第22話 事故物件1 (臭い)

今から25年くらい前の話


友人の加山君は、都心の一等地Sに住んでいる。

それも築2年の綺麗なマンションだ。

私達の月給では払いきれないだろう。


ある日、加山君の部屋に呼ばれた。

エントランスからセキュリティが厳しく、家主の許可がなければ部屋に行く事ができない。(当時にしては最新のシステムだった。)


自慢気に加山君は、部屋を案内してくれた。

2DKの広々とした間取りだった。(男の一人暮らしからか、ベッド以外に家具が見当たらない)

私は、

「家賃いくら」

にこにこして答えない。

「給料で払えるの?」

「まぁ、あとでな」

教えてくれない。


趣味の釣りの話で盛り上がっていた時、唐突に、

「なぁ吉野、ここの家賃なぁ

タダなんだよ」

「タダ?」

「実は事故物件なんだ」

「事故物件って」

私は驚いた。


当時は、今と違って事故物件に住む人はなかなかいなかった。

それよりも一年住む事によって、事故物件の告知をしなくてすむ様な風潮があった。


「実はさぁ、一年の契約で住んでるだよ。

高級マンションだからこそ事故物件はタブーなんだ。

しかも1ヶ月5万円を支給されるんだぜ。

良いバイトだろ」

そんなバイトがあるなんて初めて知った。


「他にもいくつかまだ物件残ってたよ。

紹介しようか。」

「加山、俺は無理だ」

「そうか、残念だな。

紹介料貰えると思ったんだけどな」


こんな話を聞いたら、綺麗な部屋が不気味に見えてきた。


「加山、事故って何があったの」

「教えてくれないんだよ。

そういう規約になってるんだ」

なんか納得しない感がある気がした。


「怖くないの。

出るとかな」

「まさかぁ、俺見えないし。

幽霊とか信じてないからな」

と笑った。


あれから2ヶ月たった。

再び加山君から呼ばれて部屋を訪ねた。

「悪いな吉野、呼びだして」

少しやつれた顔で、私を迎え入れてくれた。

「実は、異臭がするんだよ。

必ず夜9時ぐらいになると臭うんだ」

私は、それに付き合わされるらしい。

その時間まで待つことに。


もうすぐ9時になる。

「どんな臭いがするんだ」

「気分が悪くなる臭いなんだが。

死臭?っていうのかもしれないな」

「おい、死臭だと」

やがて臭いが微かにしてきた。

アンモニアの臭いだった

鼻にツンとくる感じがする。


どんどん臭いが、強くなる。

それにともない臭いにも変化がしてきた。

糞尿が合わさった臭いになった。

私は、嘔吐したくなった。

我慢できないくらいの凄まじいものだった。


加山君は、冷静に消臭スプレーを撒き始めていた。

少しは和らいだ。

「吉野、すごいだろ」

「臭いの元は何処からくるんだ」

「キッチン辺りからなんだけど、ある程度すると無くなるんだよ」

窓を開け換気して、ようやく異臭はなくなった。


「加山は、原因わかってるの」

「たぶん心霊現象だと思うんだが」

霊とかを信じない加山君の口から、心霊現象という言葉が飛び出した。

「吉野はどうしたら良いと思う」

「そうだな、実際俺も体験したしな。

霊感があるやつ呼んでみるか」

「誰か、つてがあるのか」

「高校の佐野洋子って覚えてないか。

彼女良く見るらしいよ」


早速彼女にアポをとることにした。


二日後、嫌々ながら佐野さんは来てくれた。

駅で私と待ち合わせ、マンションへ。

エントランスで加山君が待っていた。

「悪いね、佐野さん」

「加山君、すぐにこのマンション出た方が良いよ!」

続けて

「どんどん悪くなるよ。

現にやつれてきてるよね。

精神的にくるからね。

上の方からドス黒い霧が降りてきてるよ」


エントランスで話すのもなんだから部屋に行く事に。

部屋の前に行くと、明らかに佐野さんがおかしくなった。

「無理」

泣きはじめた。

「中のものが邪悪すぎて入れない。

扉の向こうから睨んでいるのがわかるの」

「帰らして、加山君ごめんね、力になれなくて」

これ以上無理することはできない。


私達は、彼女を駅まで送って事にした。

マンションを離れるにつれ落ち着きをもどした佐野さんは

「本当にごめんなさい。

向こうの怨念が強すぎて。

加山君も元気なうちに出たほうが為だよ」

そう言って別れた。


「加山どうする。

とりあえず不動産屋に連絡してみたら」

「そうだな、退去するにしても話さなきゃな」


部屋に戻るなり電話をした。

不動産屋は、今すぐに部屋に来るというのだ。

私も加山君に頼まれ、一緒に話に加わることになった。


30分後、不動産屋が現れた。

黒スーツ、色の入った眼鏡、

私が思う不動産屋さんというより、怪しいブローカーに見えた。


彼に今まであった事を伝えると

「加山さん、うちで除霊しますのでもう少し待ってくれませんか。

今出ていかれちゃうと困るんですよね。

変な噂もたっちゃうし」

「謝礼の方も倍だしますんで、お願いしますよ」


加山君はお金に負けたのか

「わかりました。

とりあえず、除霊をお願いします」

「何時来てもらえますか」


「明日には手配できるのでお待ち下さい」

と言い残し帰っていった。


その後

「加山、大丈夫なのか。

退去しないで」

「だって吉野、10万円だぞ毎月。

明日には、霊能者が来て除霊できれば一件落着だぜ」

なんて能天気なんだ加山君は。

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