第10話 深夜タクシー

たまたま深夜に乗ったタクシーの運転手さんの話


夏のある日、

深夜一時を越えた頃、職場へ向かうためタクシーを拾う事にした。


5分ぐらいでタクシーを捕まえられた。

行き先を言って、暗い街並みや街灯をみていると

運転手さんが怪訝そうな顔で

「お客さん、人間ですよね。」

「エッ!」

私は、この唐突の問いに一瞬戸惑った。

運転手さんは申し訳なさそうに

「ごめんなさい。お寺から出てきたみたいにみえたので」

確かに私は、お寺のある通り沿いでタクシーを捕まえた。

真っ暗なので、そう思えても仕方ない。

「いえいえ、暗闇でいきなり立ってたら気持ち悪いですよね。」


「実は…………!

お客さん、

怖い話しは大丈夫ですか?」

「あっ、はい……」

先程あった話を運転手さんは、誰かに話したかったそうだ。


運転手さんは、霊感の強い方でよく車に乗って頂くそうで

その際は、必ずお祓いにいくらしい。


「さっきお客さんの前のお客の話なんですが、


青山墓地で、女性のお客を拾ったんですよ。

上下白の服を着た30代の小綺麗な方を。

髪は黒くロングヘアーでした。」


白い服が髪の毛をいっそう際立たせ妖艶であった事。

乗って来てもうつむき加減で、聞き取りづらいくらい小さい声で、

日暮里にある、古いお寺を指定した。


谷中から日暮里にかけて、多くのお寺や墓地が点在する。


静寂の車内

なんとなくいつもと違う雰囲気に、そっとラジオをつけようとスイッチを押したが、スピーカーから音がでることはなかった。


ミラー越しに見る女性は、深々とうつむいたままで、何かをぶつぶつ言っている。


「あぁ!また乗車させてしまった。」

と運転手さんは思った。


車は、いつも以上に漆黒待ちを走りすぎていく感じがした。


ここで少し怖くなったわたしが、話の腰を折るように

「怖くないんですか。

よく冷静に運転できますね。」

質問を投げかけると


「最初は、怖かったですよ。

しかし、私が乗るまで見分けがつかないんです。


生きてる人と霊が


車を置いて逃げ出す事もできないですし

殺される事もなかったので」


私だったら、恐怖で気がおかしくなってしまうだろう。


運転手さんは話を続ける。


窓の外にお寺やお墓が目につくようになってきた。

もう少しで到着。

少し気持ちが落ち着いてきた。

女性が呟いてた言葉がこの時ハッキリ聞こえた。

『般若はらみたじ……』

般若心経を唱えているのがわかる。

お経がこんなに怖く聞こえるとは


「到着いたしました。

ありがとうございました」

と運転手さんが言うと、

女性は黙って一万円を渡して、降りていった。


降りた女性を目で追うと、お寺を通りすぎて墓地に向かっているではないか。

そして、煙りを下記消すかのように消えた。


運転手さんは、手を合わせて、その場を急いで立ち去った。


「その後、お客さんがお寺の前で待ってたんで、びっくりですよ」

「この車、お祓いがまだなんで、何かあったらお客さんお祓いに行ってくださいね」


そう言って、事務所の前で降ろされた。

その後の私についてはまた次回にでも



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