第四環境島包囲網編

第15話 火炎の魔王

 将軍とともにこの施設を放浪していると、"災"の文字が刻まれた紙で顔を覆った二人が早乙女へと襲いかかる。


「『斬』」


 将軍はその者たちをたった一振りで切り裂いた。

 一振りの攻撃で、その者たちは石ころのように地面へと這いつくばった。


「神野。念のため、青薔薇の能力をコピーしておけ。時間制限があるとはいえ、急に襲ってきた際に対応できなくなるのは痛手だ」


「はい」


 僕のコピーにはもちろん時間制限がある。なければ絶対的過ぎる力になるだろう。

 僕の時間制限はおよそ一時間。

 魔人を掃討するのにかかる時間は、三時間は余裕でかかる。つまり、単独での行動は無能力者が魔人と戦闘することに等しいわけだ。


 僕は戦の目を見て、戦の能力をコピーする。

 腰から尻尾を生やし、戦闘態勢に入る。


「戦。何かあれば神野のそばにいてくれ。頼んだ」


「はい」


 僕は将軍の背中を見て返事をした。

 将軍は早乙女を片手で浮き輪を持つように抱えながら、この館内を走っている。相変わらず将軍と常軌を逸している。


「ところで将軍。どこへ向かうのでしょうか?」


「この館内の外にある気球船。それに乗ってここをいち速く去るぞ」


 確かに今はその方法しかない。

 だが、気球船は蚊のようにゆらゆらと漂うことしかできない。そんなもの、彼ら〈大災害〉の格好の的ではないか。


 僕は額から流れる汗を肩にこぼす。


「見えたぞ。出口が」


 館内から出るための出口が目の前にはあり、僕たちの表情は少しずつ明るくなっていた。

 数十歩先にある気球船に乗れば、僕たちは助か……


「『クリムゾンフレアー』」


 気球船はいとも容易く炎上した。

 気球船はまるで鍋の中の野菜のように、グツグツと燃え盛る。


「将軍……逃げられない……」


 先ほどまで冷静沈着だった将軍でさえ、心の奥から沸き上がる武者震いに体を震撼させていた。


「あなたが民間環境軍の将軍、刀術斬花ですね。俺は〈大災害〉のメンバー、インフェルノギア」


 火炎をかき分けて現れた男は、全身に火炎を纏わせたまさに"火災"と呼べる存在。

 男は手をこちらへとかざしてきた。

 何をするのかと思ったら、


「避けろおおおおおお」


 火炎が牛のような勢いで僕たちを襲う。

 僕たちは皆左右へと避ける。僕は火炎を避け、先ほどまでいた場所を見ると、そこには足が地に埋まった将軍がいた。


「将軍!」


「『斬』」


 銀色の戦慄が火炎を真っ二つに切断した。

 散りゆく火炎は地面を削り、僕と戦のすぐ真横を通り抜けた。


「お前ら。大丈夫か?」


「はい」


「生きてはいます」


 将軍は見事に火炎を切り裂いて見せた。


「なかなかやるな。だがいくら強かろうと、この島から抜け出すことは不可能だ。だって、既にこの島は千を越える魔人が包囲しているからな」


 驚愕。

 僕たちは、恐怖にのまれた。


「ここから抜け出すには、じゃ無理だよ」

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