第20話 離島遭難

「神野。起きろ」


 戦の声。

 その声で、僕は目を覚ました。


「おー。起きたか」


 まず目に入ったのは、僕が目覚めたことを喜んでいる青薔薇戦。

 その次に目に入ったのが、戦の背後に平然と立っている〈大災害〉のメンバーである女性。彼女は手錠などつけられていないのに、逃げもせずにそこに立っている。

 不思議な女だ。

 最後に目に入ったのは、一面に広がる大海と砂浜にそびえ立つ巨大な木々の数々。


 何で僕たちはここにいるんだろう?

 薄れている意識の中で、僕は戦に質問を投げ掛ける。


「なー戦。ここは、どこだ?」


「そうか。覚えていないか……」


 額に手を当て、戦は少しため息を吐いた。


「神野。俺たちは船で第四環境軍の島から逃亡した。海に逃げられたはいいものの、突然海が荒れ出した。神野は必死に火炎を注ぎ込んでスピードを上げていたが、一向に島にはたどり着かなかった。結果、俺たちは嵐にのまれ、起きたらこの島にいた、ということだ」


 徐々に取り戻しつつある記憶の中で、僕は女性の顔を見る。

 どこかで見たことがあるような、と感じていると、彼女は夢の中で見たあのアリーゼであった。


「どうして……アリーゼがここにいるんだ?」


「何よあんた。どうして私の名前を知っているわけ?まさか、この薬が本当に効くなんて……」


 アリーゼは一人でボソボソと呟くと、僕のすぐ近くまで近づき、しゃがみこんだ。


「神野王。どこまでの記憶を思い出した?ねえ、速く教えて」


 肩を揺らして急かしてくるアリーゼに、僕は記憶を掘り起こす。

 やはり夢というのは、儚く記憶から薄れてしまう。

 水で薄めた炭酸のように、徐々にその味がどんなものだったのかが忘れてしまう。そんな感覚。


「そういえば、カタストロと戦った瞬間、僕は起きた気がする」


「いつよそれ?そんなんじゃ解らないよ。もっと記憶を掘り起こして」


 焦るアリーゼに影響され、僕も焦り始める。

 掘り起こせ、自分の記憶を。と心の中で何度も思う。


「アリーゼと最後に会ったのは、釣りに行くって言ったきり。僕はその後アリーゼを探しに砂浜に行った時、森が燃えてカタストロが現れた」


 アリーゼは虫のようなため息をこぼし、一瞬僕を睨む。


「速く思い出しなさいよ。私はあんたに記憶を戻してもらわないと困るからね」


 もしあの夢に続きがあるのならば、一体どんな展開が待ち受けていたのだろうか?

 カタストロに敗れるのか、それともカタストロから逃げたのか?

 最終章を迎えたマンガのように、続きの展開が気になって仕方がない。


 僕は悲しげなアリーゼの背中を見送り、戦の背を追って森の中にある小さな山小屋へと入った。


「ここは?」


「見ての通り山小屋だ。それ以上それ以下のことは何も解らない。が、アリーゼという女はこの島について何か知っているらしいがな」


 得意気に話す戦の話に耳を傾け、僕は様々な考察をする。

 だが、色んなことが起きすぎて頭がパンパンだ。


「神野、今日は休め。明日からここから出る方法を模索する」


「解りました」


 山小屋の四隅にある四つのベッドの内、僕は入り口に入ってすぐ右にあるベッドに入ることにした。

 アリーゼを薄目で追うと、彼女は電気も繋がっていないであろう冷蔵庫から水を取り出し、コップに注いで水の中にカプセルのような物を入れた。


「神野。これ飲んで」


 僕は渡されたコップを渋々持ち、何かが入っているであろう水を飲み干す。すると睡魔に襲われ、僕は寝入った。







「神野。大丈夫?」


 また、夢を見たらしい。

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