第3話 訪問者

男の視線に、

私は寒気を感じた。

血の気の無い

作業服の男はこの世の者でない事を

確信したのだ。


私は恐る恐る

「なんで部屋に入りたいのですか。」



男は震えるように語り初めた

「私は、この建物の作っていたものです。

一年以上前にそこにいました。」

と、私の後ろを指した。

今まで私が作業してたテーブル付近だ。


「コンクリートの流し入れの作業中に巻き込まれてしまいました。

コンクリートは重く、私の脚を掴んで絞るように地中に引きづっていきました。

やがて顔にもコンクリが、息が苦しい。」


彼は、目には涙をためながら話を続けている。


「もがいたが、苦しいだけでムリでした。

やがて全てが止まってしまいした。

まるでテレビのスイッチを切ったように真っ暗になりました。

私は、死んだのです。」


「その後、何故かコンクリートに捲き込まれた私の死体の真上に立っているのです。

仲間たちは私に気がつきません。

見えないのです。」


彼は悔しい表情を浮かべながら


「行方不明の私の捜索もはじまりました。

いろいろな機械で地中などを調べて、この場所を発見する事ができました。


しかし、彼らは現段階での私の救出を諦めたのです。


私は遺棄されました。


莫大な費用と工事期延長などの問題で棄てられたのです。」


そんな事があって良いのでしょうか

私は恐ろしくなりました。


「だから、私はまだ此処にいるのです。

寒く、暗いこの建物に居続けてるのです。

入れて下さい。

その場所が、落ちつける気がします。

お願い入れて下さい。」


私は絶対入れてはいけないと思った。

怖くて声が出ない。

私は、絞り出すように彼に言った。

「お帰りください。

絶対入れることはできません。」

立て続けに

「絶対に無理です。

貴方の居場所ありません。

帰ってください。」


彼は、納得はしてないようだが、私の強い意思をわかったようだった。


振り返り、裸のマネキンが立っている売り場に向かって歩いて行った。

いつの間にか暗闇に溶け込むように消えていった。


この部屋に入れてしまったら、地縛霊として彼は居続けたのだろうか。


彼は今もショッピングモールをさ迷っている。


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