第二章 一直線な悪

孤島絶望編

第19話 夢の中

 僕は、夢を見た。


 ※※※


「はじめまして、私はアリーゼ・アーカイブズと申します」

 紅の髪色をした美少女。長い髪を後ろで垂らしている。


「俺はスペイシー・アンカー。まあ流れ者として、お前らとの格の違いを見せつけてやろうと思う」

 黒髪短髪の少年は、片目を覆う眼帯に触れ、わざわざ声を大きくして叫んだ。強者の風格を見せるスペイシーに、周囲はどよめく。


「私は藍原加奈かな。よろしくー」

 藍色の髪をしたお少女。彼女は無愛想な挨拶をし、目線をすぐに背けた。


「僕は神野王。よろしくお願いします」

 僕はそう言って、言葉をつまらせた。


 僕たち四人は、どこかの島へと流されてしまった。

 皆どういった経緯があるのかは解らない。だが、皆が能力を持っているというのだけは解った。


 砂浜で僕たち四人は円をつくる。


「ところで神野、お前の能力はコピーだよな。じゃあ私の能力をコピーして、適当に狼煙上げてくんないか?」


「アリーゼがやればいいじゃんか」


「いやいや。私はこれからスペイシーと洞窟を探してくるから。だから神野と藍原は狼煙上げたあと魚でも釣っておいて」


 ポイ捨てした空き缶のように僕はそう言われ、渋々アリーゼの瞳を凝視し、能力をコピーした。あとは狼煙を上げるのだが、それには木の枝が必要だ。

 僕は森に行くため、藍原に、


「藍原。僕は今から森行って木の枝でも取ってくるから、藍原は魚釣っておいてくれないか?」


 ちゃんと藍原に聞こえるように言ったつもりなのだが、藍原は聞こえていませんみたいな感じでスルーし、まるで僕が独り言を言ったかのようになった。

 血が頭に上るのを感じ、僕は森の中へと入っていった。

 森の中へ入る寸前、僕は砂浜で体育座りをしている藍原を見ると、藍原の瞳からは涙が溢れていた。


「全く、確かにこの島に流されたのは悲しいけど、いつまでもそれを引きずるなっていうねん。そんなんじゃ大人にはなれんのに。ったく……」


 なぜ藍原が泣いていたのか?

 それは島に流されて寂しいという思いもあるのだろうけど、それ以外に何かがあるのかも、とその時は思っていた。


 次第に暗くなり始め、僕は十分木の枝も取ってきたので砂浜へと戻った。戻ってくると、なぜか砂浜には藍原はいなかった。

 すぐに木の枝を置き、僕は叫んだ。


「藍原ー、藍原ー」


 だが一向に返事は返ってこず、その日は僕一人で砂浜で寝た。

 目を覚ますと、僕を覗き込むようにしてアリーゼとスペイシーが僕を見ている。


「ちょっと神野、どうして狼煙を上げなかったの?」


 そういえば忘れていた。

 僕は後頭部をかきながら謝り、木の枝に火を灯そうとした。だが既に火は灯っており、アリーゼがやってくれたのだろうと思い、アリーゼに感謝した。


 僕が周囲を見渡すと、アリーゼは聞いてきた。


「どうしたの?神野」


「いや……。藍原はどこにいったんだ?」


「あいつの能力って何だっけ?」


 そういえば藍原だけが自分の能力について言っていなかった。

 僕はコピーの能力、アリーゼは火の能力、そしてスペイシーはあらゆる生物に変身する能力。


「それよりも洞窟を見つけた。移動するぞ」


「でも藍原が……」


 だが二人は彼女のことなど気にせず、せっせと先に行ってしまった。

 僕は一人になるまいと、二人の背中を追いかける。


「神野、くん」


 背後の海から気配を感じたが、振り向いても誰もいない。

 きっと気のせいだと思い、僕はまた二人の背中を追いかける。


「待ってー」




 洞窟へつくなり、僕は地面に無造作に置かれた木の枝に火をつけ、スペイシーとアリーゼが捕まえてきた動物をその火炎で焼いていく。

 豚に猪に狼、よくもまあこんな動物たちをいとも容易く捕まえられるものだな。


 アリーゼとスペイシーはまたどこかへと行こうとしていた。


「どこ行くんだ?」


「魚ほしいなって思って」


「いってらっしゃい」


「うん。すぐ戻ってくるから」


 笑みを見せ、アリーゼとともにスペイシーが去った。

 僕はここで一人となり、寂しさが僕を襲う。


 そういえば僕は、ここで何をしているんだっけ?

 そういえば……何かもっと大切なことをしなくちゃいけなかったような、そんな気もする。だがどうしてだろう、その何かが靄がかかったようにみえなくなる。


「何時間経ってもアリーゼたちが帰ってこないので心配になり、僕は暗い森の中、火をつけた枝を持ち進む」


 一歩一歩、静寂を壊さぬようにして進み、あっという間に砂浜へついた。だけどそこには誰一人としていなかった。

 すれ違ったのかと思ったが、そんなわけない。暗い夜道、必ず彼女らは火を使って歩く。なら光が見えるはずのなのに、一切見えなかった。


「まさか……猛獣に倒された?」


 そんな気がし、森の方を振り返ると、なぜか森が燃えていた。激しい轟音と煙を上げ、この島の大半を覆っている島が燃えている。その不思議な光景に目を疑い、僕はただ呆然と立ち、何もできなかった。

 もしかしたら森の中にアリーゼとスペイシーがいるかもしれない。だというのに、僕は何もできず、ただ見ていることしかできなかった。


 そんな僕に、一人の男が歩いてきた。

 スペイシーと同じく右目を眼帯で覆い、その男は歩いてきた。


「初めまして。私は、カタストロ。少しばかり、君には期待をしようと思う。もしかしたら、君なら私を殺せるかもしれないからな」


「どういうことだ?」


 何もせずに立っている僕を見て、カタストロとい男はがっかりとしている。


「襲ってこないねー。じゃあ一つだけ悪い情報を教えてやろう。アリーゼとスペイシーを殺したのは、私だよ」


 その言葉を聞いた途端、僕は殺意にのまれた。

 仲間を殺しておいて、彼は笑顔でそのことを語っている。


 僕は砂を削り、拳に火炎を纏わせた。


「アリーゼ。その力、使わせてもらうよ」


 僕はアリーゼの力を使い、火炎を拳に出現させる。だがカタストロ同様に、拳に火炎を出現させた。


「コピーか?」


「違うよ」


 そう言い、カタストロはもう一方の手から電撃を発生させる。


「私はこう呼ばれているんだよ。天変地異」


 火炎と落雷、さらには津波に竜巻といったあらゆる天災がカタストロの手から放たれる。だが海が僕を覆い、ほとんどの攻撃はかすれ傷程度。

 海から投げ出され、僕は砂浜に横たわった。薄目を凝らしてカタストロを見ると、カタストロの前に一人の少女が立っていた。


「藍……原……?」


 そして、僕は目を覚ました。

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