第8話 移植ベース:木の魔人
僕が目を覚ましたのは、地下室の冷たい地面の上。
どうやら僕は、あのスーツの男に敗北したらしい。
「神野王。なかなかに鍛えがいがありそうだ」
スーツ姿の男は寝転がる僕を見下ろす形でそこに立っていた。寝転がる僕はその男を見上げる。
相変わらず尻からは木の根で創製された尻尾が生えていた。
「あのー、僕の能力には結構欠点があるんですよ」
「確かにな。見た感じだと、相手の目を見ることで、相手の能力をコピーするという能力。だが、本人のように自在に操ることはできず、尚且つ威力も本人よりは劣る。まあ、相手が俺だったから弱くても当然だ」
「僕にはもう一つ弱点があるんです」
「そうか?もうない気もするが」
「僕は一人じゃ何もできないんだ。誰かがいないとコピーできない。僕には何の能力もないから。だから僕は……早乙女を護れなかったんだ……」
僕の瞳からは涙が溢れていた。
もしこの先同じようなことがあったらと怖くなり、僕は簡単には前に歩めなくなってしまう。
「神野王。俺の能力は先天性のものじゃない。後から身に付けた後天性の能力なんだ」
「後天性?」
聞いたことがない。
そもそも自然に関する能力は"恩恵"と呼ばれ、生まれた時に授かるものだ。その能力を生まれた後に得ることなどできないはずなんだ。
「俺は根を腰に移植した」
言われてみれば、この男の能力を自在に操れなかった。
僕は恩恵なら自在に操れるが、彼のような特殊な恩恵を授かった者の力はあまり上手に扱えない。
もし僕が根を移植すれば、コピー能力を使えなくとも誰かを護ることができるようになるだろうか?
「僕にも、根を移植してください」
「いいだろう。だが試練を受けてもらうぞ」
試練?
僕は戸惑いながらも、男の背を追ってとある空間へと向かった。
「森の中?」
あの地面だけの地下室を抜けると、そこに広がっていたのは虫や動物が戯れている大自然であった。
木々の中を熊が追いかけっこしていたり、蝶々が風に揺らされるがままに流れるプールを漂う飛びをしていたり、猫が木の上を飛び移っていたりと、とても美しい景色であった。
その森の中に、ポツンと一軒家があった。
丸太だけで作られたその小屋に、男と僕は入る。
「ウッドマン博士」
その呼び掛けとともに、木製の椅子に腰かけていた若い女性が目を開けた。
白衣を着、若い女性。
「
「この少年が移植をしてほしいと言うことで、ウッドマン博士、よろしくお願いします」
「よろしくお願いしますじゃねーよ」
ウッドマン博士は飛び上がってつっこむ。
「お前。移植っていうのは死ぬ危険があるんだぞ。移植とは無理やり木属性の恩恵を体に宿す技術。だがこの技術は私しか知らないし、この先誰にも教えるつもりはない。なぜだか分かるか?」
「いえ……」
「悪用されるからだよ。もし移植に失敗すれば、木の魔人になってしまう。それは移植ベースとなる移植の木の魔人の核に体を乗っ取られるからだ」
ウッドマンは本棚から一冊の本を取りだし、広げて読む。
「魔人には核がある。その核を体に移植することで、その者に恩恵を無理やり授けることができる。現在可能なのは、木、土、風だけ。あとは不可能だ。神野王、この移植はトイレのように気軽に行えるようなものではない。それでもお前は移植するか?」
死ぬかもしれない!?
だが、男は移植に成功している。でももし死ねば……早乙女にはもう会えない。
「神野くん。君の能力を見せてもらう。地下室へ行こうか」
地下室にて、僕とウッドマン博士は刀を持って向かい合っている。
「君の能力はコピーだろ。なら戦の能力をコピーし、私を捕らえてみせよ。もし君が扱いを上手くできたのなら、移植をしてやる。さあ、かかってこい」
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