第5話 別れ

 おばあちゃんは、今日も出かけて行った。一緒に行かない? と言われたけれど、断った。だって、たかや来るもんな。

 ドリルを開いて、でも少しも進まないまま、時間が過ぎて。そうしているうちに、たかやがやって来た。昨日は面白かったな、そう言って、ニッと笑った。少し焼けた肌に、白い歯が映える。

「ねえ、あれから、どうやって帰ってきたんかな? 覚えてないんだけどさあ」

 やっぱり、流れ星見たの、あれは夢じゃなかった、そう思いながら聞くと、

「何それ? お前、ちゃんと自分の足で歩いて戻ったじゃん」

 と笑われた。そうか、やっぱりそうだよね。


 今日、というか、日付が変わって真夜中過ぎが一番星が降る流星群の極大で、そのまた次の夜(つまり明日の夜)は花火大会。今日の夜は流星雨観察にはいまいちだってことだけど、でも、また、たかやと見に行きたいな。見れなくても、見れなかったな、って話をしながら、あの星々の下を一緒に歩きたい。


「なあ、今夜ってか明日の夜中? また流星雨見に行かないか? あと、明日の花火大会も」

 もしかしたら、極大の今日は、そして花火大会は、地元の友だちと見に行くのかもしれない。だから、1日早く、僕に付き合ってくれたのかも。そんな考えが頭に浮かんだけれど、ダメ元で聞いてみた。顔が見れなくて、そっぽを向きながら。―本音は、自分と行くと言ってほしい。他の友だちも一緒に、というのでもなく、自分と、一緒に。

 さりげなく言ったつもりだったけれど、返事がない。恐る恐る様子をうかがうと、たかやは難しい顔をしていた。

「あ、無理ならいいんだ、別に」

 内心がっかりしながら、何気ない風を装って、そう言った。一緒に行けなくても、それはしかたがない。申し訳ないとか、思ってほしくなかったから。


「…うん。行けない」

「わかった。学校の友だちと、行くの?」

 聞くまいと思ったのに、つい聞いてしまった。うん、そうなんだ、と言われるのが怖いくせに。だけど、たかやは首を横に振って言った。

「…明日は、もう来れない。俺は、明日、死んだから」

「え…?」

 意味がわからない。明日が、なに? 口の中が乾いて、かすれた声で聞いた。

「意味、わかんないよ。死ぬだなんて―」

 言いかけた言葉は、たかやの声に遮られた。

「明日、死ぬ。殺されるから。だから、もう、来れないんだ」

 なに、どういうこと? 殺される、だって? 混乱していると、たかやはふっと表情を緩めた。

「じゃあ、俺、行くから。元気でな」

 そう言って、背を向けて走り出す。そのまま庭先の藪に分け入って行くのを呼び止めようとしたけれど、なぜか声が出せなかった。

 蝉の声が、周囲で、頭の中で、わんわんと響いた―。

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