第25話 第六環境軍

 煙が砂浜へと吹き荒れた。

 光の矢を放ったシャインは、煙の中で光が放たれている場所へと向かう。すると、太い腕に付属されている太い拳が腹へと一撃を与える。


「何者……ぐはっ…………」


「〈大災害〉の幹部にして盲目と異名のつけられたシャインだったな。俺は第六環境軍の"将軍"だ」


 煙管きせるを吸いながら言う男の声に、シャインは動揺する。

 なぜなら、その男は環境軍の中では一際有名な男だったからだ。


 ーー煙管を吸いながら戦場を横断し、いついかなる時も冷静に対象を鎮魂する。常に相手を逃がす暇を与えず、与えたところで相手は既に罠に掛かっている。檻の中にいる獣ほど、扱いやすいもにはない。


雲術うんじゅつ幻鳳げんほう。環境軍史上最強の将軍……」


 怯えながら、震えながら、シャインは後方に足を戻していく。


「おいおい。今の俺にはそんな力はねーよ。まあだが、貴様程度を一方的に痛め付ける程度なら、容易いがな」


 拳の形を成した煙がシャインの腹へと進み、シャインは正面に光の壁を産み出し、その攻撃を防いだ。が、光はシャイン自体を囲んでいる。そんな状況で、たった一方向だけを護ったところで防げるはずがない。

 背後から拳の煙がシャインの背中を叩く。


「ぐはっ……!」


「あまいんだよ。『煙々食えんえんしょく』」


 煙がシャインを食らい、シャインは全身に擦り傷をつくる。

 シャインは地べたを何度も転がり、煙の攻撃から逃れる。が、シャインはソードを見失ったことに気づく。


「煙を払わねば……」


「何をするつもりだ?」


「知っているか?光とは、物質であると」


「それが、どうかしたのかな?」


「払え、我が羨望なる光の導きにより。さあ、天から降り注ぐ無数の刃ですら、我が巨大なる天の鎖で破壊しようぞ。『光臨こうりん』」


 空にあったはずの光が地へと落ち、世界は朝から夜へと時を速めた。

 そのありえることのない現象に、第六環境軍将軍は何が起きたのかと目をギョロつかせる。

 さらに驚いたのはそれだけではない。その光が地に落ちたことにより、煙が一片残らず周囲から消失した。これはまるで、神の御業。


「雲術幻鳳。今回ばかりが私の逃亡だ。だがしかし、次こそは貴様のその首を跳ねてご覧いれようじゃないか。ケッケッケッ」


 薄気味悪く笑うシャインの声が残像のように響き渡り、ソードとシャインの姿は既にその島からは消えていた。


「逃げられたか……」


「雲術将軍。島全土の消化はほぼ不可能です」


「どのくらいの領土は護れそうだ?」


「それがですね……。実は、皆必死に火を煙の能力や水爆弾などを使って消しているのですが……火が、全く消えません」


「またあの時と同じ、火炎か?」


「はい。しかも今回の火炎は完全バージョンです。どこの場所も消えません」


 第六環境軍将軍は冷静に煙管を口から放し、そして煙を吐く。

 ため息を隠すようにして吐かれた煙は、静かに夜空へと舞う。

 沖には六と大きく書かれた第六環境軍の船が一隻。


「そこの少年。君はなぜここにいる?そしてなぜ〈大災害〉のメンバーと戦っていた?」


 第六環境軍将軍は傷だらけの戦に目をやり、問う。


「俺は第四環境軍の兵士なんです。ですが、第四環境軍は〈大災害〉の手によって、に魔人の巣窟となりました。魔人によって支配されたあの島には、まだ俺たち第四環境軍将軍や、民間環境軍将軍、他にも多くの兵士が取り残されたままになっているんです……」


「そうか。ではそこから逃げて、この島に流れ着いたのか……」


(さすがは斬花と根羅々だな。まああいつらのことだ。死ぬまで戦っているだろうな)


「少年。君の他に誰かいたように見えたのだが、彼らはどこにいった?」


「森の方へ、逃げていきました」


「火の中を!?」


 その頃、火炎に染まった森の中にてーー


「神野。このままどこに逃げるの?」


「ああ。それは……」


 その言葉を閉ざすように、神野の腹には一本の矢が刺さった。

 アリーゼと早乙女は周囲を見渡すが、誰もいる気配はない。だがそんな中さらに一本の矢がアリーゼの左腕へと放たれる。が、アリーゼは左腕を燃やし、矢を当たる前に焼失させた。


「誰だ?」


 そう言うと、木の中から一人の少年がすり抜けるようにして出てきた。


「初めまして。僕の名前はウッダー。ウッドマン博士の子供さ」


「子供!?」


 ウッドマン博士のことを詳しく知らない早乙女とアリーゼは、一体何のことを言ってるのやらと首を傾げる。だがしかし、神野だけは激しく動揺する。


「お前が、ウッドマン博士の子供だと。ありえないんだよ。ウッドマン博士は優しい人だ。人を簡単に死なせたくないから、心からぶつかってくれるいい人だ。だがお前からは、ただの悪人のにおいしかしない」


「へえ。においを感じられるんだ」


 言葉遊びをしているウッダーという少年に、地べたに横たわって腹の痛みに耐えている神野は、手をかざして火炎を放つ。


「危ない危ない」


 火炎の球体はウッダーをすり抜け、ウッダーは神野へと歩み寄る。


「そうはさせない」


「無駄だよ」


 早乙女が暴風をウッダーに浴びせるも、なぜかウッダーには当たっていない。というよりかはウッダーは幽体のように何もかもを通り抜けている。


「お前、死んでるのか?」


「正確には仮死状態。つまり、今の僕は魂だけの存在なのだ。だからこそ君たちの攻撃は通じないし、尚且つ君たちに攻撃するには恩恵の力を使わなければならない」


「何を言っている?」


 早口で述べるウッダーに、神野は刃物に形状させた腕を、自分にすぐ近くでしゃがみこむウッダーの喉に当てる。


「言わなかったっけ?僕に誰も触れられないって」


 ウッダーは近くの燃えている木に手を触れると、その木はねじれて尖り、蛇のように動いて神野の喉元へと進む。


「まあ僕のいうことを聞け」


 喉に木を当てられ、早乙女とアリーゼも無用心には動けなくなった。


「じゃあ話を続けよう。実は僕はウッドマンの子供で、尚且つウッドマンよりも優秀な頭脳を有している。だからこそ自らを仮死状態にできるし、君たちをいとも容易く殺すことができる。それでだ、問題に正解できたら生かしてやろうと思うんだよね。それはだね、僕がカタストロの仲間かどうか。どっちだと思う?」


 本当にくだらない質問に、僕はため息をこぼす。


「お前がカタストロの仲間になっている理由が解らないがな」


「どうしてだい?」


 自信満々で言う僕に、ウッダーも自信ありげに聞き返す。


「だってお前、ウッドマン博士より優秀なんだろ。だったらウッドマン博士が誘拐される理由は何一つない。さらに言えば、お前はここで研究していた際に、〈大災害〉に襲われたのだろう。だからこそ万能である仮死状態となり、危険を犯してまで戦場にいる」


「正解」


「じゃあお前はどこの組織にも所属していないのか?」


「当たり前だろ」


「じゃあなぜ僕たちを襲った?」


「君たちが〈大災害〉かを確認するためさ。で、結局君たちは〈大災害〉に敵対する環境軍だった」


 そうか。こいつの狙いはそれか。

 僕はウッダーの会話で、彼が今望んでいるものが何かを理解した。


「お前、ウッドマン博士を取り戻したいのか?」


「ああ」


 なるほど。今は優秀な仲間がほしいとは思っていたが、こんなところでいい奴に出会うとは、なかなか僕も強運の持ち主だな。

 自分で自分を讃え、僕は提案をする。


「ウッダー。僕らとともにウッドマン博士を救出しないか?」


「ああ。その言葉を待っていた」


「じゃあすぐにでもウッドマン博士を救出しよう、言うところだが、僕たちが戦闘を担うことになるだろうから、体力だけは回復しておきたい。なあ、休憩する場所はあるか?」


「ああ」


 ウッダーが地面に手をかざすと、地面には特大大きな穴があいた。


「そこへ入れ」


 早乙女とアリーゼは困惑している。

 だがしかし、ここに逃げなければ二度と逃げることはできない。


「アリーゼ。早乙女。行くぞ」


「そうだね。確かに行くしかないかー」


「目が見えてなかった方がよかったかも」


 二人とも愚痴を吐きつつも、すぐに穴の前へと歩いた。


「じゃあ行くぞ」


 僕たち三人は一斉に穴の中へと飛び込んだ。薄暗い蛇の口の中のような道をくねくねと進み、そしてひとつの大きな一室へと尻餅をつく。

 一面真っ白ではあるが、そこには最低限の食糧や物があった。


「ここは……?」


 やべー。眠くなってきた。

 僕は疲れていたせいか、この部屋に来た瞬間にぐっすりと眠りについた。

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