第2話 訪問者

その男性は三十代後半から四十代といった年格好で

黒いワークシューズ、上下灰色の作業服

頭には黄色のヘルメット

全体的に薄汚れしていた


「こんな遅くまでご苦労様です。

どうしましたか?」

男は

「入れてください」

と、放送室の中に目をやった。

部外者の出入りは禁じられているので

「申し訳ありません。関係者以外入れない規則なってます」


そう言うと、男はゆっくりとした口調で

「私、ずっと一人きりなんです」

「暗く、寒い中にいます」

「お願いです。入れてください」


どうしても中に入りたいようだ。

「理由もなく入るのはちょっと困ります。お帰りください」

と、断ったとたん男の表情が変わった。

ヘルメット越しに見える眼が私の眼を捕らえる。

その時、初めて男の顔をまじまじと見た。

顔は青白く、唇は紫色

男は私を睨み付ける。

苛立ちがあるがごとく唇を震わせながら

「入れてください」

と、引こうとはしなかった。



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