第6話 奪われた視界
僕は早乙女を救うため、真っ直ぐと早乙女のもとへ走っていた。
手を刀にして早乙女を斬ろうとした女の腹を蹴り、遠くへ吹き飛ばし、目を押さえている早乙女を見る。
「早乙女。大丈夫か?」
「目が……見えない。視界が……真っ暗。目を開けても、何も見えない」
目から血は出ていない。それと早乙女の症状を見れば、何が起きたのかを大体見当はつく。
僕は早乙女を襲った二人の女性を見る。
「お前ら。早乙女の視界から光を奪ったのか。なかなか面白い応用技だな」
「お前。すぐに見抜くとは、やはりあのお方は見込んだだけはある」
「何を言っている?」
「神野王。早乙女という女には消えてもらうことにした。だって、とある話を聞かれてしまったからな」
二人の女性が去ると、森を掻き分け、海の魔人が森の中へと侵入してきた。
「海を越えてきたのか……」
四方を囲まれた僕と早乙女には、逃げ場はない。
さらに、早乙女は視界を奪われている。そんな早乙女を、救い出すには海の魔人を殲滅する他ない。
早乙女の能力をコピーできればいいが、早乙女は視界が真っ暗になり、僕と目を合わせることができない。僕が視覚型の能力をコピーする際には、相手と目を合わさなければならない。だから視界を塞がれた早乙女の能力はコピーできない。
「それでも……やるしかないよな……」
僕は拳を構え、海の魔人を迎え撃つ。
「せぇぇぇえええい」
掛け声とともに拳を振るい、人の形をした海の魔人の腹を殴り、後ろに合った木へとぶつける。
「さあ、次」
「神野。私なんか放っておいてよ。私なんか助けても、あんたにメリットなんてないでしょ。だから私をおいてどっかに去ってよ。私が足手まといみたいで……死にたくなるよ」
「だったら目を開けてちゃんと戦え。僕はお前なんか護ろうとしていない。ただ、環境アセスメントをしているだけだ」
再び海の魔人が殴りかかってくる。
僕は海の魔人の拳をかわし、懐に迫って海の魔人を顎から殴り飛ばす。
次から次へと襲ってくる海の魔人に、僕は一歩も退けをとらずに戦いを挑む。背には早乙女がいる。
「はぁぁぁぁああああ」
だが、背から迫ってくる海の魔人に気づかず、僕は背中から海の魔人の拳をくらった。巨腕をくらい、僕は木にぶつかって頭から血を流して倒れる。
なんとか顔をあげて早乙女を見るが、早乙女には無数の海の魔人が近寄ってきている。
「やめろ……。やめろ……。やめろおぉぉぉぉおおおおお」
誰かが傷つくのはもう見たくない。
誰かが傷つくのは、自分に力がないからなんだ。
動けよ。体を起こして立ち上がれよ。立って、早乙女を護ってみせろよ。
どれだけ自分に厳しい言葉をかけても、体は言うことを聞いてくれない。
「僕は……弱いままじゃねーかよ」
海の魔人の拳が早乙女に降り注いだ瞬間、早乙女を囲んでいた海の魔人は粉々に切り刻まれて灰と化した。
何が起きたのかを疑ったが、早乙女のすぐそばには、我ら民間環境軍の将軍がいた。
「将軍……」
「すまんな。助けに来たぞ。若き才能たちよ。既に空には気球船が来ている。乗り込むぞ」
僕が早乙女を担いで気球船へと乗り込み、気球船の中へと入った。
「早乙女。神野。無事でいてくれてよかった」
将軍は泣きながら僕たちの生存を喜んでくれた。
この人は相変わらず涙脆い。だから僕たちもつられて泣いてしまう。
「ところでだ、あまりに急いで来たもので、燃料がない。だからすぐ近くにある第四環境軍の島に着陸する」
「はい」
「そこで早乙女の治療もしてもらう。では、それまで寝ていろ」
「はい」
僕は床についた。
海の魔人との戦闘で疲労困憊であるが、早乙女を救えたので一件落着だ。
僕と早乙女は怪我人ということもあり、隣同士で眠っている。
「神野。あんた、自分のことを弱いままだとかほざいてたけど、それてどういう意味なの?」
「僕は昔、大切な人たちを失ったんだ。その事件があって、僕は自分の弱さを知ったんだ。誰よりも強いと思っていた自分が、目の前の人たち一人救えないクズだって、その時ようやく気づいたから」
「神野はさ、別に弱くないよ。神野は私を命がけで護ってくれたんだ。その分は感謝してる。だ、か、ら、ちゃんと自分に自信もった方がいいんじゃない。神野は感謝されるほどの強さはあるって。昔の神野がどうだったかは知らないけどさ、今のあんたは私のライバルなんだから、だから胸を張ってもらわなくちゃ困るよ」
「ありがとな。お前のおかげで元気出たわ」
感謝の言葉を言われたのは、何年ぶりだろうか。
ーー神野っち。ありがとね。
今ではいない彼女の言葉を、僕は何度でも思い出してしまう。
「神野。そろそろ寝ようか」
「ああ」
考えても仕方がない。今は体を休めよう。
僕は、静かに眠りについた。
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