第35話 撮影スタジオの………(ポンコツ撮影日記6)

今は無くなってしまったスタジオ。

昔は、処刑場だったと噂があった。

沢山の人が、そこで処刑されたらしい。


まだ、スタジオがあった時のお話だ。

撮影で使うスタジオは、白ホリ(ホリゾント)という床から壁一面を真っ白に塗った高さ10メートル・横20メートルくらいの場所であった。

そこに、セットや照明で色をつけて撮影していた。


私も先輩から、夜になるとスタジオに霊がでると聞かされていた。


撮影が終わったある日、撮影所のロビーで仕事仲間と飲みにいく話で盛り上がっていた。

玄関を出る矢先に先輩が、

「撮影の倉庫の鍵しめた?」

と聞いてきた。

誰にも鍵を閉めた確認がとれない為、私が

「俺が行って来ます。」

とスタジオへ。


スタジオへ向かう廊下は電気が消え、非常灯の明かりだけを頼りに歩いた。

うす暗いなか、ぼんやりとスタジオの鉄の大きな扉が見えてきた。

重い扉を開け中に入ると、不思議な事にかすかに明るさを感じた。

普段は非常灯の薄暗い光だけのはずなのに。

スタジオ奥のホリゾントの壁が一部分蒼く照らされているではないか。

その光景を目にした時、此処が元々処刑場だった噂を思い出した。


「霊がスタジオにいる。」


背筋にゾクッとする感覚と鳥肌が立ってきた。


「早くしなきゃ!」


私は小走りに、壁とは逆側の撮影倉庫に向かった。

スライドのドアは解放されていた。

近寄るにつれ、倉庫の中からナニかを引きずる音が聞こえてくる。


ズッ・ズッ・ズッ


誰かいるのか確認する事さえ怖くなった。

私は、ドアの前に立ち止まったままになっていった。

怖くて動けなかった。


ズッ・ズッ・ズッ


引きずる音が大きくなり、近づいて来たのがわかる。

音がとまった。


ドアの下の方に何者かの手がかかった。

ズッズッズーと音ともに、

首の無い人の上半身が見えた。

首から血が滴りボロッボロッの布きれを纏っている身体を更に引きずってくる。

こちらに向かって来ている。


「ウワッー!」

っと声をあげ一目散に玄関に走り始めた。


「でたっ・でたっ」


「スタジオに首の無い幽霊がっ。」


待っていたスタッフは知っていたかのように

「見たのか。」

冷ややかな感じで言った。


霊感の強い人は皆見ていたのだと後で聞かされた。

処刑場は噂でなく、本当の事だったのを確信したのだった。

現在は高級マンションになっている。

何事もない事を祈ります。








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