第12話 天狗

東京にも未だ自然豊かな霊山が残されている。

その中でも多摩地区のある御山でのお話しである。


高尾山には、天狗にまつわるお話しがいくつか残されている。

今回は、妖怪?精霊?実態はわからないが、天狗のお話ししていきましょう。


高尾山のお隣の御山には、今も天狗が住んでいる。


こんな話を聞いたのは、滝行の為訪れた宿荘(山荘)の主からである。

主は滝行を行うにあたって、我々にいろいろと教えてくれた。

祖先は、神主か山伏であったようで、今でも神聖なこの地を守っているという。


夕飯を終え、主を囲んで親睦を深めて時、唐突に

「この地は昔から天狗に、守られているんです。」

どうリアクションして良いか、苦笑いの私達に

「信じられないでしょ。」


「えぇ!」


「私も信じられないんですよ。」

と言って笑った。

「うちの娘が、6歳の頃の話なんですよ。

現在23になったんですけどね。」


主は娘から聞いた話、天狗の話をしはじめた。


彼女は毎日、近くにある由緒ある神社にお参りしていた。

神社の周りには、巨木が御神木として何本が奉られている。


ある朝、山々が白く煙るもやを纏って幻想的世界になっていた。

何時ものように、お参りをしに神社へ向かった。

時折、自分自身が白い世界に、飲み込まれそうな錯覚を覚えた。


樹齢1000年たっているであろう御神木

幹の直径が8メートルはある巨木

ふと上を見ると、枝のところに誰か腰掛けているのがわかった。


高い枝の上の人物は、山伏みたいな格好している。

顔はお酒を飲んでいるのか赤ら顔。

手のひらを顔の前に持ってくると、

ふぅっと息をかけた。

そこから無数のムシが、沸きだしたかのようにみえた。

それらは、霞がかかった様にぼんやり白く木々の間を飛び回っていく。


それらがやがて、私の前にも飛んできた。

良く見てみると、ムシでなく5センチぐらいの人の格好をしている。

背中には、鳥のような羽が生えている。

山伏風の装束をつけ、

顔にはクチバシがある

人とは違った面妖な容姿をしていた。


恐怖で声が出そうになった。

慌てて口をおさえて、声を圧し殺した。


何故そうしたか。

祖母から聞いた事がある話では、

「天狗にあったら声を出してはいけない。

見つかったら、連れて行かれるぞ。

昔、ばあちゃんの子供の頃、神隠しにあった子が何人かいたものさ。

天狗の仕業さ。

気をつけるんだよ。」


木の上の人が立ち上がり飛んだ。

その背中には、やはり羽が生えていた。


立ち去ったあと、辺りは晴れ渡り、何事もなかったかのようであった。

鳥がさえずり始めた。

一目散に走って帰った。

息を切らし靴も脱がずに、家にあがりこんだ。


それを見ていた祖母が

「どうしたんだい」

私は

「てっ・天狗・天狗がいた!」

と叫んだ。

落ち着くようにいわれ

今までの出来事を話した。


祖母がいうには

確かに、天狗が現れた。

小さなソレは、からす天狗と呼ばれる鳥の妖怪だと教えてくれた。

白いもやが人を消し去っていくんだと、

連れ去られ無くて良かった。

大人になるにつれて、見えなくなるもんだ。

気をつけるんだよ。

優しく抱きしめてくれた。



主は酒を呑みながら話してくれた。

信じるかは私次第。


翌朝、滝の荘厳な姿をみていると、神秘な力がそこあるのを確信した。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る