第4話 心霊番組(ポンコツ撮影日記)
私はテレビ番組スタッフをしている。
夏は必ず心霊ネタをやってきた。
それに合わせるために5月末から6月にかけてロケを行うのが通年であった。
今回のお題は、『富士の青木ケ原で、自殺者の霊を徐霊する』というロケでした。
当日、青木ケ原樹海入り口で監督と霊媒師と待ち合わせをしている。
私達撮影スタッフは、カメラの吉野(私)、音声技師の佐藤君の二人だ。
やがてディレクターの原さんがやってきた。
「お早うございます」
お互い挨拶をかわす。
原さんの横には四十代後半ぐらいの小柄な女性が立っていた。
「今日、来ていただいた霊媒師の幽嘉さん(仮名)です」
「よろしくお願いします」
と小さな声で幽嘉さんは挨拶をした。
早速、原さんから今日の撮影の趣旨説明があった。
「今回の撮影は、幽嘉さんの紹介を兼ねた徐霊風景です。
なのでそんな奥地まで入り込みません。
用意ができたら出発しましょう。」
撮影の準備を整えて、樹海入り口から撮影開始。
幽嘉さんに質問しながら樹海へ入った。
彼女には、此処に着たときから見えているらしい。
見えない私達スタッフには、涼しい森の中としか思えない。
「あっ!あそこに。」
彼女は一本の木を指差した。
行ってみたが、なに一つ変わった点はみられなかった。
5分くらい歩いただろうか、辺りには人が入った形跡がある場所いくつかあった。
そこには、病院名のある飲みかけの薬袋やペットボトル。
また別の所には、食べ散らかしたお菓子の袋などなど。
ちょっと樹海に入っただけで、この有り様だ。
辺りは日光を木々が遮り、ひんやりしてる。
幽嘉さんは
「たくさんのさ迷い歩く人が見えますね。
みなさんも失礼のないように。」
と言って、苔むした木の元へ。
そして手を合わせて祈り初めた。
木の根元には、ビールの空き缶・コンビニのお弁当ゴミ・雑誌が落ちている。
「ここの方は、もっと奥に入っていって亡くなってます。」
「ここには、怨みや失望・絶望といった気が渦巻いてます。」
再び手を合わせて奥へ。
急に幽嘉さんが大声をだした。
「どいてっ!どいてっ!どいてよ」
カメラを持つ私の方に向かってきた。
いつの間にか手には1メートルくらいの枝を持っていた。
その枝を左右に振りながら、我々スタッフを退けるように
「邪魔だよ!邪魔!!」
その顔は先ほどまでの幽嘉さんではなく、眼を見開き、大きな声で怒鳴っていた。
私は何がおこったのかわからず、
その事柄を撮影するだけだった。
幽嘉さんはしゃがみこみ、ブツブツ何か言っている。
そのまま手を合わせて立ち上がった。
「今いきなりやってきた霊がいました。
私達が来たことが嫌だったみたいで、怒っていました。」
幽嘉さんに霊が降りてきたのだった。
ディレクターの佐藤さんは顔を青くして、
「いったん戻りましょう」
「帰り道筋、今の事を聞いていきますのでお願いします。」
幽嘉さんに話を聞きながら歩いていると、急にカメラの異常が
ファインダー内に警告表示がでてきた。
収録中の表示を表すランプは、点滅をしている。
やがて収録はストップしてしまった。
私は
「ごめなさい。止まっちゃいました。」
カメラの電源スイッチをオン・オフしながらディレクターに言った。
原さんは私に
「どう、なおる」
復旧を試みたが
「ちょっとムリみたいです」
原さんの顔は先ほどにまして蒼白く
「入り口に戻ってから、仕切り直しましょう」
道筋ながら幽嘉さんは
「こういう事は、良くあるのです。」
「前はスタッフさんがケガしたり、機材を落として壊したこともありました。」
「此処にいる皆さんが、来るな、撮るなと言っていましたのでしょうがないですよ。」
私は、まさかこんな事が本当におきるとは。
今まで機材の不調などのシーンは、演出だと思っていたのだが。
まさか自分にこんな事が!
困った!
なんと状況を説明したら!
私の頭の中はトラブルの事でいっぱいでした。
入り口に到着
再び、機材のチェックを
カメラの機嫌は治らず
原さんに
「これ以上収録できません。」
と伝えたら
「どこまで撮れてるかチェックしてください。」
「今後を考えましょう。」
幽嘉さんは車に乗って休んでいる
収録のチェックはどうにかできた。
入り口に向かって歩き始めた辺りからノイズがでてきていた。
私はディレクターの原さんにその事を伝えた。
原さんは、私を慰めるみたいに
「心霊番組なんで良くあるオチですね。
多分ロケ的には問題ありません。」
「お疲れさまでした。」
この時一言も喋らなかった佐藤君が
「聴こえたんです。
本当に聴こえたんです。」
早口で
「カメラがトラブり初めた時、ヘッドフォンに『でてけ』『でてけ』っと掠れた声が聴こえました」
泣きそうな顔をしながらうったえてきた。
再び幽嘉さんを呼んで、経緯を説明したところ。
「この場で徐霊をして帰りましょう。」
印を結び徐霊をしていただきました。
帰社後カメラのチェックを再びしたら問題なく
あの時はなんだったのか不思議な時間でした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます