第22話 体温
なぜか宙を舞うカタストロの右腕。
そして微笑むアリーゼの拳には、火炎ではなく電撃が纏わされていた。
「たしかアリーゼは……火炎の力だったはずだが……」
「正確に言うと、私は伝導体と呼ばれる特殊体質を持つ。つまり、神野みたいに周囲の環境に応じ能力が変化する。まあでも、火炎の能力も持ってるから、実質無敵なのよね」
困惑していた僕に、アリーゼは達者に語る。
「あと神野、言っておくけど、あんた、もう少し力の使い方を考えたら?火炎っていうのは、もっとこう、繊細なものよ」
アリーゼは、自分の背後で失くなった腕の部分を押さえているカタストロの方を振り返り、火炎を剣の形に変化させ、その剣を上から下へと振り下ろす。
電磁波で防がれているはずだが、アリーゼの火炎の剣はいとも容易くカタストロの背中を突き刺した。
「カタストロ。お前は私を舐めすぎた」
アリーゼの圧倒的すぎる強さに、カタストロは表情を暗くしたまま倒れ込む。
「おやおや。〈大災害〉の王ともあろう者が、もう死ぬか。これはこれは、いい景色じゃのー」
口調を変えて勝利に浸るアリーゼだった。
だがしかし、カタストロは血まみれの状態からでも容易に立ち上がった。
「ええっとだね……アリーゼ・アーカイブズくん。君、私を舐めてるだろ」
斬り離された腕が宙を泳ぎ、アリーゼの頬に一撃をいれる。さらに体勢を崩したアリーゼに、カタストロは左手を当てる。
「電気ショック&フリーズ」
電撃をからだに流され、さらには全身をくまなく凍らされた。
凍結したアリーゼを、カタストロは破壊しようと腕を振り上げた。
このままじゃ、アリーゼが死ぬ。それだけは、阻止しないと。
「『餓狼拳』」
拳を狼と化し、その拳でカタストロの頭を噛むが、やはり電磁波によって防がれる。
それでも、僕は、アリーゼを救う。
「そうだな。まだお前らには見込みがある。あの生け贄となる見込みが」
カタストロがそう呟いた瞬間、僕の脳には電流のようなものが流された。
そこで、僕は目を覚ました。
呼吸を荒げ、伸ばされたバネが元に戻る時のようにして僕は起きた。
僕のベッドのすぐ横には、アリーゼが静香に立っていた。
「あら、もう起きたの?」
「ああ。そういうお前は、ずっとそこにいたのか?」
「当たり前でしょ。速くあなたに記憶を戻してもらわないと、何もかもが手遅れになっちゃうんだから」
何かに思い詰めたような顔をし、彼女は手に持っていた残り少ないコーヒーを、ゆっくりと飲み干した。
「そういえばさ、どうして僕は記憶を取り戻せているんだ?だって記憶を忘れ去られているんだろ。だったら思い出せるのはおかしいんじゃ……」
そう言う僕に、アリーゼは首を二十度ほど傾げた。
「そう言えば言ってなかったけど、神野に飲ませた水の中に、このカプセルを入れてるの」
そんなことは知ってたよ。
「そのカプセルにはどんな効果があるんだ?」
「それはね、このカプセルには対象者の体から電気による侵食を根絶する効果が含まれているの」
どういうことだ?
魚のような無表情をしていることに気づいたのか、アリーゼはハッとして説明を付け加える。
「そもそも神野の記憶はカタストロの電気の力によって束縛されているの。だから電気の力を取り除けば、神野の記憶は少しずつだけど戻っていくの」
だがしかし、僕の記憶の先に一体何があるのだろうか?
アリーゼは何もかもがどうかしちゃうとか言っていたけど、何もかもって、言葉通り何もかもなのだろうか?
僕は一体、何なのだろうか?
「ところでさ、神野は、私となら、死ねる?」
そうアリーゼが呟いた途端、早乙女が目を擦りながら起きた。そして早乙女は目を開け、僕の方を見ている。
確か早乙女は目が見えなくなっているはずなのに、どうしてか、こっちを見ている。
「教えておくけど、私が持っているカプセルの中には、光による侵食を取り除くカプセルもある。だからつまり、」
「早乙女……」
僕は早乙女へと抱きついた。
温かく、優しい早乙女の温もりが、肌で感じられる。
「ちょっと何?私が視覚を取り戻したくらいで、少し喜びすぎよ」
「早乙女。早乙女ー」
泣き崩れる僕の頭を、早乙女は優しく撫でる。
「神野。頑張ったね」
「早乙女ー」
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