第28話 〈大災害〉アジト
僕の拳はカタストロの顔面へ、カタストロの蹴りは僕の腹へと衝突した。
たった一言を放ったあとの一瞬の動作に、僕とカタストロの体は無造作に吹き飛んだ。血が数滴壁や地面に飛び散り、赤い閃光が森に降った。
「まさか!」
「そのようだな。環境軍はこの島を破壊するつもりだ」
森は黒こげになっていき、その中を水を支配する第一環境軍が道を開きながらこの塔へと進んでいく。
「おやおや。まさかこれほどの環境軍が動くとは、これで天下の〈大災害〉も終了といったところかな」
「お前。まさか〈大災害〉を見捨てるのか!?」
「ああ。まあそれもいいが、私はこう見えても大切な仲間は何があろうと最後まで大切にする。まあ、それが私だからね。ということでさ、君との戦いはまた今度でいいかな。多分だろうけど、今の君じゃ私を倒すには至らない。それを踏まえた上で、またいつか私に挑むがいい。じゃあな」
カタストロは風を操り空を自在に進み、島へと足を踏み入れた兵士たちへ攻撃を開始した。
僕は立ち上がってカタストロを追おうとするも、体が思うように動かず、その場にひれ伏した。
「くそ……。やっぱダメだな」
僕はそのままうつ伏せになって倒れ、体を無理矢理回転させて仰向けになった。
深く深呼吸をし、とにかく呼吸を整える。
今は速く立ち上がることが最優先だ。立ち上がってウッドマン博士を探して、そのまま連れ帰る。それにもうすぐシャインも来るだろうし……。
と心の中で汗を流していると、足音がコツンコツンと聞こえてくる。
まさか、もうシャインが来たのか!
「よー。こんなところで何してる?」
その声は、まさかまさかのウッドマン博士の声だった。
片手に七変化刀を持ち、僕のもとへと歩み寄ってくる。そばまで来るとしゃがみこみ、なにか嬉しげで僕を見つめている。
「どうしてそんなに嬉しそうなんですか?」
「いやいや。だって神野は命がけで私を助けに来てくれたんでしょ。だったら少しくらいは嬉しくなっちゃうんだよ。まあでもその様子から見てみるに、カタストロに相手にされずに力尽きた、というところだろう」
「そうですよ……」
「ところでなんだが、移植手術についてはどうする?」
敵の本拠地の中でそんな話をしているウッドマン博士に、僕は多少なりとも疑問を抱いてしまう。
「ウッドマン博士。ここは敵の本拠地ですよ。だというのに、どうしてそんなに平気な顔をしているんですか?」
「当たり前だろ。だって私は〈大災害〉に拐われた存在。そんな私を誰が殺す?」
「確かにそうですけど……。少なくとも一人くらいは何も知らされていない人がいるんじゃないですか。そいつがもしウッドマン博士の命を狙ったりでもしていたら」
「その時はその時さ」
相変わらず能天気なウッドマン博士に呆れ、僕は重たい体を風を利用してなんとか動かした。
「大丈夫なのか?」
「はい。もう動ける程度には回復しました」
僕は体を楽々と動かして見せ、それを見てウッドマン博士は少し笑っている。
やっぱ無理していることはバレているようだな。
「神野。で、ここから去るの?」
「そうですね。ここから出て、すぐに他の仲間と合流します。そしてその後環境軍に事情を話し、船に乗せてもらえば一件落着です」
「私は第四環境軍に戻って戦の尻尾の強化をしたいんだよな。だから速く戻ろうか」
第四環境軍の島ーー第四環境島。
既にそこは〈大災害〉の手に落ちている。それを言うべきか言わないべきか、そんなこと、ウッドマン博士の楽しそうな笑みを見れば言えないに決まっている。
「どうした?」
とウッドマン博士が声をかけた瞬間、壁が破壊され、シャインが現れた。
「おやおやウッドマン博士。どちらへ向かうつもりですか?」
「ちっ。シャインか」
ウッドマン博士はとっさに刀を構え、僕もそれを見習って火炎を自身の体に纏わせた。
「敵対する気満々じゃないか。なら遠慮なく、殺させてもらうよ」
シャインが手を上に振り上げ光の剣を召喚すると、その剣を僕たちの方へと進める。その瞬間、葉っぱが周囲を漂い始める。
何だこれ?
意識がぼやけるような、脳がボーッとするような、何と言うか、夢の中にいるような感覚だ。このまま眠ってしまいそうだ。
「神野。しっかりしろ。これは
僕はウッドマン博士に注射を射たれ、その瞬間に意識をはっきりとさせた。
「神野には意識がしっかりとする成分を注射した。これでしばらくは意識を正常に保てるだろう」
「ですか、まさかシャインがこんなものを持っているとは」
「いいや。これはシャインじゃない。とある将軍の能力だ」
「何!?」
とそこへ、葉っぱがこの半壊した一室へと吹き荒れる。
風に吹き飛ばされそうになりながらも、僕は必死に堪えて葉っぱが集まっていくその場所を見る。
シャインを横目で見ると、シャインも同様にその者の正体を気になっているらしく、目が釘付けになっている。
「そうか。この力はあいつの恩恵だ」
ウッドマン博士は何かを思い出したかのような表情をし、早口で語る。
「その能力の持ち主は、かつて現れた何百メートルを越える体長を持つ魔人を呼吸一つで殺してしまった。それ故、彼女にはこう異名が付けられた。"
「初めまして。第十環境軍将軍、
ひまわりのような笑顔で冷たく言い放つ彼女の表情に、僕たちは怯える。
「『
枯華将軍が息を吐いた瞬間、息が葉っぱとなって僕たちを襲う。
「『暴風壁』」
僕はとっさに暴風を発動させ、枯華が放った葉っぱの手裏剣を防いだ。シャインも同様に、光を壁にして防いだ。
「君たち。面白いね。でも、まだ終わらないよ」
枯華将軍はシャインと僕が創製した壁に息を吹き掛けると、風であった僕の壁と、光であったシャインの壁が葉っぱに変わって僕たちへ襲いかかる。
「ありえない……。なんだよ。この力は!?」
数ヵ所にかすり傷を負うも、致命傷には至らない。
がしかし、枯華将軍の力が未知数過ぎて、対処することがほぼ不可能だ。
「枯華将軍。僕は民間環境軍兵士の神野王です。敵ではありません」
僕の唐突な言いぐさに、枯華将軍は驚いたような表情をする。
「あ!もしかして斬花ちゃんが言ってた新人くんか。なーんだ。じゃあ敵はシャインとかいう女だけか」
すると枯華将軍は両手でリコーダーを持つようにして口もとへと運び、そこへ息を吹き掛ける。と、葉っぱが現れた瞬間にシャインの体に葉っぱが刺さる。
その異常なまでのチート能力に、僕は自分の目を疑う。
シャインは口から血を吐き、自分の身に起きたことを理解できないでいる。そんなシャインに枯華将軍がもう一度息を吹き掛けようとした時、シャインは目映いまでの光を放つと同時に、僕たちの前から姿を消した。
「逃げられたか」
軽く舌打ちを吐く枯華将軍だったが、すぐに気を取り直し、僕たちの方を向く。
「君たちはすぐに我々第十環境軍は保護するからさ、私についてきてね」
枯華将軍は深呼吸をしながら息を吐き、巨大な葉っぱを創製した。その葉っぱにのり、枯華将軍はどこかへと行ってしまう。
一応ついてこうと言われたので、風を操ってウッドマン博士とともに空を飛翔し、枯華将軍の背中を追う。
神野たちがそんなことをしている間にも、アリーゼは大ピンチに陥っていた。
「はー、はー、はー、はー」
荒い呼吸を響かせ、相手を拝める。
「アリーゼ。君は逃がさないよ」
「さすがだな。〈大災害〉幹部、インフェルノギア」
「当然さ。君を捕まえることなど、そう難しいことではないからな」
怠惰しながら言うインフェルノギアの隙を見て逃げようとしたが、インフェルノギアに足を撃ち抜かれてその場に倒れ込んだ。
「あーあ。どうしようかな。このまま殺しちゃおうかな。でも君伝導体だから、結構貴重なんだよね」
インフェルノギアはアリーゼの背中にのって喋る。
「ところでアリーゼちゃん。心臓貫かれても生き残るってさ、本当なんでしょ。なら試させてよ」
とインフェルノギアがアリーゼの心臓を貫こうとすると、木がねじれてインフェルノギアの体を吹き飛ばす。そして木に激突し、その木に少しずつめり込んでいく。
アリーゼは颯爽と立ち上がり、
「インフェルノギア。一つ教えておくが、私は意識を他の物体に移せるんだよ。つまり、木に意識を向けて操ることも可能なんだ。だからさ、このまま君を殺すね」
「はあぁぁ」
インフェルノギアは全身を燃焼させ、木々を焼き払う。
アリーゼは悪魔のような笑みを浮かべ、まんまと形勢逆転。
「やるな」
「そろそろ渡しも、本気で行くよ」
アリーゼが全身に火炎を纏わせた瞬間、戦いは過激する。
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