも、雷の壁によって阻止される。


「ダメダメ。もーっと、ちゃんと力を込めてヨ。でないと、死ぬヨ」

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